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俺が彼女を嫁にするまで【はじまり編①】

「はぁ……」


 ホーランド家へ向かう馬車に揺られながら、俺は憂鬱で思わずため息をついた。

 俺はホーランド家に仕える家達をとりまとめている、ハーベスト家の当主だ。

そんな立場にいる者として、今困っている事があった。


 それはホーランド家は悪どい事に手を染めているから、王族に告発し、ホーランド家を取りおさえる許可を得てくれという進言をうけているという事だった。

 その進言をしてきた者達は同じくホーランド家に仕える家の人間達だった。彼らはホーランド家の一番の家臣であるハーベスト家の当主たる俺に旗印になってほしいようだ。

 純粋な正義感で動いているようで、証拠もしっかりつかんでいるらしい。


 俺は先ほどの俺の執務室でのドナルドとの会話を思い出していた。



『タナト様、お願いします。ホーランド家がしている事は汚職、贈賄、不正の嵐です。ハーベスト家の当主たるあなたが中心となり、ホーランド家に目にものをいわせてやりましょう!』


 そんな事を幼馴染みであり、俺と同じくホーランド家に仕える者の一人のドナルドにいわれ、俺は困りはててしまった。


 俺もホーランド家が悪事を犯していた事は気づいていた。だが、別にそれに取り立てて思う所がなかったので、放置していた。

 ちなみに俺自身はホーランド家の悪事に関わるような事は一切していない。俺は後々面倒な事になるかもしれない事はしない主義だった。

 逆にいえば揉み消せる程度の、はっきりと黒ではないが、グレーな事はしていないか? 鋭い問いだ、ノーコメントにさせてもらう。


『……それ、保留にしておいてもらえないか?』


 俺は数秒悩んだ末にそう言った。

 保留といったが、正直もう気持ちはほぼ決まりきっていた。


 答えは、否だ。


 ホーランド家への直訴に加担するのはリスクがある。もしそれの準備の途中でホーランド家にバレたら、自分の身がどうなるか分からない。

 しかもそんな事をした上で、俺に何の利益がある?ホーランド家の告発だなんて、ただただ面倒なだけではないのか?

そんな心を読んだのか、ドナルドは珍しく何か企んでそうな笑顔を見せた。


『タナト様の事ですから、正義感で動くような事はされないと思っていました。何かメリットがないとでしょう?』

『別にそんな事はないよ?私にも正義感ぐらいある。ただホーランド家への忠義の気持ちもあって、その気持ちが邪魔をするんだよ』


 普段の俺らしい真人間のような事を言って、ドナルドを煙に巻こうとするが、ドナルドの呆れ顔をみるに、俺に誤魔化されてくれそうにはなかった。


『忠義の気持ちなんて一欠片もない癖によく言えますね』

『そう?私程の忠義者は中々いないと思うけどな』

『幼馴染みの考えてる事ぐらい分かるんだよ、馬鹿タナト。いくらお前がまともで心優しい好青年ぶった振る舞いをして、他の人間がそれを信じても、この僕だけはお前の本性が見抜けるんだ』

『……ふふっ、君は気持ち悪いぐらい俺の事を見ているね』


 ドナルドが俺の下の立場としてではなく、俺の幼馴染みとして言葉を発したので、俺もそれに応える。


『それは僕の言う事を肯定したと受け止めてよろしいんですね?』

『さぁ?想像におまかせするよ』


 ドナルドは大変心外な事に俺の事を表面だけ善人面をしているクズだと思っている節がある。それの正否はここではあえて述べないが、いくら訂正してもドナルドは俺に対する認識を改めないのは分かっていたので、俺は適当に流した。


『タナト様、あなたの利益ならあります。それはホーランド家を告発し、没落させれば、今のホーランド家と同じ立場になりかわれるかもしれないという事です』

『……ふーん、そう』

『ホーランド家を潰せば、王家はきっとそれを主導したハーベスト家を評価し、取り立ててくれるでしょう。ホーランド家がなくなれば、代わりに頭角を表すのはハーベスト家なのは自明の理ですしね。富と名声を得られるチャンスですよ、タナト様!』

『私は無欲だから、そういうのはいらないんだよね』


 俺は今の立場にそれなりに満足している。

 俺の家は侯爵家だ。名声も富も今でも十分得ているといっていい。

 まぁ俺だってそういうものに人並みに興味があるが、そんな風にある程度満たされてる状態で、リスクを犯してまで、成り上がろうなんて思わない。

 俺の理解者ぶっているドナルドはそれぐらい分かっていると思っていたのだが。


『……ですよね、タナト様はそう言われますよね。薄々分かっていましたよ』

『分かっているなら言わないでよかったんじゃないか?』

『これで乗ってくれればいいなという淡い期待があったんです』

『期待に添えなくてすまないね』

『はぁ。これはもう、奥の手を使うしかないか。こんな悪魔に売り渡す事になりそうで、申し訳ございません、クラリス様』


 何で姫様の名がそこで出てくるんだ?と疑問に思う俺を尻目に、ドナルドは語り始めた。



『いいですか、これはあなたがクラリス様を手に入れるチャンスなんですよ』

『は?』


次のお話は本日22時に予約投稿しましたので、そちらも読んで頂けると大変嬉しいです。

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