78話 決戦 血戦
ラストスパートです。
なんだ?
走り始めた俺の足にも明確に伝わる振動。
リッチの魔法か。
思い至った時、石畳がうねった。
数秒経たずして敷石が弾け、平坦だった床がささくれ立っていく。
瞬く間に平板だった床が、リッチの周りだけ見違えるほど荒れてていく。しかし、速力を落とせば吹き飛ばされる。今はギリギリまで近付いて隙を探さねば。
だか、その割れ目から何か迸った。
水!?
白い飛沫が床から噴き出した。泉からの水路と当たってしまったか。
しかし、そうではなかった。
噴き出た水が渦巻いて長く伸びた。いつの間にか腕から脚ほどの太さの触手もどきと化していく。こいつを産むために床を割ったのか。
そいつらがとぐろを巻いた次の瞬間、おそるべき速度で飛んできた。
チィィィ。
瞬時に増速───
回り込む俺の後で何度も轟音が上がり、床石が弾ける。
触手が飛んだのはこちらだけではなかった。
ヤツの向こう側、リザ達の方へ。スローモーションのように触手が伸びるのが見え、脳が冷えた。
一瞬宙に褐色掛かった透明の壁が見え、それが波打った。触手が寸前で弾かれたのだ。流石は、エマの魔障壁。
『ご主人様、今の攻撃は脅威。エマの障壁と言えど、何度も持ちません』
眷属とは違うということか。
もはや、ヤツの隙を窺う猶予はない。一か八か、相討ちを狙う。
『ご主人様! 危険すぎます、お止め下さい! アレには期限が……』
巡る曲率を縮め内に切れ込む。
その先、大きく割れて傾いた床。右足で踏み切り、舞い上がって身体をねじる。
リッチの首があり得ない角度で回り、視線が絡む。そしてやつの腕が上がり───なんだ?
─── ナァァァァァァァ……
いやにゆっくり。さきほどは打って変わって緩慢な動き。
遅いのはやつだけじゃない。
俺もだ。
上半身のねじれがまだ腰に伝わっていない。
そう何秒も宙に居るわけではない。だがその何倍にも引き延ばされた感覚。
…………ガァァァァァァァ
リッチの腕が上がりきった時、それでも眼では追えない気配。
右。
レダ剣が火花を散らし、触手を弾き飛ばす。
左、右、右。
いくつ来る?
知覚できても、動きの限界はある。
ぐぅがぁあぁ。
気が付くと腹が沸騰していた。
がふっ。
俺は鉄の味を吐いた。
地にも落ちず、宙に浮かんでいる。腹から2本の氷柱が生えていたからだ。水の触手を凍らせたのか。
どくっと脈を打ち、灼けるような痛みが来る。
見上げる骸骨が顎を鳴らす。串刺しにした俺を嗤っているのか。
ヤツとの距離は5メートルもない。
「リィィザ……」
見えた。
半狂乱のリザが眼を剥いた。
撃て───
それは、言葉を紡いだか。大気を震わせたか。
しかし、彼女は応えた。
トネリコの杖は白く膨らんだように輝く。
伸びろ! レダ。
右腕が研ぎ澄まされると、漆黒の槍が産まれた。
─── ギィィィヤヤヤァァァア
呪詛か、悲鳴か。
見たこともない鋭利な穂先は、敵の胸を捉えた。
空気の割れる音が響き、俺は白い光に包まれ、電撃はレダに吸い込まれていった。
≪期限付き不死属性発動:超回復します!≫
いつの間にか、俺は床に這っていた。
また腹がうねくっている。我ながら気色悪い。まだ期限は有効だったようだ、
何度味わっても慣れないな。死ぬよりはマシだが。
おまえも生きていたか、レダ。
大電流を伝導しても昇華することもなく、姿がある。槍ではなく剣に戻っているが。
─── グゥゥゥゲェェェ
どうやら、生き残ったのは俺達だけではないようだ。
ギシッ。
レダを床に突き立てて、立ち上がる。身体が重い。
そこには、剥き出しのリッチが居た。気流をまとっていない。
震える腕を揮ったが、何も起こらない。
ヤツの胸が、黒々と炭化している。
「滅びろ…………」
あんなに軽かった剣を持ち上げるのに、腕が震える。
ハァッ!
気合いと共に振り降ろすと、頭蓋を両断した。
力が抜け、片膝が床を突く。
キィィィヤヤャャャャャァァァアアアア。
耳奥を刺す骨が形を失い、黒いガスが発ち昇ると人型を象った。
降魔退散 ~~
黒いガスが金色に輝き、瞬く間に燃えあがった。
エマか。
瞬く間に、跡形もなく燃え尽きる。
背筋を被っていた負の気配も消えた。
勝ったようだな……。
オオォォォォ……。上の方から歓声が上がる
「ケントォォ」
リザ。いや、リーザに変わっている。
「お腹、お腹、ケント様のお腹が……あっ、あれ?」
「ケント様?」
「あ、ああ、腹は治った、もう痛みはない。普通に回復させてくれ」
「はい ~~ …………リーザが命ず この者達に祝福を ~~ ブレス!!」
「アニキ。さっき腹に氷が刺さっていたよね? どうして」
「ちょっとミカ、リーザさんの邪魔をしない」
エマが引っ張って下がらせる。
「ええぇぇ、でも、こんなことが」
名残惜しそうに、ミカが少し離れてのぞき込む。
「ケント様は、神がこの世界に遣わされた転移者様なのですから、不思議でもなんでもありません」
「そっ、そうなの?」
いや、そんなことはないはずだが。
ファンファーレが鳴る!
≪リッチとその眷属を斃しました≫
≪基準経験値12564を得ました!≫
≪獲得経験値逓倍:256倍を適用,経験値3216384を獲得しました!≫
≪青銀425689gを得ました!≫
ああ、頭が。意識が遠のく。
≪称号:古の罠の踏破者を得ました!≫
≪ステータス:AGIが72上昇!≫
≪ステータス:魔力回復が96上昇!≫
≪職能:剣 士が昇格し…………
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya




