8話 少女と呪い
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数分後。
少女が連れられてきた。そして、連れてきた代官は、俺がごねるのを警戒したのか、さっさと席を外した。
少女は、小さい身体を、さらに縮こめている。緊張しているのだろう。
目の前で魔鉱獣を、斬って捨てたからなあ。恐いとか、野蛮な男と思っているじゃないか?
それにしても、身体に不釣り合いなでっかい首輪が気になるなあ。どう見ても生活に邪魔そうだ。あと気になると言えば、着ている物もだ。いつから着ているのか、薄汚れたブラウスのような服だけだ。裸足で足も汚れている。
不憫だ。
「三浦賢人だ。名前は?」
「はい。リーザです」
「では、リーザ。バステルさんは残念だったな」
「はっ、はい」
奴隷と主人の関係だったのだろうけど。貨車から出ていく時、あれだけ心配していたし。それなりに良好な間柄だったのだろう、眉根にしわを寄せて沈痛な面持ちだ。
「ああ、言いにくいことだが、リーザの所有権は俺に移った」
「はい。さっき、お役人様から聞きました」
「そうか。ところでリーザは何歳なんだ?」
「17歳です」
「そうか、17歳な……17ぁぁぁ?」
俺の声がでかかったのか、リーザがビクッとした。
いや、17歳って、そこそこ大人だろ。日本なら高校生だ。だけど、小学生程度……精々高学年にしか見えない。
あれか?! エルフだからか?
『いいえ、長命種のエルフといえども、成人になるまではサピエン族、つまり地球人類とほぼ同じ成長をします。17歳で、この幼さはかなり異常です』
そうなのか……って、ちょくちょく、俺の思考を読むよな、アイは。
地球人類はサピエン族と同じなのか。
「ああ。済まん。行き掛かり上、俺が主人になったが、どう思う。奴隷が嫌なら解放しても良いが」
「かいほう」
リーザは大きく目を見開いた。
よく視れば上品そうで顔立ちも悪くないが、相当やつれている。
「ああいえ。まずは……私の命を2度もお救い頂き、心より感謝致します」
おお、しっかりしてるな。ああ、17歳ならば普通なのか?
「ご恩に報いるため、私は一生お仕えする覚悟です。何でも致します。こんな身体ですが……丈夫です。食べる物さえ頂ければ、身を粉にして働きますので。何とぞ、お側に置いて下さい。お願いします」
げっ!
リーザは床に這いつくばった。うわぁぁ。それ卑怯だろう。
この異世界で、いきなり子持ちかぁ。いや、子じゃない。俺の2個下だ。
『引き取るのですか? ご主人様』
『仕方ないだろう……あの牛は、俺を追ってきた。きっと最初から俺を狙ってきたんだろう。あの馬車とそれに乗っていた人達は、そのとばっちりを喰ったのだ。この少女の現時点の境遇には責任がなくもない』
『そうでしょうか?』
『17歳か、どうか知らないが。どう見ても自身で喰っていける程、生活力があるようには見えない。それを、所有権を持っている俺が放り投げたら、駄目人間以下、人非人だ。もう決めた!』
『はぁ……』
「わかった。リーザ、そんなに這いつくばらなくて良いから。ちゃんと引き取るから」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
起き上がった顔は涙で濡れていた。
「それで? リーザの荷物はそれだけか?」
小さな布包みを持って居る。
「はい。替えの下着が1枚だけです」
「はっ? それじゃぁ、困るだろう」
「こ、困りません。奴隷は娼婦でもなければ、皆こんなものです。どなたかが来られたときには影に隠れていますので」
リーザが困らなくてもなあ……。
†
代官所の所員に案内されて、宿屋にやって来た。
2部屋と言ったのだが、あいにく1部屋しか空いて居なかった。手続きをやってもらい、礼金の残りを渡された。明日10時に代官所へといって所員は帰っていった。
宿屋の従業員に案内された部屋は、ビジネスホテルよりやや広いぐらいの部屋だ。問題は……ベッドが、1つしかないんだが。
とりあえずベッドに座る。が、リーザは立ったままだ。
「ああ、座って!」
えっ?! リーザは、床にしゃがみこんだ。
「ちょっと待て、なんで床に座るんだ?」
「すっ、済みません。廊下に居た方がよいですね。今すぐに」
「はっ? 待て待て、違う。そこにソファーがあるんだ、ソファーに座れ」
「はい? 私、奴隷ですが」
「それがどうした! ソファーに座れ!」
「はっ、はい!」
まるで初めて座るという風情で、ソファーに腰掛けた。
「それから奴隷、奴隷、言うな。俺は奴隷というものが好きじゃない。ああいや、リーザが嫌いなわけじゃない。そうだな、俺の従者、従者が嫌なら相棒ということでいいや。そうしよう」
何か俺が言う度に、ビクビクするなよ。
「でも、ご主人様!」
「ああ、そのご主人様という呼び方も好きじゃない。禁止な!」
「禁止……ですか。では、なんとお呼びすれば?」
「ああ、そうか。そうだよな。じゃあ、賢人でどうだ!」
「ケント様でよろしいでしょうか」
「いや、様も要らないが」
「そういうわけには……」
『そうですよ。私だってご主人様って呼んでいるのに!』
割り込んできた。
『アイは、見えないから気にならない。まあ、賢人と呼んでも良いけど』
要は、ご主人様って言っている人を見ることに違和感があるのだ。
『いいえ。ご主人様がよいです』
好きにしてくれって、リーザの話だった。
「とにかく、ご主人様とか旦那様とか、あんまり謙った呼び方でなければいいや。好きにしろ!」
「では、ケント様とお呼び致します」
「まあ、いいか。ところで立ち入ったこと訊いて良いか?」
「はい。なんなりと」
17歳にしても、良く躾されているなあ。感心していいのか、奴隷だからと同情していいのか。
「じゃあ。その首輪は、なんだ? でかすぎて邪魔じゃないか? 外せないのか? それとも、気に入っているのか?」
石なのか金属なのか。紋様が刻まれている角環だ。そもそもどうやって填めたんだ? 決して頭が通る内径ではない。それに外径が大き過ぎるから、丸首のシャツとかは着ることができないだろう。
娼館へ行ったボナやナタリアは、こんな首輪を着けてなかったし、奴隷の鑑札は別途内側に首から下げているしな。
「気に入って居る訳ではなくて。こっ、これは……その」
『私も気になります!』
突如アイが姿を顕現させた。
「うわっ! てっ、天使様だ! ヒィィ……」
椅子の上で跳び上がったリーザは、再び床に這いつくばった。なんで、そんなにアイを怖がるのだ?
「ああ、リーザ。その天使はアイと言って、俺の……」
えーと、なんと言えば良いのだ?
「俺の守護天使みたいなものだから、怖がらなくて大丈夫だ!」
「みたいなって! それはともかく。リーザと言いましたね、ご主人様に逆らったら許しませんからね」
「ははぁぁ」
「よろしい。では、面を上げて首輪を見せなさい」
相変わらず、偉そうだな。
リーザが起き上がったときには、思いっきり涙目で過呼吸になっていた。
ブーンと羽ばたきながら、リーザの周りを飛んでいたが。
「うぅん、やっぱり。この首輪の材料に見覚えがあります。結晶化していますが、ガルヴォルンです」
「ガルヴォルン?」
「はい。この世界で最も硬い金属にして生物です」
「金属で生物?」
意味不明だ。
「はい。魔法あるいは呪法で、形を変えることができます。一旦形が決まれば結晶化して硬くなります」
「へえぇぇ」
「それに、これは……おぞましい呪いが掛かっていますね」
「呪い?」
「表面に紋様が浮き出ていますよね。呪詛です」
「なんてこった」
怒りが沸々と腹の中に滾り始めた。
「もっ、申し訳ありません!」
リーザが再び床に這いつくばる。
今度は何だ?
「奴隷に成る前に申し上げたら、引き取っては貰えないと思いまして……」
「そんなことはない」
「申し訳ありません」
なんか、虐めて居るみたいだ。
「ああ。いや……根本的な質問だけど。呪いって実在するのか?」
「へっ?」
「もちろん存在します」
アイが答えた。
もちろんかよ!
魔法があるぐらいだ、呪いがあっても不思議じゃないのか。
「この呪いは……成長阻害ですね」
「成長阻害?」
「ざっくり言うと第2次性徴が来ません」
「あっ、あれか思春期が来ないってこと?」
「初潮が来ません!」
「ああ!」
リーザが顔を手で覆った。
「お前な! 少しはオブラートに包め!」
撲とうとしたが、空振った。
それはそれとして17歳で、この少女の見た目の理由は分かった。
「でも問題は……」
ん?
「17歳だとしても、この身体では妾にもできないことですね」
「おい!」
小学生位にしか見えない子に、それはない。
「……でも、天使様の仰る通りです」
リーザは、眼に涙を溜めていた。
否定の言葉が出なかった。
それにしても。この先、歳を取っても大人になれないのか。奴隷の身で、それはキツいな。そうでなくとも、キツいけど。なおさらだな。
俺も、この星へ転移して来たばっかりの時、というか、たった半日前は餓鬼のようになっていた。
運良く耐えられたが、たった数時間でも、その絶望といったら。今、考えても身の毛がよだつ。それを、この子は耐えているのか。長い間、ずっと?
「この首輪が外せれば、呪いから解放されたりしないのか?」
「はい。解放されます。ただ簡単には外せないのと……呪いが首輪を外そうとした者に」
「あのう……」
リーザが暗い表情で引き継いだ。
「これまでも外そうと……して下さった方はいらっしゃいました。凄く頑健そうな方だったのに、突然苦しみ出されまして……」
「確かに外した者に、死の呪いが掛かるようになっていますね」
アイの無機質な声に、リーザの堪えていた涙が決壊して頬を濡らす。
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訂正履歴
2022/09/20 申し訳ありません。特濃版から見直しました。
2022/12/21 誤字訂正(ID:371313さん ありがとうございます)