表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/82

64話 居眠り

ふうむ。体調が芳しくないです。

「では、お疲れ様でした」

「ああ」


 王都のギルドに戻って来て、常時依頼実施の報告をした。


 ふむ。35セルクか。

 泥運びの日当だ。やっぱり1セルク100円というレートは、少し違う気がするな。それとも単にブラックなだけか。監督の話しぶりだと公共事業だからな。


 狩りとは比べものにならない少額だが、それはどうでもいい。

 常時依頼をこなしたので、俺はめでたくC級冒険者に昇格した。


 エマは自由意志だが、リーザ/リザとミカを連れている手前、外聞というものを無視できない。いつまでもD級というわけにはいかない。


 窓口を離れて、ギルドのロビーを見渡す。

 リザとエマはまだ帰ってきていないようだ。さっき4時の鐘が鳴ったばかりだからな。

 彼女達とは、ここで待ち合わせだ。ミカの研修が5時までだから、全員で揃って帰る予定だ。


 手持ち無沙汰になったので、壁際のベンチに腰掛ける。


『今日も称号が手に入りましたね』

 

 すかさず、アイが話しかけてきた。

 そういえば。ログを見直す。


称号(エイリアス):|怪力無双を得ました!≫


 それで、どんなスキルが得られるんだ?

『最大筋力の持続時間が1.5倍になるみたいですね』

 筋力が上がるわけではないのか?


『そうですね』

 むぅ。微妙だ。昨日の飛蝗人てのは?

『跳躍時の姿勢制御が巧みになるそうです』

 こっちも微妙だな。


『まあ、そう仰らずに。ただ、それよりも、ここ数日。ご主人様の身体の切れが良くなっていませんか?』


 ああ。なんて言うか。今になって省みると、この世界に来てから自分の物ながら、借り物の身体で動いていた気がする。


『急激なレベルアップで、ステータスが一気に上昇したのですから無理もありません』

 そうだな。そもそも最初、ガリガリになって体力が極限まで落ちたからな。短期間で戻ったが、あれが感覚に悪影響を及ぼしていたに違いない。


 まあ師範のおかげで、気付きを得たのはよかった。徐々に感覚もしっくりしてきて…い………。


     †


「ント……ケント。そろそろ起きて!」

「おあっ! リザ、かぁ」

 ああ、ギルドのロビーだ。

 いつの間にか、居眠りしたようだ。


「もう。ケントったら。工事で疲れたの?」

「まあ、な」


「ケント様、お待たせしました」

 横にエマが座っていた。

「ちょっと、もうちょっとそっちに詰めてよ」

 おお。

 少し動いて、ベンチに3人腰掛けた。キッチキチだ。


「ああ。依頼終了報告は?」

「もう済ましたわよ。ほらっ!」

 リザが右手を突き出してきた。ギルドカードが浮かぶ。ふむ。文字が変わって、C級と読めた。エマもだ。

「昇級おめでとう。ふたりとも」

「へへへ」

「ケント様を起こすのが憚られたので、交代で済ませました」


「そう。それで先にエマが行って、次にアタシが行って帰ってきたら。エマはペタッてケントにくっついているし。油断も隙もあったものじゃないわ。アタシも……」


 両脇から、柔らかい物が押し付けられている。

 油断かあ。

 公共の場所で居眠りするのは、日本人だけと言うけれど。ここは日本じゃないからな。


『大丈夫です。変なヤツが近付いて来たら、私が起こしますので』

 ああ、頼むな。居眠りしないのが一番だが。


「それで。ミカはまだか?」

「うーん。まだ姿は見えないわね。もう少しで5時になるけれど……あっ!」

 遠くから、鐘の音が聞こえてきた。


 ギルドは……少なくともこの支部は24時間営業だが、この時間で職員は結構交代が始まっている。


「ケント様、あそこ」

 おお、研修が終わったミカがロビーへ出て来た……ん? 誰だ。

 ギルド職員の揃いのベストを着込んだ壮年の男と話しながら、ミカはこちらを指した。


 するとその職員がこっちに向かって歩いて来る。何だろう?

 ホールを真っ直ぐに横切って近くまで来た。


 俺も、思わず立ち上がる。

 男は、顎髭を蓄えたなかなかに厳つい顔だ。


「あんたが、ミカの主人か?!」

 横柄な言い方だ。


「ああ。ケント・ミュラーだ。あんたは?」

「ミレスだ。あんたに言っておきたいことがある」

 ん? 聞いた名だな。


『ギルドマスターが、一昨日口走って居ました』

 ああ。斥候の研修講師だ。

 肯く。


「ミカさんは、滅多に居ない斥候の見習いだ」

 ”さん”?

 横でミカが照れている。


「そのクランのマスターがどんなやつかと思ってな。顔を見に来たんだ。あんた。斥候職を使い捨てにしたら承知しないぞ。わかったな!」

 ギルド職員と言うよりは、熟練の冒険者という顔付きだ。

 人相はだいぶ違うが、似てるな。


「言われるまでもない。研修の教授をよろしく頼む」

「それこそ、言われるまでもないことだ。じゃあな」

 はぁぁ。


「あっ、アニキ。すみません。多分アニキ達が待っていると言ったら、ミレスさんが会わせろと言い出して……」

「ああ、別に気にするな。悪い人には見えなかった。まあ少し頑固そうだったけどな、あはは……」

 なんというか、俺の爺ちゃんに感じが似てる。


     †


「では、市場へ行きましょう」


 皆疲れているだろうから、今日もレリック屋で夕食を摂るかと言ったら、リーザが市場で食材を買って、クランハウスで食べませんかと言い出した。エマもそうですね、今日は収入も少なかったしと言い添えて、まあまだ金もあるけどなあとは思いつつも、2人の意見に従うことにした。リーザの料理は旨いしな。


 今朝、行き掛けに古着を買った筋から、一筋北にある食物市場に向かう。


「へえ。意外と広いな」

 それに賑わっている。人が一杯だ。


「ええ。北西町の胃袋と言われていますから」

 エマがにこやかだ。

 胃袋ねえ。


 確かに、山盛りの野菜と果物。豚の頭が並ぶ肉屋、樽にぶつ切り肉を盛り上げて売っている。


「ああ。ダイナミックだなあ……でも虫は寄ってきてないな」

 集ってきそうなものだが。


「ああ、虫除けの魔石を使ってますので。ほら、軒先からぶら下がっているあれです」

 あれか。何か紫色の石が入った、ペンダントのようなものが吊られている。


「あれはどこかで買えるのか」

「道具屋で売ってますよ」

 そうか。部屋に吊っておきたいな。蚊帳(かや)も悪くはないけれど、出入りが面倒臭い。


「是非買おう」

「では帰りにでも」

「でも結構長持ちするから、魔法ではなくて、石の臭いを虫が嫌がるって話もありますけどね」

「ああ、そうですね」

 さっき路地裏で変態した、リーザとエマが主婦っぽい会話を始めた。


 えっ!

「ケント様?」

 声がだいぶ後の方に聞こえた。俺は無意識に駆けだしていたのだ。


 数秒進んで、そしてある露店の前に止まる。

 樽へ白い穀物が堆く盛られていた。


「いらっしゃい」

「これ、米だよな?」

「ああ、東洋ではそう呼ばれていますね」

「東洋?」


「ええ、我が国ではイイネの種で通っているよ。昔は隊商で東洋から、運んできただけどね。今は南部でも作っているよ。ウチは臼で突いてすぐ食べられるようにしてあるからね」

 そう。玄米じゃなくて白米に精米してある。


「ちょっと、手に取っても」

 手を見せる。ギルドに入る前に着替えた時に、しっかり手を洗ったから綺麗だ。

「ああ!」

 店主が肯いたので、数粒摘まんで、手に取る。視力は上がっているが、手を顔に近付けて凝視。

 おお! 短い。短粒種だ。ジャポニカ米(※)じゃないか!?


「よし! 10キロくれ!」



※:ジャポニカ米は日本で栽培されているほとんどの稲で採れる米で、短粒種。世界の主流はインディカ米で、長いもしくは細長い形(中粒種、長粒種)。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/09/17 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)

2023/09/23 誤字訂正(ID:2582126さん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ