50話 クランハウス
50話まで来ました。引き続きよろしくお願い致します。
(いやあ、メンテとは……)
「ここだ」
見上げるとレリック商会と書かれた看板が掛かっている。王都は碁盤の目だから、住所さえ知っていれば、簡単に目的地が見つかっていいな。
商会と言われたので、もっと大きな店を想像していたが、意外にもこぢんまりとした構えだ。間口で10m位だろう。
「こんにちは!」
おっ!
俺が観察している内に、リザがさっさと店に入っていった。どれだけ風呂好きなんだ。リーザの住環境を改善したいという欲求とも、ベクトルが合っているしな。
エマと顔を見合わせて、苦笑しながら付いて入る。
店先には菰袋……つまり筵で造った袋、大きめの神社に積み上げて置かれている酒樽に被っている、あれだ。まあここにあるのは稲わら製ではなさげだが。ともかくも、それに何かが入ってパンパンに膨れたものが堆く積まれている。
『小麦と大麦ですね』
要するに穀物店、あるいは問屋か。
「いらっしゃいませ」
俺より2つ、3つ年上に見える女が出て来た。地味目ではあるが中々整った容姿だ。
ふむ。なんとなく、こういう店には年配の店員が居そうなものだが。
「ミルコ会のルーシアさんに紹介されてきたんですけど」
リザが積極的に近づいていく。
「ああ、ルーちゃんに」
「ルーちゃん?」
「ああ、すみません。ルーシアさんのことです。実業学校の同級生だったんです」
同級生?
「ああ、これ。紹介状です」
封筒を店員に渡す
実業学校……というと。
『ご主人様の記憶と付き合わせると、高校、専門学校相当ですね』
ウチのAIは、音声で呼びかけなくとも、空気を読んで答えてくれる。優秀と言えるだろう。俺の記憶を漁らなければだが。
それはともかく。だったと言ったから、実用学校は卒業したのだろう。ならば18歳以上ということになる。
紹介状を読んでいる店員さんの外見と、ハイティーンに見える師範代の姉という事実だけを考えれば、間接的な年齢推定の妥当性は高い。違和感は、ルーシアさんの中学生ぽい姿だ。同い年には全く見えない。
「なるほど、ミルコ会のお弟子に……今日入会されたのですね。温泉付の賃貸住宅をご所望と書いてありますが」
「はい」
実際は、弟子ではなく門弟だ。混同され勝ちだが、前者は師匠との個人的な繋がりで、後者は団体に属して教えて貰う形態のことだ。
「いい時期に来てくれました。もう1ヶ月もすると武術大会目当てで混んでくるので。今なら2箇所空いています」
おお。
「お風呂は? ルーちゃんから温泉って訊いてきたんですけど」
リザまでルーちゃん呼びになっている。
「はい。それぞれに源泉から管で引いてあるので、いつでも入り放題ですよ」
「ふぉぉぉ……」
リザのテンションが高い。
「あっ、あのう。今からでよろしければ内覧されます?」
店員さん、リザの圧に押されている。
「します。します。いいよね? ケント」
「ああ、もちろんだ。頼めますか?」
「分かりました。少々お待ち下さい。お母さぁぁん! 今から内覧に行ってくるから。うん、そう。店番代わって……では、参りましょう」
少し奥に引っ込むと、すぐ戻って来た。
町を出て、北東方向に足を向けると、丘陵に差し掛かる。道は5m位の幅員があって、一応石畳で舗装されており、それなりに人通りがある。概ね厳つい男達の集団だが。
リザは、ふうふう言っているが、温泉付き住宅が待っているからだろう顔は笑っている。現金なものだ。
300mほど昇っていくと、深くなっていた林が突然切れた。
差し渡し20m程の浅い水の流れがある。
「あっ! 川から湯気が出ているよ」
「本当だ」
湯気が昇るのは、水温が気温より10度以上高い時だっけ?
まだ朝方だが、気温は20℃位、ということは。
「温泉か!」
「はい。この上流に、源泉がありますよ」
ああ。ミルコ会に行く時に見えた霧は、これだったのかも知れないな。
むっ!
「店員さん」
「はい。ああ、ソーラでいいですよ。同い年ぐらいだし」
「えっ? いや俺は19歳だけど……」
「やっぱり同い年だ」
「ちなみに、ルーシアさんは?」
「もちろん同い年です。まあ見た目があれですけど、しっかりしていますよ、ルーちゃんは」
まじか!
なにやら後方──リザの視線が。
「あっ、ああ、それより。ソーラさん。沢の向こうに、なにやら気配を感じるのだが」
「分かりますか。あっちの林には、魔鉱獣が居るそうですよ。でも、大丈夫。よっぽどのことがない限り、こっちには渡って来ないです。そのため、別名結界の沢って呼ばれています」
結界の……。
そういえば。ここまでの針葉樹と、向こうの照葉樹がくっきりと分かれている。なるほど。こっちは人の手が入っていて、向こうは手付かずのままということか。
さらに、少し登ると平地となってきた。道が三叉路となっているが、舗装のなくなった右に向かう。
「もうすぐです」
「あっちの道は? もしかして迷宮ですか?」
「ええ。あと10分程登ると。オラント迷宮に着きますよ」
ふむ。あっちの道が整備されているのは、その所為か。
50mも進むと石造りの2階建ての建物があり、団長の店・レリック屋と看板が懸かっている。
「団長?」
「はい。この店は、叔父の店です……帰りに寄りましょう」
「そうか」
中に人の気配を感じたが、そのまま通り過ぎる。
数分進むと、そこそこ新しい木の柵が有って、それが途切れたところに、集落名が書かれた看板が掛かっている。
「このレリックって、名前は」
「はい。ウチの一族の屋号です。先程通り過ぎた店の店主、私の叔父ですが地主でもあります」
「資産家なのだな」
「ああ、いえ。叔父は傭兵だったんです」
「傭兵?」
「ええ。指揮官をやっていました。それが、オラント伯爵様のお子様をお救いした時に結構な怪我をして引退することになりまして。褒美として賜った土地なんです」
「へぇぇ」
中へ入っていくと、200m四方の敷地がある。奥がさらに丘陵になっているが、盛んに湯気上がっている。あちらに源泉があるのだろう。
敷地内には、正面に2階建ての石作りの商店らしい建物があり、その西向きに通りがあって、その両脇にぽつぽつと茶色の建物が見える。
「おっ、ログハウスだ!」
「えっ?」
「ああいや、何でもない」
直径30cm強の丸太が、水平な状態で積み上げられている。壁の隅は、丸太の末端が90度で交差して年輪が見えている。住宅というよりは、バンガローぽいが、中はどうなっているのだろう。
通りの左側、3軒目に案内された。
隣の家とは、まっすぐには並んでは居らず、ぱらぱらと細い木々が生えていて適度に目隠しになっている。敷地には、小さな何もない庭があり、玄関に繋がっている。
重厚な扉の鍵を開けて、手前に開いた。
「どうぞ。お入り下さい」
少し土間があって、一段上がって木の床の廊下がある。右側には上りと下りの階段がある。外見で思った雑な作りではなく、ちゃんとした内装だ。
「まず1階からご案内します。右がお手洗い。左は書斎といっても本はありませんが、あの扉の向こうが居間兼台所です」
書斎を軽く覗きつつ、居間へ行く。
1辺12m位の広い部屋だ。突き当たりの壁には、扉と大きめの窓がある。陽が差し込んできて居る南面だ。すばらしく感じが良い。
壁の一部がレンガ張りになっていて、暖炉がある。
「これは? 捲っても良い?」
居間の真ん中に、白い布が被った塊がある。
「はい。どうぞ」
リザが勢いよく捲ると、布張りのソファー4脚とテーブルが出てきた。そのソファーの2脚は、3人ぐらい座れそうだ。埃が舞わなかったところをみると、管理が行き届いているということだ。
「わぁぁ、立派!」
「この外は?」
「濡縁です」
鍵を開けて外に出ると、ウッドデッキになっていた。その下は、伸び放題には成っているが芝生が植わっていて、中々気持ちよさそうな庭になっている。
「いいなあ」
「ね!」
居間に戻ると、対面の北側に竈と台所がある。
「東と西は?」
「東側は大小寝室2つ、西側は脱衣所と浴室、石張りの土間があります」
「浴室!」
「はい。温泉ですよ!」
「アタシ、見てくる!」
リザが小走りで行ってしまった。
ソーラさんが会釈して、付いていった。
俺とエマは、東南角の寝室を見る。
「こちらは夫婦の主寝室ですね」
ざっと12畳ぐらいの広さに、ダブルサイズ以上のベッドが置いてある。
「そっ、そうだな」
こちらに南向きの窓がある。
壁際にマットレスが立てかけてあった
「お隣は、おひとり用の寝室ですね」
こっちにもベッドがあるが、シングルサイズだ。
「ケント、凄いよ! お風呂、広いよ」
すっかり気に入ったようだった。
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訂正履歴
2023/02/04 微妙に訂正、加筆
2023/02/05 少々加筆




