5話 死闘
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バッファロー?!
眉間になんか蒼い物が光った。
次の瞬間、左脇腹に衝撃が走った。
「グハァァ……」
数秒遅れて、腹が灼け付く! 熱い。
ブンと横に加速度を感じたあと、視界が転げまくった。腕や脚に首に信じられない激痛が走る!
いつの間にか、俺は地面に寝ていた。
膝がとんでもない方に曲がっている。
ゲホッ!
血だ! 血を吐いた。
ここで死ぬのか……生き残るイメージが浮かばない。
脚の感覚がなくなってきた。脚だけでなく全身の…… 。
≪期限付き不死属性発動:超回復します!≫
≪職能:回復神官を得ました!:レベル1≫
あれ?
一瞬意識が途切れた気がしたが、戻った?!
そして、灼け付くようだった腹が冷えていく。見ると大きく空いた傷口がウネウネ気味悪く動いて閉じていく。折れていた脚も、膝が伸びて感覚が戻って来た。
「痛みが……」
信じられない。急速に痛みが引いていく。まだ死なないのか?
逃げなければ!
ブモッフ!!!
だが、そんな隙はなかった。
強烈な加速度が襲ったあと、体重がなくなった。周りの景色が、妙にゆっくりと回る。ああ、俺は宙を舞っている。
黒い牛の姿が目に入った瞬間、再び衝撃ともに灼熱の痛みが来る。
ゲホゲホ……。
また腹をやられた、口の中が鉄の味で一杯だ。
なんで俺は死なないのだ?
『天使を愚弄した罪、後悔しながら生きろ』
ああ、あの天使!
この牛も……?
俺は牛の頭に乗り上げ、角が腹から背中まで貫通している。でも死なない。
生きろってことは、簡単には死なしてくれないのか。
涙を零しながら、怒りに震える。
「きゃぁああ! ご主人様ぁああ! なんで、ヒュージ・ブルが!」
目の前を、金色が飛んでいく。
「申し訳ありません! 私が離れたばっかりに!」
そんな声が流れていく。
何で俺は死なないのだ?
握った拳を、何度もやつの頭に打ち付ける。
≪職能:拳闘士 を得ました!:レベル1≫
剣さえあれば!
小学生の頃、やっていた剣術の練習。その光景が走馬灯のように蘇る。
「ご主人様!」
「ガハッ、ウウァ。なっ、何か……何か武器はないのか?」
「あります!」
アイの叫びと共に、目の前が明るくなる。
俺はこいつを殺したい! せめて一撃なりと入れないと気が済まない。
力が出ないが、それでもヤツの頭を叩く、叩く。
滲んだ視界が輝いた。
≪装備:青銅の剣が装着されました!≫
≪職能:剣 士を得ました。:レベル1≫
無機質な声が聞こえたとき、まさにその時、俺の拳は牛の頭を打っていた。
うわっ!
牛の頭に蒼い光が膨れ上がった。
ブグゥゥゥェエモォォォオオオーーーーーー!!!!
頭蓋を直接揺さぶるような雄叫びが響き、俺はまた宙を舞っていた。
≪期限付き不死属性発動:超回復します!≫
うぅ!
今度は背中を衝撃が襲った。痛てえ、痛えぇよ。霞んだ空が……黒く覆われた。
死んだ!
今度こそ死んだ!
地響き、土煙!
土がこっちまで飛んで来て、思わず眼を閉じる。今度は何だ?
まだ生きていた。
死んでは居ないが、腕や脚が全く動かせず痙攣している。
しかし。10秒も経ったか、痛みが薄れていることに気が付いた俺は、ゆっくりと目を開ける。土煙は収まって、ようやく視界がクリアになった。
さっきの地響きが来た方に首を回す。
牛?
俺の数m前に、でかい牛の頭があった。地面に突っ伏している。
なんでだ?
角と角の間、鬣が覆う部位。蒼く輝く塊のすぐ横。何か異質な物が生えている。
「なんだ、あの棒?」
痛みが癒えてきて声が出る。
ボフッ。
間抜けな音と共に黒煙が渦巻いた。
ゲホゲホ……なんなんだ?
煙が消えると、シャーンと金属音がして棒が落ちた。
剣?
ところどころ蒼く濡れた白刃が、陽光を照り返している。そういえば、さっき吹っ飛ばされる前になんか、手に握った感触があったけど。凸凹の感じが、あの剣の柄っぽい。
≪ヒュージ・ブルを斃しました≫
頭に無機質なアナウンスが流れる。さっきと同じだ。
≪基準経験値1706を得ました!≫
≪獲得経験値逓倍:256倍を適用,経験値436736を獲得しました!≫
≪青銀15754gを得ました!≫
ちょっと待て!
ファンファーレが鳴る!
≪称号:大物喰いを得ました!≫
≪称号:神童を得ました!≫
≪称号:夢幻の幸運者を得ました!≫
≪ステータス:AGIが3上昇!≫
≪ステータス:魔力回復が12上昇!≫
≪職能:剣 士が昇格しました!:レベル2≫
≪職能:拳闘士 が昇格しました!:レベル2≫
≪職能:回復神官が昇格しました!:レベル2≫
≪職能:剣 士が昇格しました!:レベル3≫
≪職能:拳闘士 が昇格しました!:レベル3≫
≪職能:回復神官が昇格しました!:レベル3≫
≪職能:放浪者 が昇格しました!:レベル9≫
≪職能:剣 士が昇格しました!:レベル4≫
≪職能:拳闘士 が昇格しました!:レベル4≫
:
:
:
うわーー! なんだ、なんだ!
続けざまに金管楽器の旋律が鳴り響く中、無機質な声が流れていく。
身体全体が熱くなって、意識が遠のいた。
†
「……様 …………ご主人様! 起きて下さい、ご主人様!」
「おわっ!」
俺は飛び起きた。
「おお、生きている!」
絶対死んだと思ったが、生きていた。
「ハァァァ、良かった。気が付かれました」
「ああ、アイだっけ?」
「はい。ご主人様」
頭の周りをグルグルと、有翼の小人が飛び回っている。それを視線で追っていると、彼女とは別の剥き出しの皮膚が見えた。
「えっ? 何だ、この腕!」
さっきまでモップの柄のようだった腕が、元のように。いや元の太さ以上になって、筋肉が浮き出ていた。脚も触ってみる
「おお、すげえ。ちゃんと筋肉がある」
思わず、立ち上がる。
すくっと立てた。
ふらふらしない。膝も痛くない、腰もだ。しゃんとしている。
頭痛も嘘のように消えていた。
あとは、腹だ。
「なんだ、これ?」
見たことがないものを着ていた。
生成りのマントぽいのと、その下に黒色にやや赤味が入った革製のタンクトップみたいなのを着ている。
「すみません。着ていらっしゃった服は、ボロボロになっていましたので、勝手ながら装備も硬革の鎧に替えました。前に着ていた物の残骸は、もちろん捨てずに取ってありますよ。それから、疲労が溜まっていたので、回復魔法を発動させました」
何か、アイが頭を下げている。
「そうか……ありがとうな。何も分からないから助かるよ。ふーん、革鎧か……」
何か昔の映画で見た気がする。ローマ時代の英雄が着ているようなヤツだ。胸が張り出して、その下は割れた腹筋のような凹凸が型押されていると思ったら、そのまま自分の腹筋だった
それどころか、体型が締まった感じで、筋肉質だがムキムキには成っていない。
「はあ、助かった。一時はどうなるかと」
「おお! ご主人様。≪天職≫を得たんですね。異議申立をした甲斐が有りました。さて、どんな天職を得たのか……」
そうなのか。よかった。
「おかしいですね。やはり、ご主人様のステータスには天職はありません」
「そうなのか? でも、体型も相当よくなったし。ほら、この力瘤を見て見ろ、さっきまで棒みたいだったのに。ええと……」
「どうされました?」
「あの牛」
「ああ、ヒュージ・ブルですか?」
「死骸が見当たらないが?」
「えっ? 煙になる所をご覧になりましたよね」
「ああぁ、あれは幻覚じゃなかったのか」
「ええ。魔鉱獣は、死骸を残しません。その代わり……どうされました?」
訂正履歴
2022/09/20 申し訳ありません。特濃版から見直しました。