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47話 ミルコ会

本文中の碁盤と将棋盤の件は、以前にふと思ったことです。


(いくつか剣術の用語が出て来ますが、末尾で補足しています)

 昨日買っておいた肉串とパンを皆で食べて、ホテルをチェックアウトした。

 歩いて、ミルコ会がある場所へ向かう。


 東地区の市街地から少し外れたものの、田舎というよりは住宅地という感じだ。木々が多く住みやすそうに思える。さらに東には丘陵が続いている。そちらは木々が湿気を放つのか、少し霧が掛かっている。


 しかし、なかなかミルコ会がみつからない。

「ケント様。たぶん、こちらの方だと思うのですが。すみません」

「ああ、気にするな、エマ。時間はまだ早いからな。あの、角まで行ってみよう」

「はい」

 疲れたのか、リザは無言だ。


 長く続く小径を歩く。左側は青々とした生垣が、背丈を超えていて見通しが悪い。

 一軒一軒がデカく、歩くのに時間が掛かる。誰かに訊こうにも、なぜか人も出歩いていない。


 はぁぁ。ここらは、碁盤の目のような市街地とは打って変わって、場所が分かりづらい。ふふっ。こっちには碁盤なんてないだろうが、どう表現するのかな……あれ?

 そういや、どうして碁盤で、将棋盤じゃないんだ?

 奈良、京都の人は、将棋より囲碁の方が好きだったのか?


 しょうもないことが思い浮かぶ。


 俺は、子供の頃に爺様の相手をしていたお陰で、将棋も囲碁も少々はできるが。なんでかわからないなあ。


 今まで、碁盤の目、碁盤の目と刷り込まれてきたから、今まで疑問に思わなかったけど。あっ! 目? 碁盤じゃなくて、碁盤の目だ。

 そうそう。将棋盤は目じゃなくてマスだ。四角形の中に駒を指す。

 碁盤は石を目、つまり縦横の線の交点に打つ。つまり、線に相当する道に条と通りが割り振られているから、碁盤の目なのか。それで将棋ではなく囲碁か。

 なるほどな。


 そんな、どうでも良いことに、どうでも良い結論が出た頃、さっき指した角まで来た。

 おっ! 左側の生垣が切れて門が有った。


 看板の文字が変形して、読めるようになった。ミルコ会。


「ここだ」

「そうですね」

「着いたの?」

「ああ」

「はぁ、よかった」


 門から中を覗いてみる。

「誰もいませんね」

「そうだなあ」

「時間が早かったんじゃない?」

 まだ6時半という時間帯だ。だが、門扉は開いている。


「いいえ。武道の団体は、朝早いというのが相場です」

「へぇぇ」

「ちょっと。2人とも、少し黙ってくれ」

 やはり聞こえる。

 シャッシャッと聞いたことある擦過音が。中から聞こえてきた、誰か居る。


 ごめんください!

 あれ? 声が出ない。

『あのう。ご主人様。近い言葉がありません。わめき声になりそうなので、止めました。その前に思い留まった、たのもう(・・・・)もやめて下さい。できれば、おはようございますで』

 はいはい。全体的に優秀だが、ときどき飜訳で引っ掛かるよな。


「おはようございます!!」

 結構大きな声になった。


「はい」

 擦過音が途切れ、返事があった。

 5秒位して少女が出てきた。

 中学生位に見える年格好。茶髪に白い肌で、ほっぺが赤い。かわいいな。

 竹ではないようだが、何かの植物の細い枝らしきものを束ねた箒であろう物を携えている。さっきの音は、これで地面を掃いていた音のようだ。


「おはようございます」

「おはようございます。ミルコ会に何か御用でしょうか?」

 少女は、やはり俺の髪を見ている。


「剣のことで教えを請うべく、こちらへ」

「そうですか。師範は少し所用で出ていますが。師範代が中に居ます。どうぞお入り下さい、右手の建物が練武場です。扉は開いていますので」

「ありがとうございます」

 少女は、逆方向へ戻っていった。 


「行こう!」

 許可を貰ったので、敷地へ入る。

 ほう。手入れの行き届いた庭だな。

 石畳に沿って、大きな建物に近付く。少女が言った通り、両開きの扉は大きく開かれていた。


 この音は! 中から空気を切り裂く音が聞こえてきた。


 正面まで行くと数段の石段があって、練武場……道場だな。無論、日本のそれとは違い、板張りでも畳み敷きでもなく、石の床だ。それでも道場には違いない。

 その中央に1人。木剣を揮っている。単なる素振りではない。


 美しい動きだ。

 剣筋が流麗につながり、さほど無理な力が入っているようには見えないのに、振りが鋭く速い。やや腰は低く、足運びが滑らかだからか。

 師範代というのも肯ける。


 えっ、女!?

 袈裟斬(けさぎ)りの剣筋で、顔がこちらを向いた。

 小柄で細身だと思ったが、そうか、女性だったか。

 年の頃は、少し老けて見えるから、17、8ぐらいか。総髪じゃなくてポニーテールだった。


 凛々しいなあ。

 一振り一振りごとに、汗が飛ぶ。

 1人稽古だが、相手が見えるような、中々に実戦的だな。古武道というかやや殺陣の動きに似ている。


 数分間それが続いたが、正眼の構えに移行して、木剣を降ろした。深い息を数度重ねると、師範代は予め気が付いていたようにこちらを向いた。

「何用ですか?」


 おっ、しっかり顔が見えた。

「ケント・ミュラーと申します。剣に迷いがあり、教えを請いに参りました」

「入会希望ということですか?」

「ああ、いや。まだそこまでは……」

 きつい視線だ。


「まあ、良いじゃないか、マリナ」


 うわっ!

 すぐ背後に中年の男が居た。

 たじろいで2歩横にずれる。全くこの人の気配を感じなかった。ヒュージ・ブルを斃して以来、過敏なぐらい感知が上がっていたのに。


「師範! 何度も申しておりますが、練武場では師範代とお呼び下さい」

「はいはい、師範代様。ところで、君達は? なぜこのミルコ会へ?」

「はい。冒険者ギルドで、こちらを紹介戴きました」


「ほう。あそこが、ウチをねえ」

「はい。紹介状があります」


「ああ、それには及ばない。師範代、ちょっと剣筋を見てやれ」

 はぁと、マリナと呼ばれた師範代の肩が下がった。

 多分彼らは父娘だ。なんとなく顔付きが似ている。そういえば、さっき箒掛けしていた少女も、家族じゃないかなと思える。


 師範代は、つかつかと壁まで歩くと、懸かっていた木剣を取った。近付いてくると、柄の方を向けて差し出す。

「じゃあ、頭上から振り降ろしてみて」

 近付いて受け取る。


「あのう。俺の天職は……」

「ああ、そういうの良いから! 天職が木剣を揮うわけじゃないし」

「おお、良いことを言う」

 練武場に上がってきた師範も肯いた。


 この雰囲気、悪くない。思わず口元が緩む。


「では」

 一旦正眼を経由して上段に構える。


 せいっ!

 気合いと共に振り降ろし、半歩前に出る。


「ふーん。基本はできているようね。さっきの私の稽古を見ていた?」

「はい」

「ならば、見ていたところを準えてやってみて。別に全部同じでなくても良いから」


 ええと。

 少し違うが八相(はっそう)から袈裟斬(けさぎ)り、少し違うが(かすみ)から突き。体を入れ替えて……頭にイメージを浮かべつつ始動。

 竹刀ではなく、重いロングソードを意識して、重力を利用した剣筋、迂闊(うかつ)に下に降ろさない。


 最後に正眼に戻した。


「ううむ。何と言うか。形はできているんだけど……師範はどう思われます?」

「そうだな。マリ……師範代の言う通り、何か違和感があるな」


 おっ。

「あのう。故郷で使っていた武器が、剣ではなくて刀なのですが」

「カタナって?」

 訳されないか。


「片側にしか刃が付いていなくて、反りがある武器です」

「へえ」

「東方の国に、そういう武器を使う民がいるとは聞いたことがあるが……」

「東方?」

「でも……」

「そうだな。だが、武器どうこうという違和感ではないな」

 師範の言葉に師範代も肯く。


「何か、もう少しで見えてきそうだが。折角だ、師範代。太刀合ってあげなさい」

「えぇぇ! 太刀合うんですか?」


 師範代が眉根を寄せる。あからさまに嫌そうだ。


「取っ掛かりでも見えたら助かります。是非お願いします」

「だそうだ」

「はあ。わかりました」

 師範代が手を出してきたので、木剣を渡す。そして、また壁際まで歩いていくと、木剣を置いて、別の剣を持ってきた。先程のものより太い。それを受け取る。


 むう。軽い、いや軽すぎる。それに、革が被された柄を持っただけで(たわ)んだ。

 竹刀のような感じだが、剣の身の部分は、何か細い植物の枝ぽい何かを束ねてある。その一端に、丸い木製の(つば)と竹刀のような革袋が(つか)に被っているが。


 竹刀と同じ機能なのか、かなり弾力はある。これなら、当たっても大怪我はしなさそうだが、逆に思いっ切り振りにくい。


「ああ。その模擬剣は魔導具よ。鍔が回るようになっているから、回してみて」

「模擬剣。魔導具?」

 不審に思いながら言われた通りにすると、ズシッと重みが現れた。

「なんだこれ?」

 その上、堅くなって本身の感じに近づいた。

 いや、しかし、重くなるって、あり得ない。質量保存則はどこへいった。


『ご主人様、重くはなっていません。内部で魔素が高速で循環していて、重く感じるだけです』

『なるほど、ジャイロ効果か。って、魔素ってのは質量を持っているのか?』

『私、数学は得意ですが、物理学は……』

 まあ、後にしよう。今は。


 軽く振ってみる。重いだけでなく、剛性まで上がり、撓まなくなった。


「面白いな、これ」

 悪くない。重心の不自然さも感じない。持った感じは本物の剣のようだ。


「あら、そう。そろそろ、いくわよ」

「おう!」


─────────

剣術用語 補足

八相(はっそう)の構え:刀身を垂直に立てて、手を頭のすぐ右側に位置させる構え。左足が前となる。

袈裟斬(けさぎ)り:斜めに振り降ろす斬り方(垂直の場合は真っ向斬り)

正眼(せいがん)の構え:切っ先を相手の顔に向ける構え(中段の構え)

(かすみ)の構え:八相の構えから、刀身を敵の方へ水平に倒した構え。身体は右方向に半身となっている(左足が前)。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴

2023/01/14 少々訂正、補足追加

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