3話 異世界でガリガリになる
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「ううぅぅ」
頭痛の酷さに目が覚める。
ああ、夢か。
酷い夢だった。夢とはいえ最悪だ! あの天使。
青いな?
目に映る物が良くわからず、手で目を擦ったが、やはり視界一面真っ青だ。のどかに白い塊が流れていく。
「ええーと……空なのか」
意識がどうもはっきりしないというか、段々頭痛がしてきた。
記憶が曖昧だ。アパートに帰ったつもりだったが、フットサル場で眠ってしまったのか。
いや。どう見ても、フットサル場じゃない。全く見たことがない場所だった。無理に上体を起こした。
ああ、そうだ。アパートに帰った後、洗濯物を溜めて居たので、スポーツウエアやらなんやらを持ってコインランドリーへ行ったんだった。
まあ、そんなことは、今はどうでも良いか。
左右をみると白みがかった草の茂みが見える。
野っ原だ。
なんで、こんな所に居るんだ?
何かのドッキリ? いや、俺みたいな一般人にそんなことしても意味ないか。
うぅぅ。身体が重い。立ち上がるとふらふらとする。脚に力が入らない。
何だろう、頭痛がひどい。風邪か? 膝が痛い、腰も。
立ち上がっただけで、息も絶え絶えだ。
ようやくちゃんと立って足下を見える。あぁチノパンが土塗れだ。
慌てて手で払って、寒気が走った。
ええっ? 何だ、この脚?
そもそもチノパンがぶかぶかになっている。
恐々ともう一度太股に触ってみると、信じられない感覚が来た。まるで腕のような細さだ。それに硬い。
骨の上に申し訳程度に肉が付いているような。そりゃあ、力も入らずグラグラするわけだ。
「マジか……ん?」
探っていた手を目の前に持ってくると愕然とした。誰の手だよ……腕も骨ばっかりで老人のようだ。
白いシャツもぶかぶかだ。
袖を捲り上げると、腕がありえないほど細くなっていた。筋肉がほとんどない。まるで仏画に出て来る餓鬼のような身体だ。
どういうことだ。もしかしてまだ夢なのか?
そう思いたいが、キリキリと頭頂部が痛み、夢ではないことが自明だ。それに肩から背筋に掛けて、疲労感を通り越して鈍く痺れるような感じが続いている。
落ち着け、落ち着け!
ゆっくりと周りを見渡す。黄色掛かった乾燥した地面が地平線まで広がっていた。
どこなんだ、ここは?!
それもそうだが、体調が悪すぎる。どこかで休まないと死にそうだ。どこかで?
明らかに、ここは日本じゃない。
こんな乾燥した駄々広い原野は、北海道にすらあるわけない。
ならば、ここはどこなんだ。アフリカ? 南米?
あっ……まさか。
もしかして、あれは……あれは夢ではなかったとか?
『死んでは居ないが……別の星に転移して貰う』
再び背筋を怖気が駆け上がる。
冗談じゃないぞ。
ん!
耳の奥で雑音が渦巻いた。
『……くぁwせdrftgyふじこlp……本日は晴天なり! 本日は晴天なり!』
はっ? 雑音じゃなくて声だ!
『言語同調完了です。初めまして。ご主人様』
は?
少女のような声だ。だが、その主の姿は見つからない。どこに居る?
ふらつきながら、首を振って辺りを見回してみたが、誰も居ない。怖っ!
頭がくらっとする。
幻聴?
『ご主人様?!』
うわっ!
『あのう。私の姿は、目には見えませんよ』
「びっくりした。どこだ!」
『ですから、私はこの世界には実体を持っていません。居るとしたら、ご主人様の頭脳の中です』
何を言っているのだ? 意味不明だ!
『ああ、もう仕方ないですね』
「うわっ!」
妖精?
突然、目の前に1/12スケールフィギュアのような有翼の小人が現れた。
「見えていますか? ご主人様」
「あっ、ああ。何だ!? さっきの声の主か?」
「はい! そうです」
おおぉぉ……。
「やはり疑似映像とは言え、姿をご覧戴くと多少は落ち着かれますね」
「疑似映像?」
「はい。ご主人様の大脳視覚野に介入して、存在しない物を見せています」
「介入? マジか……」
飛んでいる小人に手を伸ばすと、何にも触らず擦り抜けた。
「ですから、実体はないんですってば。まあAR画像と思って下さい!」
「AR? お前は何者だ!?」
「では改めまして。オッホン。私は≪転移者≫支援天使1807-27889です」
「てっ、天使? あの天使の仲間か!」
「ああ。多分、転移審査官の高位天使様のことを仰っていると思いますが、支援天使は天使の位階で言えばずっと下の方です。それと誰の仲間かと言えば、ご主人様の仲間です」
何を言っているか分からないが……悪意は感じられない。
「分かった。それで、ここはどこなのだ?」
「ここは、31-21875562星系第2惑星です。もちろんご主人様がいらっしゃった……えーと。なんでしたっけ、ああ、そうそう。地球とは違う惑星です。場所は、ヴァーテン王国のほぼ中央、ワァステル平原と言うところです。北に15km位の所に町がありますよ」
「それは、本当なのか?」
「突然のことで、ご納得戴けないのは無理はありません。でも信用戴けないと、話が進みませんね。うーん、そうだ! ほら、あの光り輝く衛星をご覧下さい」
小天使が空を指差した。
月がどうかしたのか?
「2つ有る!」
眼の具合が悪くなったのか? 瞼を擦ってみるが、変わらない。
二重写りじゃない。大きさどころか色も違う。
「そうです。ご主人様がいらした地球の衛星は1つでしたよね?」
月そっくりの星のすぐ横に、やや小ぶりだが赤みがかった色の星がある。
「こちらの名称を訳すと、銀月と紅月といったところでしょうか」
地球上であってくれ、そんな淡い希望も断たれた。
ブーンと俺の周りを飛んだ。
小さいけど7頭身ぐらいある。顔の作りはアニメやフィギュアじゃなくて写実ぽい。なかなか可愛いな。スレンダーな体型だ。
あっ、痛! 少し意識外にあった頭痛がぶり返してきたが、今は我慢だ。
「そう言えば支援って、どう言う意味なのだ?」
「んん? えーと、転移審査官の高位天使様から、聞いていらっしゃいますよね?」
「いや、酷い天使で、何でも補欠とか言っていたが、ろくに説明にせずに転移だ!って」
あの天使は酷かったが、俺も俺だ! なんて無分別なんだ!
天使に逆らったって良いことなんてない、だから我慢しようって、あれだけ思っていたのに。
『お前みたいなヤツを何匹か……』
ちくしょう。
あの言葉だ。俺は理不尽に反発しては、結局酷い目に遭う。全てあの女の……いや、人の所為にするな。
「そのような審査官がいるとは思えませんが。それはそうと、ご主人様。飢餓状態だったのですか? 随分お痩せになっていますが」
「いや、転移する前は、70kg前後だったんだが」
「えーと、kg……kgに変換。ええっ、70kg? 今は32kgですけど」
32……クラッと来た。
「大丈夫ですか?」
天使の声で我に返った。
「いや、大丈夫ではない」
「ごもっとも。しかし、謎です。このような不健康な状態で転移させても、満足な結果が得られる訳がありません、高位天使がそんな初歩的なミスをするとは、道理に合いません……いや、逆に何か特別な狙いが」
「俺の言うことが信じられないか?」
「信じます。ですが、正直混乱しています。私はご主人様の守護天使ですから。支援天使とは。転移者であるご主人様をこの世界にお迎えし、健やかにお過ごし頂くため、遣わされた者です」
「随分慣れているようだが」
「はい。ご主人様は、私にとって4人目のご主人様です。御三方はしっかり天寿を全うされました。私に何事もお頼り下さい。ご損はさせませんよ」
薄い胸を叩いた。
「えーと。180……」
「私を呼びにくければ、アイとお呼び下さい。前のご主人様からはそう呼ばれていました」
「ああ。そう。アイ。その前のご主人が天寿を全うしたということは、元の星に戻れなかったってことか」
「はい」
うううむ。気楽に返事しやがって。
「それで、さしあたって俺はどうしたら良い」
「前向きなご性格のようで助かります。では、お奨めの生き方を、ステータスから分析致します。お任せ下さい!」
小天使の周りに、ウィンドウが開く。
「あっ、えっ。そんな……」
どうした?
音も無く翼を羽ばたかせ、俺の顔の前に来た。
「非常事態です。ご主人様のステータスには≪天職≫が見当たりません」
「天職?」
「ご存じないですか。まさか天職の説明がされていないとは!」
天職───
あれか!
「ああ、ここに転移させた天使が、お前には天職なんかやらんって息巻いていたけど!」
「本当……ですか?」
「ああ」
小天使の顎が下がった。
「そんな馬鹿な。ああ、いやでも。そうか……数値の辻褄は、うぅむ。」
呻きながら頭を抱えた。
「いやあ。それにしても。ログを確認します。えーと審査官は……&tLhxfj~rt天使ですね」
何? よく分からない発音だった
「あれ? 審査官リストを検索しましたが、そんな審査官は、いらっしゃいません」
「見習いと言っていたぞ」
それを考えただけで、酷く怒っていたからな。
「見習い……いや、別の見習いの審査官もリストに入っていますので。それを含めてもご主人様を審査した高位天使はいませんねえ。そうだ。天使データベースの方から調べてみましょう。ん? あれ? データベースは反応しますが。アクセス禁止? もしかして、審査官から抹消されたとかですかね?」
「抹消?」
「もしかして! ご主人様の転移を、これだけデタラメにしたから抹消されたとか? 有り得ます」
俺はそんなにデタラメにぶつかったのかよ。
「まあ、審査官はともかく、今は天職がないことの方が重要です」
「天職がないのが、どうだって言うのだ。天職なんて、本人がそうだと思えば、何でも天職になるだろ」
あんなクソ天使に天職を勝手に決められても、逆に腹が立つだけだ。
「いいえ。地球とは違うのです」
「はっ?」
「この世界では、≪天職≫は特別な意味を持っているのです」
「どういうことだ?」
「天職とは職能の一種ですが、習熟度であるレベルによって、人間の取り得る能力を示すステータスの範囲が決まると共に、体型も強く影響を受けます」
「本当かよ!」
「本当です。もちろん個人差やばらつきはありますが、平均値はそうなります。職能は一般にレベル1から始まりますが、天職はおよそ10歳でレベル10から始まります」
ふむ。
「ですが、ご主人様は、天職を持っていないので、天職が決まっていない小児の体力や筋力相当になってしまいます。よって、今のようなガリガリの体型になってしまっているのではないでしょうか。先程は、そう考えて辻褄は合うと思ったのですが」
そんな辻褄は要らん。
なんてこった!
「しかし。天職がないなんて、聞いたことがありません。やっぱり、おかしいわ!」
「ちょっと?!」
えらく興奮している。
「そっ、そうだわ! これは異常です。このままでは、ご主人様は何もできない駄目人間になるしかありません」
駄目人間!!!
「そもそも、これではご主人様を他の星から転移させた、その目的が果たせません。とにかく認められるかかどうか分かりませんが、天使庁に異議申し立てを致します。しばらく支援できませんが、お許し下さい」
「えっ、ちょっと……えっと、アイ? おい! アイ!」
返事は返ってこなかった。
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訂正履歴
2022/09/20 特濃版方式見直し
2024/09/09 アイの名前の由来追加( ハイングさん ありがとうございます)