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28話 分け前で揉める

複数人が趣味でやっていたことで収益が上がると、そりゃあ揉めますよね。

「ふん。やるじゃない。エマ」

「あなたこそ。詠唱が間に合わないかと思って、冷や汗が出ましたよ」

「そんなわけないじゃない。アタシは天才だから!」


 ふぅむ。悪くない雰囲気だ。

 枝を離して落下、着地。


「あっ! ケント。 えっ? 木の上に居たの?」

「ああ、見ているって言ったろ」

 グラディウスになっていたガルヴォルンを手甲に戻す。


「そうですか。樹上で見守って下さっていたのですね」

「まあな。2人に何かあったら困るからな」


 リザが、嬉しそうだ。

 エマもだが。


「それで、2人で組んでみて、どうだった?」

「ううむ。まあ、しっかり護ってくれたから、悪くないと思う」


 少し視線を外しながらも認めた。

 リザは見た目とか口調とか生意気だが、素直だよな。


「エマは?」

「天才かどうかはともかく、並の魔法士でないことは認めます。ケント様が仰るように私が身体を張って護る価値があることは分かりました」

「いや、天才だって!」

 あいかわらず凄い自信だ。


「むぅ。そこまで言うなら、こちらも言わせて貰います。初撃の狙いにもたついて、2頭に逃げられましたよね」

「うっ!」

 確かに、立ち上がってから発動までに数秒あった。おそらく、しっかり狙いを付けたかったのだろうが、その所為(せい)で猪共に感知されてしまった。


「言葉程ではないにしろ。素質はかなりのものです。ですが、経験が足りていません」

 リザは、頬を膨らませたが言い返さない。


「エマの言う通りだ。まあ、実戦3日目だからな」

「うぅ……」

「えっ? どういう意味ですか?」


「どういう意味も、何も」

「ふん! 初めて戦ったのは一昨日ってことよ。悪い?」


「3日目……むぅぅ、驚きました。ケント様の仰ることなので信じますが。そうですか、今日が3日目なら精進次第では宮廷魔導師も夢じゃないです」


「宮廷魔導師なんてのが居るのか」

「2年前の魔鉱獣大発生の時に王都(ディース)の間近で見たことはあります。何百匹を一気に斃しました」

 凄いな。


「まあ、詠唱に何分も掛かっていましたけど」

「宮廷魔導師、いつか抜かすわ」


「おおう、その意気だ!」


     †


 体内時計で昼になったので、少し開けたとこで食事にすることとした。

 出かけに、町で買ったパンやら、肉串を取り出して食べる。


「エマ。数回戦ったが……」

「はい!」

 おっ。気合いが少し戻った。

「どうだった? 俺達と一緒にやりたいか?」

「無論です」


「わかった。じゃあ、リザはどうなんだ? エマをパーティに入れることに賛成か? ああ、リーザにも訊いてくれ」


「アタシは……リーザも別に反対しない。ケントが決めて!」

 ふむ。朝は嫌そうだったがな。


「はい。私もケント様の見解が訊きたいです」

 2人は俺を見つめた。


「うむ。俺としては良い感じで狩りができた。エマの実直な性格もよく分かった。エマにはパーティに入って貰いたい」


「はぁぁ。よかったです。ありがとうございます」

「じゃあ、決まりだな。でも、主従じゃないからな」

「いいえ。これを足掛かりにして、従者に成ってみせます」

 むぅ。


「ふん。リーザが、ようこそだってさ。よかったわね」


    †


 その後、数時間狩りを行った。

 牙猪(サーベルボア)狂鹿(ワーディア)など二十頭余りを斃した頃、太陽がだいぶ傾いてきたので、切り上げることにした。

 昼以降、エマの獲得経験値逓倍を128倍まで上げた。

 3人での狩りは2人の時の1.5倍じゃない。2倍もしくは2.5倍くらい効率が上がる。


 街道を戻りつつ、(グラナート)の正門が見えてきた。

「それにしても、2回もレベルアップするとは」


 すぐレベルアップした時は、反応が薄かったが、数回の戦闘後にまた上がって、流石におかしいと思ったのだろう。


 おそるおそる、何かあるのかと訊いてきたので、俺とパーティを組むと128倍になることを打ち明けた。その時の驚き方といったらなかった。


「よかったわねえ」

「むう。そういうことではないですが、もういいです」

 拗ねたように横を向いた。


 町に入ると、ギルドに直行し、エマを冒険者登録した。それから、青銀を換金して、大口取引室で受け取る。斃した魔鉱獣は多かったが、青銀はそれほどでもなかった。


「では748ヴァズとなります」

「おお、ありがとう。ああ、そうだ。この部屋を少し借りても良いか? 10分ぐらいだ」

「はい。そのぐらいであれば。では私共は一旦」

「ああ、悪いな」

 ギルドの出納係が微妙な表情で大口取引室から出ていった。扉が閉まる。


「じゃあ。250な」

 机上のトレイに載った小金貨の山の1/3を、エマの前にずらす。


 彼女は、大きめの目をさらに大きく見開いた。

「とっ、とと、とんでもない。こんなに、たくさん戴けません。たった1日狩りをしただけですよ。8年間働いた修道会の預金だって50ヴァズもないっていうのに」


「それは関係ないと思うが」

 というか、50ヴァズって50万円見当だろう。エマは浪費家のようには見えないし、よく分からないが修道会っていうのはブラックなのか?


「そっ、そうだ。リザさんの取り分はいくらなんですか?」

「アタシは貰わないわよ」

「えっ?」


「アタシは、ケントの物だから。何か欲しいものがあったら、ねだるし。お金なんか要らないもんね」

 ここで、しなだれ掛からないでくれるかな。いや嬉しいけれど。


「なっ、なるほど! 私もそれで!」

「はっ? いやいや。そういうわけにはいかんだろう」


 それから、揉めた。


 しばらく個室に居座っていたら、出納係が戻って来た。

 揉めているので、やっぱりかという顔をされた。


 狩りの揚がりの分け前で、揉めているのですねと言われた。

 しかし、説明していくと……。

 そっち方向で揉めているんですか。初めて聞きましたと困惑された。それから、懇々と諭された、俺が。


「では、クランを登録して、ルールを決めましょう」

『クランって、あれか?』

 よくオンラインゲームであるやつ。集団という意味ではパーティと同じだが。戦闘ごとに流動的に変えるようなパーティと違って、目的や利益を共有する組織としての側面が色濃い。

『はい。その通りです』


「わかった、じゃあそうしよう」


「では、一般的なルールを、説明しましょう」


 そもそも、クランを組むなら、頭割りはよくないと説得され、必ず一部は非常時に備えて、クランマスターが備蓄してくれと言われた。そうするのが普通らしい。

 話を聞いていると、どうも冒険者は刹那的な精神で、金はあるだけ使ってしまうようなヤツが多いらしい。まあ、危険と隣り合わせだからな。

 そういった者達に頭割りをしてしまうと、ちょっとしたことで生活が破綻しかねないからだそうだ。


 話を戻して、エマの取り分だが。

 出納係の話によると、そこそこ優秀なクランメンバーの1日の収入は、およそ数ヴァズだそうだ。

 結局、一日働いたらエマの取り分は、とりあえず最高20ヴァズとすることになった。

 今日の収入からすれば割合が少ないが、それでも破格の高収入らしい。確かに、月20日稼働として400ヴァズ、日本円換算なら400万円だ。

 これからメンバーも増えるかも知れないし、いつも今日程の収入があると言えない。


 その代わり、宿代、飲食代、装備と消耗品代をクランで負担することになった。

 それでも、うちのクランの方が、修道会よりブラックなんじゃないかと心配だ。


 なにはともあれ、しばらくそれで行くと決まった。

「では。クランマスターは……ケント様のようですが?」

「ああいや、それは、これ、から……」

 2人から睨まれた。


「俺だ」

 隣で、2人が大きく肯く。


「わかりました。あと、よくある問題は、クランマスターが備蓄金を着服することです」

「着服」

「ちょっと! ケントが、そんなこと、モガ……」

 リザの口を押さえる。


「すまん。続けてくれ」

「こちらも配慮が足りませんでした。あくまでも一般論です。あとよかれと思って遣った場合もありますので。そのような場合、ギルドへ預けていただくと、色々な意味で、抑止力になりますし。とりあえず当座預金にされるのはどうでしょう。現金を持ち歩かなくても、大きな町なら小切手で支払えますよ。それで貯まってきたら定期預金などにされるのがよろしいかと思いますが」


 悪くない。うまく勧めるなぁ、この人。有能なのだろう。


「わかった、そうさせて貰おう」

「では、この場で手続き致しましょう。今から口座開設の書類を持って参ります。できればクランの名前を決めて下さい」

「名前か……」

「口座開設には必要ですので。仮称にしておいて、後で変更もできますが、手続きが面倒ですよ」


 出納係は部屋を後にした。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2022/10/16 少々加筆

2022/12/21 誤字訂正(ID:371313さん ありがとうございます)

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