25話 人狼
あっ。この夏、スイカ食べてないわ。
「あんた、誰だ?」
「ご無事でようございました」
話が噛み合わない。
だから……いかんいかん、同じテンションで行くと収拾がつかない。一歩引こう。
まずは観察だ。
女だな。中々整った顔で、赤味が強い茶色の髪。その結構高い位置から耳が上向きに生えている。あの形は、犬っぽいけど、サピエン族じゃないのか?
『リカント族……にしては、サピエン族に近いですね。おそらくそれらのハーフです』
『リカント族?』
『ざっくり言えば人狼。獣人系です』
人狼。狼か、惜しかったな
獣人ねえ。さらに人族とハーフか。複雑だなあ。
そもそも交配出来るのかよ。どうなっているんだ、この世界の遺伝子は。
「あのう、ケント様ぁ?」
視線の先に、リーザがシーツを素肌に巻いただけのあられもない恰好で、こっちの部屋に出て来た。
「や、や、や。やはり手遅れか!」
はあ?
「……修道者」
リーザが意味不明の言葉を呟く。
「いかにも! オーキッド修道会司祭……元司祭騎士のエマだ!」
胸当てを指差した。花をあしらった紋様が描かれている。
それと元?
「えぇい! 呪われた者よ、これを喰らえ!」
びしっとリーザを指差すと、もう一方の手でペンダントを掴んで突き出した!
なんだ? 何が起こる?
5秒……10秒……えっ、何待ち?
「あれ? 邪悪な呪いが……ない。なぜだ?!」
「なぜじゃねぇ!」
†
大柄な女騎士が、床に正座している。1m位ある刃渡りの大剣は取り上げた。茶髪の中から生えた犬耳が目立つ。
ただ、耳以外は人間の顔だ。眦は厳しく凛々しいが、よく整った美人の相だ。
差と言えば、耳だが。エルフであるリーザ=リザやアデルさんもサピエン族との相違点は耳だし、その辺りに異種の特徴が出やすいのかも知れない。
後は……デカい。
身長! さらに胸だ! 雄大だ!
身動きする度にちゃりちゃりとうるさいので、胸当てと具足は外させたことで露見した。リザも掌に収まらない程の巨乳だが、次元が違う。
単体でメロンを超えた、スイカ半割並の体積。カップ換算はI、J、K……俺にはわからん。あれが、さっきまで思いっ切りプレートメイルを押し上げていたのか。
そのくせ胴はがっつり絞られて、また腰回りも弾けている。
とんでもないプロポーションだ。じっくり拝みたいところだが、リーザが拗ねるので止めておく。
「もっ、申し訳ありません。一昨日霊視をした時には確実に邪悪な翳りがあったのですが……」
「その翳りとやらは、何か知らないが。それが今は感じられないと?!」
「はい。転移者様」
俺の髪を見ている。やっぱり、髪色で分かるらしい。元々、純和風の黒髪だが、写りの良い鏡で見たら、彩度に乏しい真っ黒になっていた。
「事情はわかった。この部屋に押し入った無礼は不問にしてやる。用が済んだなら、とっとと帰ってくれ!」
リーザに酷いことを言ったから、こっちももっと罵倒してやりたいところだが、宗教人の背後には組織がある。迂闊に敵に回すのは悪手。
何もなかったことにするのが最善手だ。
「本当の用が済んでいません」
「なんだと?」
本当ってなんだ。
「私は、所属していた修道院を出て来る時、神に誓ったのです。転移者様を援けていくと」
「いやいやいや、勝手に誓うな」
「勝手ではありません、お告げを受けたのです」
「お告げ?」
「夢で見ました」
「いや、夢って言われても」
ひくわぁ。
「しかし、お告げの通り、こちらには転移者様もいらっしゃいましたし……」
むぅ!
「……誑かすエルフもいました!」
「たっ、誑かす!」
リーザが反応した。
「転移者様は、このような、いかがわしい女と別れるべきで……」
「いかが・わ・しい?」
リーザは、下を見た。
「キャァァアアア!!」
はっ?
リーザは、自分の胸を掻き抱くと、その場にしゃがみ込んだ。
『ほう。催淫状態が消えました。狙いは違いますが、この者の退魔が効いたようですね』
リーザがしゃがんだままブルブル震えている。体調がまた悪くなったのか?
「おい、どうした! ……あっ、あぁぁぁ」
「うわっ、なんだ? ああ、やっぱり妖かしの者!!」
立ち上がるとリザに変わってしまった。
「あんた! 勝手なことばっかり言ってるんじゃないわよ!」
話がややこしくなった。
「みっ、見ましたか。変身しましたよ! 少女然として男を惑わせ食い殺す、このビッチエルフが!」
「黙れ! このデカ犬! アタシはケントの相棒リザよ! 若い男女が盛って何が悪いのよ! 大体デカきゃ良いと思ったら大間違いよ!」
うわぁ。2人とも口悪いな。
「なんだと! もうゆるさん。 この妖かしめ! この司祭騎士が討ち取る! そこに直れ…………?? ヒィィィっ!」
数秒前まで居丈高になっていた女騎士が再び、床で正座している。
「天使様がご同行をされているとは露知らず、ご無礼致しました」
アイの顕現で、女騎士は急に大人しくなった。今も女騎士の上をゆっくりと旋回している。
怒りが収まらなかったのはリザだが、俺がソファに押し倒して黙らせた。
「しかし、天使様。本当にこの淫売エルフは、問題ないのですか?」
「淫売と違うし! ねっ!?」
「ああ、もちろん」
激昂しないように、しっかりリザの腕を取り、頭を撫でてやる。
「ご主人様。私が言って聞かせます」
「ああ、任せた」
リザが話し始めると、悪口合戦になるからな。
「エマと言いましたね……リーザは確かに一昨日までは呪われた身でしたが、ご主人様が、それを断ち切られました」
「しかし、変身……」
「あれは体質です」
「体質、ですか」
いやそれでは納得しないだろう。
「そうです。ご主人様が、自らに呪いが及ぶことも厭わず、断ち切ったのです」
「おおぅ、すばらしい。命を懸けて、この女を救われたのですね。転移者様は博愛の御方。我が主君に相応しい」
「主君?」
「はい。お告げに遵い、司祭の職を抛って参りました。この身と剣を捧げます。なにとぞ、私を従者として下さい」
この身か……ゴクっ。おっと! いかんいかん。
「げっ、還俗したってことか?」
「はい」
「ケント、眼がエロい」
「そ、そんなことはないって」
『ご主人様よろしいですか?』
おっ、念話だ。
『何だ? アイ』
『この者の胸はともかく……』
いや胸とは言っていないぞ、アイ。
『……中々腕も立ちますし、信心深く、身体も丈夫です。ご主人様の盾として、麾下に加えるのはいかがでしょう?』
『腕が立つのか?』
女騎士の頭上に、17という数字が出た。俺が人間には出すなと言ってあったので、控えて居たやつだ。
それにしても、レベル17か。あまり高くないじゃないか。
『ああ……レベルの前に小さくAと書かれていますね』
『確かに17じゃなくてA17か』
『AはAdvancedで上級職の意味です』
『上級職?』
『騎士というのは、剣士、槍士、戦士の上級職です。重い防具を着けて防御力を活かした戦い方が得意ですね。どれかの職能がレベル30以上になると転職できます』
『へえ……ちょっと待て、聞いていないぞ!』
俺の剣士レベルは、30をとっくに超えている。
『ああいえ。上級職というのは、基本職の特性をいくつか併せ持つことができる職能で、ご主人様にはほぼ意味はありません』
『何?』
『前提として、天職で無ければ、そもそもレベル30には達する事はごく稀です。他の職能が育ちにくい天職システムの弊害緩和の意味があります。ですから職能をたくさん持っているご主人様は、現状でも上級職のようなものです』
ふむふむ。
『それと騎士の場合は、取得する時に、主君や神に仕える必要があります』
『ああ、そういうことか』
どっちにも仕えるのはごめんだ!
それはともかく。防御力を活かした戦い方か……。
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訂正履歴
2022/10/10 小修正




