23話 レベリング再び
レベリングはレベリングで楽しいです(棒)
グラナードの城壁を出て、街道沿いの草原に向かう。
回復したリーザも一緒だ。ただ、何やら様子が変だ。顔が紅いし、そわそわと落ち着かない。
あのまま部屋に居たら、何やら俺も怪しい雰囲気に飲まれそうなので、あわてて身支度して1階の食堂で朝食を摂り、宿を出た。
勝利だ!
理性が辛うじて勝利した!
『昨夜リザが3回も消費していたので、賢者だったのですね』
「だまれ!」
どうも、アイはそっち系のデリカシーがなくて困る。
「ひぃぃ」
あっ!
声に出したのが良くなかったのか、リーザが道にしゃがみ込んでいた。
「ああ、ごめん。リーザを叱った訳じゃない。アイだ。アイに怒っただけだ」
「はっひぃ」
俺が手で引っ張り上げて、ようやく立ち上がったが、脅えているのか内股になりながら付いてくる。
20分程進むと、街道の周りも見渡しにくい程度に草が繁茂してきた。
「リーザ」
「はっ、はい」
何か上の空だ。
「この奥に、いくつか魔獣の気配がある」
「わかりました。覚悟を決めました。ケント様が死ねと仰れば、私は死にます」
「はぁ? 何を言っているんだ」
「はい?」
きょとんとしている。
「リーザを死なせるわけないだろ」
ああ、俺の声だけじゃなく、狩りの方にもビビっていたのか。
「そうですね。まだ首輪から解放してくださった恩が返せていませんでした。今すぐリザに代わって……」
「そういうことじゃなくてだな……とりあえず。リーザは、ここに居ろ。草むらには俺1人で入る」
リーザは何回か瞬いた。
「えっ? それはどういう……」
「ああ、ちょっとした実験だ。とりあえず、リザに入れ替わるなよ。俺が1時間経っても戻って来ないか、あるいは……来ないとは思うが、魔鉱獣が現れたら変わっても良い」
リザが戦っていたにもかかわらず、リーザに経験値が溜まらなかった。つまり、リーザのステータスを上げるためには、彼女自身の状態でなければ駄目だということだ。しかし、必ずしも本人が戦う必要はないはずだ。俺達はパーティーを組んでいるからな。
「それでは、ケント様をお守りできません。足手まといとは思いますが。なにとぞ、いっしょに」
「ああ。レベルが上がったら、嫌でもそうして貰うから。とりあえずは、ここに居ろ。いいな!」
「はっ、はい」
「それから、俺が帰ってこない時は、リザに入れ替わって1人で町に戻れ」
パーティを組んでいると分かるらしいからな。
「嫌です! リザにこの辺り全部を焼き払ってもらっても、ケント様を見付けます」
それって、俺が虫の息だったら、焼け死ぬのじゃないか?
「まあいい。発生確率の低い話をしていても、時間がもったいない。とにかくリーザは、ここで待機だ!」
リーザは、大粒の涙を溜めて肯いた。
やれやれ。
†
草むらに入る。
グラナードから2kmは離れたから大丈夫だろう。
平時は魔鉱獣を狩ってはいけない場所がある。宅地、耕作地、牧畜地……城壁から1フェールト以内。要するに人の財産を奪ったり、誤って人を害したりしないように、配慮がされている。城壁からの距離指定などはそれだ。ちなみにフェールトはこの国の距離の単位だそうで、1.7km強らしい。アイが数値変換してくれるから、まあ使わないが。
あと、魔鉱獣が人間を襲っているような状況は話が変わる。
10分程草むらを彷徨うと、獣の臭いがした。
犬の顔だが小人のような体躯、コボルトだ。頭上のAR表示は、レベル21か。
粗末な槍を持っている。
1体だけのようだな。
手短に斃すには、都合が良い。
回り込みつつ近付く。
ザッと草を潰す音。
コボルトの大きな眼がこっちを向いた時、俺の槍が喉笛を突いていた。
引き抜くと、蒼い血飛沫が上がり、数秒でぼふっと煙が上がった。足下に青銀の小粒が転がって、すぐ消える。自動回収スキルだ。
よし確認しよう!
草むらを踏み分け、道端まで戻ってきた。リーザが居る。
「ケント様!」
「おう、どうした?」
何だか興奮している。
「私……私。回復神官のレベルが上がりました。何もしていないのに」
よぉし!
『アイ!』
『はい。確かに上がっていますね、レベル14になっています』
アイが話しかけてくる。
『でも上がりが悪くないか。たった4レベルだ』
『そうですね、経験値から見るに、リーザの獲得経験値は13152ですね、ご主人様の8分の1……つまり獲得経験値逓倍は32倍です』
『うぅむ。リザは128倍だったんだよな。同じMAXに設定したのに、さらに4分の1かよ』
『やはり。ご主人様とパーティは組んではいるものの、リーザは全く勝利に貢献していませんから。そういうものかと』
『ふむ。リザは一緒に戦った。一方リーザは、俺が戦った場所から離れた、ここで待っていただけだ。結果、獲得経験値逓倍が1よりは大きかったが、128倍にはならなかった。世の中、そこまで甘くはないか』
『それでも。32倍でも大概だとは思います。やっぱり他人に知られてはまずいですね』
『なぜだ?』
『例えば、悪人がこのことを知れば、ご主人様を働かせて自分の経験値を稼ごうという者が出て来るかも知れません』
『そういうことか。でもその時は設定をMINにすれば』
『人質を取られて無理矢理にやらされる可能性も』
『なるほどな』
対応は後で考えるとして。とりあえず口止めしておこう。
「リーザ」
「はい」
「経験値逓倍のことは、秘密だ。誰にも喋るなよ」
「はっ、はあ。分かりました」
大きく眼を開いて肯く。
「あと、レベル14では足りない。もう少しここで待っていろ」
リーザを街道で待たせ、さらに小1時間、4回程戦って戻って来た。
「どうだ、レベルアップは?」
「はい。20までは上がりました」
「よし。様子見は、この辺りにして、一緒に戦うぞ」
「はい」
草むらに引き返すと、リーザがいそいそと付いてくる。
笑っては居るが、表情が硬いな。
今日は行ってない方向に分け入っていく。しばらく歩くと、20m程先に蒼く真っ直ぐな角を頭から生やした獣が見える。
「2頭居るな」
「モノゴートだわ」
小声でリーザがささやく。
よく見ると、魔鉱獣の顔が見えた。
「ああ、山羊か」
地球に居た山羊に似ているだけで、もちろん角が額から突き出たヤツなんかは見たことがない。
「じゃあ、頼む」
リーザは肯くと、杖を持った腕を広げた。
~~ …………リーザが命ず この者達に祝福を ~~
「ブレス!!」
おお、なんか身体が熱くなった。
「行ってくる」
回復神官の戦い方は、戦闘職にバフを掛けることだ。
彼我の中程まで近づき、ダッシュ。
バフが効いている。思いの外、速度が出た。
ガルヴォルンを、モノゴートへ振り降ろすと滑らかなだが、確実な手応えが返ってくる。数秒遅れて首がずれていく。
次……なんだこれ?
もう1頭が、歩くような速さで動いている。明らかに不自然な動きだ。
「フン!」
逆袈裟に切り上げると、蒼い血をまき散らせつつ、どうと倒れた。
『阻害魔法を行使したのですね』
ああ、リーザがやってくれたのか。
満面の笑みのリーザに歩み寄る。
「どうだ?」
「はい。いっきに4つレベルが上がりました! ありがとうございます」
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訂正履歴
2022/10/08 誤字脱字訂正
2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




