18話 修羅場
お知らせ
本作品について毎日投稿をして参りましたが,書き溜めの在庫が尽きようとしておりますので,遺憾ながら投稿頻度を落とします。
今後は,水曜日と土曜日を定期投稿とします。不定期で投稿する場合も有り得ます。
よろしくお願い致します。
「ふあぁぁぁ…………」
昨夜は、よく眠れなかった。
あいつのせいで。
部屋の反対側を睨む。
今は、リザかリーザかは知らないが、俺の相棒はソファーでまだ眠っている。
今日は、冒険者ギルドに行ってリザ/リーザを登録してもらい、防具屋の店主に教えて貰った武器屋に行こう。剣も良いが、魔鉱獣相手なら槍の方が役立つ場合が多そうだ。
『ご主人様。おはようございます』
頭の中で声が響いた。
アイか。おはよう。
『報告があります』
「なんだ」
上体を起こして伸びをする。
『ご主人様の称号が2つ増えましたが、説明していませんでした』
ほう。称号ね。
昨夜、スポーツバッグの件をずっと俺に知らせなかったので、何か異変があったら報告しろと厳し目に命令した。その対応らしい。
前に3つの称号については説明があった。取得はいずれもヒュージブルを斃した時だ。
つまり称号とは、何かレアな行動をするか、条件が整うと取得される物らしい。
大物喰い:ステータスの初期値増強。
神童:スキル取得の促進
夢幻の幸運者:LUCの限界突破
初戦闘とか初撃とかで、断然格上の魔鉱獣を斃したというところが評価のポイントらしい。とはいえ、あまり実感は無い。3個目などはまさに眉唾だ。
「それで?」
身支度を整えながら、余り期待せずに話を聞く。
『はい。リーザの、呪いの首輪を破壊したことによる取得です』
ふむ。
『剛毅果断。これはスキルとして、精神的な落ち着きと、咄嗟の判断力が向上するそうです』
「うぅん。良い感じだが、何だか曖昧だなあ」
『もうひとつ。生ける聖杯』
「おっ、格好いい称号だな! スキルは?」
『分かち合う喜びです』
「はっ? うーん、こっちもよく分からないな」
『得られた喜びを、最大半分まで他者に分け与えることができるそうです』
「要領を得ないな。そもそも喜びって何だ? 具体的に言ってくれないか」
『両方とも、かなりレアな称号のようで、詳しくは不明です』
はあ……まあいいや。どうせ名前負けだろう、スキルは大したことなさそうだ。
起きよう。ジャージ下を穿きながら、ベッドから床に降りる。朝練だ。
!
何だ?
何か、ヌチャとしたものを踏んだ。
恐る恐る、足下を見る
「うわっ! …………何だよ、これ!」
まるでタールのような、どす黒い粘液。どういうわけか、そいつがベッド脇の床に薄く広がっている。
それを、がっつり踏んでしまった。足の裏がいやな粘度を伝えてくる。
迂闊に動くと、部屋中真っ黒にしそうだ。
「参ったなぁ、リーザを起こすか……あっ、あれ?」
だが、足を上げると、綺麗さっぱり剥がれた。
『これは、ガルヴォルンですね』
「ガルヴォルン?」
何だか聞いた気がするけど。
『リーザの首輪の成れの果てです』
ああ、そんなことを言っていたな。世界で最も硬い金属だっけ?
今は、ヌメヌメだが。
「それが、なんでここにあるんだ?」
『ご主人様が首輪を引き千切った後、ベッドや床に散乱したのですが。踏んだら危ないので、ベッドの下にリーザが突っ込んでいました。最初は捨てるって、言っていたのですが。奴隷のものは、ご主人様の物。勝手に捨ててはいけないと諭した結果です』
「そういうことか」
何やら、私の功績ですと聞こえる。
それはともかく。突っ込んでおいた塊が、どういう訳か液状化して、ベッド下から流れ出てきたようだ。
首輪を引き千切ったあとに、衝撃的なことが目白押しで起こって、こいつの存在をすっかり忘れていた。
そういえば、生物でもあると言っていたな。
「もしかして、死んでこうなったのか?」
俺が殺したか?
『いいえ。あれしきでは死にません。ただご主人様が呪法ごと引き千切りましたので、時間と共に、魔力と統合意識を失って基底状態になっているだけです。結晶状態であれば、どの金属より固いのですが、基底状態は液状になります』
「ほぉぉ……」
「しかし、水銀みたいだな……って、毒性は?」
『直ちに影響が出るほどの毒性はありません』
「直ちにね、そりゃよかった」
がっつり裸足で踏みつけたからな。
「……不定型か。そうだ!」
『なんです?』
「アイは、生物を乗っ取って実体化できるって言っていたよな」
『ええ。意識レベルが低い者なら……って、まさか?!』
「その通り!」
『このどす黒いヌメヌメにですか?』
「そうだ」
『えぇぇ……』
明らかに嫌そうだ。
「形は自由に変えられるのだろ? 色もそうじゃないのか? ほら! リーザの首に填まっていた時は、真っ黒じゃなかったし、ヌメヌメでもなかった」
『ああ……まあそうでしたね。魔力が必要になりますが』
どうせ魔力は俺から持って行っているのだろう。
「ちょっとやってみてくれよ。どうしても気に入らなければ、すぐ止めて良いし」
『ご主人様が、そこまで仰るのであれば。やってみましょう。何になりましょうか?』
「ああ、まずは簡単な物からだな」
『わかりました!!』
アイが消えて、すぐ床の液体が眸と光った。
「おぉ……」
液体ガルヴォルンが揺れ始め、沸き立つように突起が無数に持ち上がっては消える。
いけているのか?
グワァと1m以上持ち上がると、形が収束していく。
「人型?」
人間だ!
徐々に形が具現化していき、真っ黒なマネキンみたくなった。
そして色も付いていく。
「おおぉぉぉ、すげぇ!!」
少女になった。無表情だが、眼がぱっちりしてなかなか可愛い。
直立して両腕を水平に開いたポーズだ。
『ご主人様! 如何です?』
「ああ。人間ぽい、アイがそのまま大きくなったみたいだ。髪がなんか不自然だが」
何というかなめらかさがなく、ゴツゴツした形だ。
『いやあ。そもそも髪はオブジェクト数が多いのですよ。透過マッピングだと味気ないですし』
3D-CGかよ!
透過マッピングまで知っているのか。はっ! 俺の記憶か。
しかし、この姿勢って、まんま3Dフィギュアの初期のポーズじゃないか。
「まあ、それは良いとして。なんで、メイド服を着ているのだ?」
『裸が良かったですか?』
「そりゃあ、裸の方が……じゃなくて、なんでかと訊いている」
『ああ、ご主人様の記憶の中から適当なのを見繕いました』
「……まあ良い。なかなか良い感じだ。ぱっと見では人間に見えるぞ。アイこそどうだ?」
『ええ。ガルヴォルンの魔力が使えるので、魔力の消費も僅かですね。問題ないです』
「じゃあ。折角だから、ちょっと動いてみてくれ」
『はい。……んんん。むむむ……』
微動だにしない。
「ん? なんだ、動けないのか?」
『ああぁぁ……結晶化の分布制御が』
「はっ? うぇぇぇ……」
崩れた!
蝋人形が融けるように、形を失ってく。色が付いているから、頭部が崩れていく過程で、思わず顔を背けた。気持ち悪すぎる。トラウマになりそうだ。
数秒で色も消えて、踏んだ時のような真っ黒な水たまりになった。
「おおーい、アイ。大丈夫か?」
『ええ、大丈夫です。ふうむ。内骨格構造にしても、やっぱり動くと、ガルヴォルンへの制御が疎かになって、形状維持が破綻しますね……』
「駄目か」
思ったより高度なことをやっていた。
『なんというか、核となる統合意識がないので、私の指令がガルヴォルン個体内で交錯してしまい、動くと制御が破綻するんですよね。もう少し強制力があればよろしいのですが……そうか、強制力だわ。考えがありますので、やってみます』
「ああ、崩れるときは先に色を統一してからにしてくれると助かる」
『はい!』
おお……。
再び液体ガルヴォルンがウネウネ沸き立ちながら、人型を象り始めた。
何度見ても凄い光景だ。色が付いて、少女人形になる。
さっきと違って跪いたポーズだ、上半身は……。
「なんで脱いでいるのだ?」
メイド服の上着が後ろから、大きく脱げており、辛うじて手で胸を抑えた何やら扇情的なポーズだ。
とはいえ、相変わらず微動だにしない。
「理由は後程」
「ああ。ポーズは変わったけど、やっぱり動けないのか?」
『はい。今のところは。ここからはご主人様の協力が必要です。申し訳ありませんが。背中に回って下さい』
「ああ……」
床が汚れていない。弁償とか追加料金とかは回避できるな。言われた通りに回り込む。
「なんだ、これ?」
アイの背中に、魔方陣のような模様がぼんやり光っている。
『強制の聖紋です。そこに手を翳して下さい』
右手を差し出す。人形と分かっているけど、ちょっと変な感じがする。
『では、魔力譲渡と念じて下さい』
「アイがやれば……」
『今は手が離せません』
「あっ、そう。メニューで選ばなくて良いのか? あと量は?」
『日頃やっていますので、ショートカットが作ってあります。必要量が勝手に吸引されますから大丈夫です』
ああ、毎日知らぬ間にアイに魔力譲渡しているのだった。ちょっと引っ掛かっていたことを思い出す。
≪魔力譲渡!≫
ん? 何も起きないぞ、できたのか?
『ご主人様?』
「いや、ちゃんと念じたぞ!」
≪魔力譲渡!≫
『駄目ですね……そうだ、聖紋に触って、やってみて下さい』
「わかった」
恐る恐る触ってみる。
おおう。柔らかい。なんか本当の皮膚みたいな感触だ。ちょっと興奮してきた。
≪魔力譲渡!≫
背中に描かれた図形が仄かに光った。
≪職能:調教師 を得ました。:レベル1≫
≪スキル:使役を憶えた!≫
≪生命群体ガルヴォルンと従魔契約しました!≫
おおぅ、うまくいったか! おろっ、何か力が抜けるような…………。
「くぅぅ!!! ケントォォォオオ!!!」
ギギギ……と、なぜか首が音を立てて振り返ると、シーツを身体に巻き付けた……(体型から見て)リザが、血相を変えて立って居た。
ハアハアと肩で息をしている。
「りっ、リザ、起きたのか?」
「誰よ! その子!」
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ブクマもありがとうございます。
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訂正履歴
2022/09/25 くどい表現漢和
2022/09/26 登録させてもらい→登録してもらい
2022/10/22 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)