17話 シャワーと自制心
自制心……ガチャを引く時に欲しい心です。
「私も一緒でよろしいのでしょうか?」
宿の1階にある食堂兼パブのような店に居る。
テーブルで向かい合ったリーザが、小声で訊いてきた。
「何が?」
「いえ、私は奴隷ですし……」
睨み付けたら黙った。
「その言葉は、禁止って言ったろ!」
「そうでした」
「第一、リーザやリザと一緒に食べた方が、俺が楽しいからな」
「本当ですか?」
「ああ。これからも一緒に食べるようにしよう」
「かっ、畏まりました」
ようやく、うれしそうに笑った
それにしてもまだ固いな。
さっき部屋に戻ったら、リザからリーザに変身した。そして思いっ切り謝られてしまった。リザが贅沢を言って申し訳ありませんと。
この町唯一の魔法具店で、杖を買ったのだが、余り気に入っていない様子だった。メイスと呼ばれる杖の品揃えは良かった。それは120cmから150cm位なのだが、リザとしては、ワンドと呼ばれる指揮者が持つタクトをややごつくしたやつが良かったようだ。そっちは、品揃えが良くなかったらしい。とはいえ、必要なのでリザは妥協したようで、楡の木製ワンドの中でそれなりの物を買った。
『良い物を見付けたら、また買ってよね』
そう言っていたリザは良いノリなのだが、リーザはまだまだ引け目を感じているようだ。まあ床に座ろうとしなくなったし、少しは改善傾向にあるとは思うが。
「おまちどおさま」
「ああ、ありがとう」
年配の女給さんが、グラタンっぽい食べ物を持って来てくれた。湯気が上がっている、
「ふーん、いい匂いだ」
木の匙で掬って、一口食べる。微妙にホワイトソースとは違う気がするが、いい塩加減だ。芋と細かい肉が入っていて、ボリュームもある。3口くらい食べて止まる。
「ん? 嫌いだったか?」
リーザは、スプーンすら持っていない。
「いっ、いえ」
「じゃあ、食べろよ……まさか、俺が言うまで食べないつもりだったんじゃないよな?」
そういえば、昼食にした肉串の時は食べていいか訊いてきたし。
「リザとリーザには働いて貰う。だから、体が資本なんだぞ」
「シホンとは?」
これは訳されたが、意味が伝わっていない感じだ。
「とにかく働くためには、体力を付ける必要があるって事だ。だから食べろ!」
「はっ、はい」
ようやくスプーンを握って食べ始めた。
「おいしい」
「確かに旨いが、これからはもっと旨いものを食べるからな」
「ありがとうございます。私もそれなりに料理はできますので、よろしければ作ります」
「そうか、そりゃあ楽しみだ」
†
部屋に戻ってきた。
「じゃあ、シャワーを浴びてくる」
トイレと一緒になっている所に入って服を脱ぐ。このベストが良いものだとはなあ。
薄暗いタイル張りのシャワーに入って、防水ぽいカーテンを閉め、黄銅製の蛇口ハンドルを捻る。冷たっ!
まあ外は暑いから悪くはないが、後が困る。しばらく待っていたら、段々温かくなって来た。全身に浴びると、ぬるいが気持ちが良い。
でも、やっぱり湯船に浸かりたいなあ。日本人だなあと思う。
木綿の布で身体を擦っていると、扉が開いた。
ああ。リーザがトイレに来たか。
えっ?
カーテンが開いた。思わず蛇口を締めて振り返る。
「ちょ!」
そこに居たのは、真っ裸のリーザだった。
「……なんだ、どうした」
いかんいかん。つい上から下まで凝視してしまったが、壁の方へ向く。
「お背中流します」
「いやいや、自分でできるし。おわっ!」
いきなり背中に抱き付かれた。
「ちょっ、ちょ。そんなことをしなくて良いから」
「いえ、私がしたいからやらせてもらうのです。だめでしょうか?」
「だめだ」
柔らかい丸みが、何カ所も当たっているので、理性が危ない。
「えっ?」
「やりたくないことまでしなくてもいい」
「リザだったら」
「リザは、怒るんじゃないか?」
「……」
「よし。じゃあ、本当に背中は流してくれ」
「わかりました。では、その袋を」
「あっ、ああ」
壁の棚に置いてある、茶巾寿司大の布袋を渡す。
「お湯を出して貰えますか」
蛇口を捻って湯が出始めると、リーザの腕が緩んだ。さっきの布袋に湯を掛けて、リーザが手で揉んでいると泡立ってきた。
ああ……石鹸の代わりか。
そして、泡を俺の背中に塗り立て始めた。
次は、手拭いで擦り始めた。
無言だ。
まあ、背中はそんなに広いものじゃない。
「終わりました」
だよな。
「終わったら……」
「頭も洗います」
出ていってくれと言う前に、お替わりが来た。
「ああ」
言う通りにすると、目の前にちょうど掴みたくなる膨らみが並んだ。
おっふ。
リーザと反対を向く
あの泡で洗髪するのはどうなんだと掠めたが、そんなものは飛んでいった。
それで細い指が、地肌を何度も通り抜けてった。
「ふう。気持ち良いなあ」
理髪店以外では、他人に洗って貰うのは久しぶりだ。頭を濯いで終了だ。
「あん!」
このままだとどれだけお替わりされるか分からないので。いや何をしてしまうか分からないので慌ててシャワー部屋を出た。木綿の手拭いで体を拭いて……しまった!
パンツを中に置いてきた。洗って干して置かないと。
「ケント様。ここにある下着は、洗いますけど。他には?」
「他には……!」
リーザは、シャワールームから上体をこちらに出していた。ぱっちり胸の膨らみが……慌てて振り返る
『あれは、完全に誘っていますね』
いやいやいや。
『完全に清楚な人間なんて居ないんですよ、ご主人様』
おまえは哲学者か!
「ああいや、汚れ物はそれだけだ」
「わかりました」
やっとリーザが引っ込んだ。俺のパンツも洗ってくれるらしい。昨日は自分で洗ったが、下着の替えが欲しいな。今日行った日用品店で、下着も売っていたんだけど、ふんどしっぽかったので保留したけど。仕方ない明日買うか。
『ところでご主人様』
なんだ?
『下着ならありますよ』
「はっ? どこに?」
『保管庫の中の鞄に入っています』
「だから、そういうことは、早く言えよ!」
出庫! 鞄 ───
念じて、腕を伸ばすと、突如空中にスポーツバッグが現れ、ドンと床に落ちた。
そうだ。やっと記憶が甦ってきた。洗濯物を溜めていたので、異世界転移する前にコインランドリーに行ったんだった。これを持ってたってことは、その途中で転移したのか。
その辺の記憶は戻って来なかった。
中を開けると、シャツにトランクスと靴下が各4着、スエット上下1着。短パンに、ジャージ上下が出てきた。
「おおう! すげぇ」
普段、何も思わなかったのに、今となっては心からありがたい。日本は良い国だったな。メイドインベトナムって書いてあるけど。
ああ、ちゃんと洗って乾燥されて、畳まれている。
良くやった、俺! よくぞ、洗濯物を溜めた。
そうだ!
パンツを穿いて、シャツとスエットをもどかしく思いながら着て、ベッドに行く。
出庫! スマホ ───
…………出ない。
出庫! スマートフォン ───
出庫! 携帯電話 ───
出庫! 出庫! 出庫! …………。
いろんな言い方を試したが、出てこない。
『ご主人様。イメージされている物は入っておりません。あからさまにオーバーテクノロジーの物は持ち込めませんので』
そうかよ!
ジャージの生地も結構オーバーテクノロジーだと思うが。
まあ、スマートフォンが入っていたって……どうせ動かないと分かっていても、つい興奮してしまった。
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訂正履歴
2022/09/25 少々表現変え
2022/10/22 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/04/04 誤字訂正 (あまこさん ありがとうございます)