16話 買い物とおねだり
よいとも、よいともと言いたくなります。
食休みをしてから、宿を出た。
シーツドレスでは肩が剥き出しなので、俺のマントを羽織らせてやる。日焼けしそうだものな。
アデルさんの指示通り、まずは日用品屋に行った。ここで木綿の布地と裁縫道具を買った。宿に戻ったら、手拭いと下着を作るそうだ。リーザがねとリザが言っていた。
それから、古着屋に向かう。広い環状路から一本入って……ああ、ここだ。俺は、入ったところで待っていると、30分ぐらいで決まったらしい。古着を何着か、さらにサンダルぽいのを選んでいた。俺もサンダルと、長袖長ズボンを大小3着ずつ選び、合わせて代金を支払ってローブへ着替えさせた。
ローブは、ウールっぽい分厚く生成りの生地で、フードと大きい袖、裾は膝下まである。
道をやや戻って、次は防具店へやって来た。
「ここで何を買うんだ?」
「ローブよ」
「はっ? 今、着ているのは?」
「ああ、これは繋ぎよ」
繋ぎ?
「ちゃんとした魔法士のローブは、滅多に売っていないって聞いたの。だから、ここで仕立ててもらいたいのだけど、できあがるまでに時間が掛かるから、それまでの繋ぎ」
「なるほど。仕立てるのか」
「アデルさんが、ケントはお金持ちだから、ちゃんと良い物を買って貰えって」
「まあ……いいけど」
投資は必要だ。
幸い金はある。さっきは、全部で1ヴァズもしなかったしな。
しかし、魔法士のローブとはどんなやつだろう。
『多分、魔絹を織り込んで、さらに魔紋の刺繍を入れるのでしょう』
ふーん。魔絹ねえ。
「いらっしゃいませ」
防具店に入ると、やや太った男が挨拶した。貫禄があるから店主らしい。鎧や、盾などが所狭しと並んでいる。間口は10m位だが奥行きが長い。部屋の真ん中に奥へ続く廊下が見える。
「魔法士用のローブが欲しいのだが」
「魔法士……そちらのお客さんが使うのかい?」
リザの方を指す。
「そうよ」
「じゃあ、女房の方がいいな。おおぃ! 女のお客さんだ! 来てくれ」
はーいと奥の方から返事がして、店主より10歳くらいは若そうな女店員が出てきた。
「こちらへどうぞ」
リザを奥の方へ連れていった
店主へ視線を戻すと、俺の胸元を見ていた。
「お客さんは、冒険者ですかい?」
「そうだが」
「随分良い革のベストを、着てらっしゃいますね。ズボンはズボンで変わった布だが。少し見せて貰っても?」
「ああ、構わないが……」
うん。そっち系の趣味でなくて良かった。
「では、失礼します」
カウンタから出てきた店主は、前からしげしげと見て、後ろへ回り込むとマントを捲って、さらにじっくりと見ている。
「うーん。これはドロップ品ですか?」
むっ。
「そうだが。なんで分かった」
「誂えたように体型に合っているし、高価なブル系の革質に見えたので。そうですか。やはりね」
ほう。
『ドロップした衣料品は、落とさせた人物のサイズに合っていることが多いようです』
そういうことは、先に言えよ! アイ。
「しかし、大きさからいってラージブルのようでもあるし……うーん。それにしては、薄くて剛そうな生地ですな」
なんか、悩んでいるな。
「いや、ヒュージブルだ」
「ヒュージブル!?」
どうした?
「俺が斃したから間違いない」
「いや、そんな! でも、質感から言えば、そうか。いや、なるほど」
店主が喰い気味に驚くと、勝手に納得した。
「ヒュージブルだったら、どうだって言うんだ?」
「ヒュージブルは、おいそれと見つかりませんし、そもそもそう簡単に斃せませんや。いやあ、流石は転移者、お強いんですねえ。こいつは驚いた」
やはり、転移者と分かるんだな。
「お客さん。失礼ながら……そのベストをウチに売ってくれるなら、結構出せますよ」
「ああ、いや。防具は、これしかないんだ。売る気はない」
見た目は恰好良いし、着心地は悪くないからな。あとそれなりに金は持って居る。
「そうですか」
肩を落とした。
「逆に訊くが、これはそんなにいい物なのか?」
「はい。スタイルは古めですが、生地と言い、大きさと言い、これだけの物はそう簡単には手に入りませんよ」
執拗に見ていたのはそういうことか。
「そうじゃなくて、機能を訊きたいんだが」
「ああ、はい。ヒュージブルの革は、滅多に扱ったことはないんですが。圧倒的な軽さの割に剛いんですよ。丈夫さは鋼鉄の鎧でもなければ負けません。裁断はさみでも、中々切れないんですよ。そのくせ柔らかくて、着心地は良いでしょう?」
「ああ、まあな」
「でしょう……これより良い革鎧は、くやしいがウチでは扱っていません」
ふーん。そうか。LUCが高いのは伊達じゃないのかもな。
「ただ……。上は肩当てでも付ければ言うことがないんですが、下がねえ。普段着るならよろしいのでしょうが。戦闘にはねえ、防御力が厳しいでしょう」
まあ、日本で買った普通のチノパンだからなあ。
「なるほど。何か良い物があるか? できれば軽いのが良いのだが」
「そうですね。じゃあ、やはり革鎧がよろしいでしょう。あちらの方に中古品が置いてありますが、折角ですから誂えた方がよいですよ。多少体型が変わっても、あちこちベルトで調整できるので対応可能です」
「既成の物があるなら……」
「あるには、ありますが。そのベストと合わせるとなると、どうして見劣りしますしねえ。せめて上下色を考えないと……」
なるほど、カラーコーディネートか。
革鎧のズボンも誂えることにした。巧く店主に乗せられた気もするが。
色は赤味が強い茶色の生地にした。4日後にできるようだ。2ヴァズ50セルクだったが、高いのか安いのかよく分からない。
1時間余り経ってから、奥からリザが出てきた。
微妙な表情だ。
「どうした? 良いのがなかったのか?」
「うーん。ちょっと迷ってて……」
そう言って、女店員の方を向いた。ローブの材料となるであろう布地を、両肩に掛けるように持っている。2つ持って来ているのだから、どちらかで迷っているのだろう。
そう思って見比べる。どちらも、ダークブルーの布地で同じように見えるが、緩やかなドレープ際の辺りの光沢が違うようにも思える?
「左の方が物は良いんだけどね、思っていたより高いのよねえ……」
「はい。魔絹の目が詰まっておりまして、品が良いですわ。もちろん、右のも悪くありませんが、少し重くなります」
「ケント、どうかな?」
「悪くない。左の方は、いくらだ?」
そう訊くと、リザの顔が明るくなった。
「はい。少し勉強させて貰って、8ヴァズ95セルクで如何でしょうか?」
女店員が揉み手だ。
9万円相当か。
「お・ね・が・い」
おおぅ、両手を握り合って、小首を傾げる。おねだりポーズだ。
可愛い。
「じゃあ。仕立ててくれ」
「やったあ。ありがとう! ケント太っ腹! 大好き!」
リザが満面の笑みで、抱き付いてきた。
店主の口元がヒクついている。俺のことを女に甘い男と思っているのだろう。
まあ、今のところ金の方は問題ない。
あとは、ブーツみたいな革の長靴を、俺とリザの2人分を含めて買った。前金の10ヴァズを払って、防具屋を出た。
それから、魔法具屋へ行って、杖を買って出てきた頃には、もう夕方になっていた。
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訂正履歴
2022/09/24 少々加筆