15話 人の温かみ
男は無力なことが多いですよね。
宿へ戻ると、リーザが起き上がっていた。
見たことがない服を着ている。
アデルさんが自分の物をくれたのかな? ギルドからここに来るまでに、いくつか店に寄ったが、服は買っていなかったはずだ。
「お帰りなさいませ。ケント様」
「おお、ただいま」
雰囲気的に回復しているようだが、一応訊くか。
「もう身体はいいのか?」
「ああ、はい。アデルさんに薬草茶を戴いたら、だいぶ気分が楽になりました」
カップが、ソファーの前のテーブルに置いてある。あの強烈に甘い……いや薬草茶だから違うのかな?
「それで、アデルさんは?」
「あの方は、ギルドに戻られました」
「そうか……」
ありゃ。
明日にでもギルドへ礼を言いに行こう。
ソファーの隣に座る。
「それで、これを預かっております」
「ん?」
大銀貨8枚および小銀貨2枚。それと折り畳まれた紙を受け取った。
買う物があると言ったので、ギルドで小金貨を1枚渡した。余ったら、アデルさんが受け取ってくれと言ってあったのだが。この分だと18セルクしか使っていない。
要するに、金を受け取ってくれなかったのだ。
紙の方は。広げると、書かれた文字がぱらぱらと日本語に変わった。
これは、リーザに買ってやるべき物のリストだ。
ご丁寧に売っている店名とその通りと番地が書いてある。この町は、基本的に放射状の通りと環状の通りで構成されているので、わかりやすい。
「ああ。アデルさんは、親切だな」
「はい。とても親身になって下さって、色んなことを教わりました」
そうかそうか。
「初めて会ったのに、なんだか昔から知っているような……」
「そうか、よかったなぁ」
同じエルフ族というのもあるのだろう。
肯いている。
「それと」
「ん」
大きな瞳が上目遣いで、俺を見つめてきた。本当にかわいいな。
「ケント様にもお礼を申し上げるようにと」
「俺に?」
「私のことを、アデルさんに真剣に、そして懸命に頼んでくれたそうですね」
躙り寄ってきた。
「ああ、まあな」
「ありがとうございます」
「いやいや。大事な相棒のことだからな。当たり前だ……それより、その服は?」
よく見ると、生成りのドレスみたいな物を身に着けている。なんか不自然な感じもするし、いつ買いに言ったのか。ここに来る時にいくつか店には寄ったが、アデルさんは持っていなかったよな。
「ああ、これは。アデルさんが、この宿から、シーツを分けて貰って」
「それはシーツなのか!」
それで違和感が。
「ええ、ここで結んで……」
首の後ろに結び目がある。身体に巻き付けて、あそこで留まっているのか。器用だな。
「えぇと。じゃあ、外には出られるか?」
「えっ、ええと、そのぅ。あっちの方は大体終わったみたいです。念のために処置はしましたので……」
リーザは真っ赤になった。
えーと。これは、セクハラではないよな?
『セクハラってなんですか?』
アイだ。
『性的な……いや、この世界にないならいいや』
テーブルの上に、いくつか見知らぬ紙包みが置いてある。何が入っているかは考えないようにしよう。
「あのう……今夜は無理ですが、明日にはできます」
「ん? 何が?」
「伽……夜伽です」
「うっ、いや。そういう意味で訊いたのではないのだが……まあよかった。気分が良くなっているなら、これを食べよう」
肉串の包みを出す。
「ああ、失礼しました。退けます」
リーザは置いてあった包みを移動した。テーブルの空いたところに肉串の包みを広げる。
「私も食べてもよろしいのですか?」
「もちろん」
「高価ですよね?」
「ん。安かったぞ、確か一本50ペリーだった」
1ペリーは、1万円見当である1ヴァズの1万分の1。つまり、1本50円見当だ。少なくとも食料品は安いようだ……何の肉かは知らないが。
その値段で結構なボリュームがあるし、タレが掛かり香ばしい匂いがしている。
「50ペリーも……アデルさんが仰っていた通り、ケント様はお金持ちなのですね」
価値観に相違があるな。
「そんなこともないが。まあ喰え」
「はい……では。おいしい」
小さい口で囓り始めた。こうして見ると高校生ぽい。何か和む。
俺も一本取って齧り付いた。
やや固いがイケる。全部赤身肉だな。塩と何かの香辛料で辛みがある味だ。和牛の蕩ける肉質も良いが、歯ごたえがあって、野趣溢れる肉も嫌いじゃない。
やっぱり、誰かと一緒に食べるのはいいものだ。
それも、これだけの美少女となると、なおさらだ。
「もう一本ぐらい食べられるだろう?」
「ああ、はい。では遠慮なく」
「おわっ!」
リーザの身体が一回り大きくなって、リザに変わった。
思いっ切り胸の体積が増えて、シーツドレスがパツパツになっている。
「びっくりした! 変わる時は一言言ってくれよ」
「だって、おいしそうなんだもん。ああ、胸が苦しいわ」
「また体調が……」
「じゃなくて、リーザの体型に合わせて結んだから、締まっちゃって。背中の結び目を緩めて欲しいのだけど」
「ああ、そうか。待っていろ」
椅子の後ろに回り込んで……おおう、背中がパックリ空いて露出している。ホルターネックってやつだ。綺麗な肌だな。
おっと。
手拭いで手を清めてから、背中の結び目を解く。
「ふぅぅ」
安堵の吐息。
おっ、おおぅぅ。胸元に隙間が開いて、くっきりとした谷間が……。もう少しで尖端が……
「ねえ、ケント」
「ん?」
「おっぱいは後でゆっくり見せてあげるわ。今はお肉を食べたいから、背中をそろそろ結んで欲しいな」
「ああ、あっ。ごめん」
慌てて元のように結ぶ。
「ああん、キツい」
「悪い悪い」
思わず力が入った。慎重に……。
「これぐらいでいいか?」
「うん。ありがとう。さて、アタシも食べよ」
嬉しそうだな。
食べ終わった。
リザの嬉しそうな顔を見ていたら、あっという間に食べ終わった。
「ああ、おいしかった。やっぱり、身体を乗っ取って食べると、おいしいわ」
もしかして、リザとしては初めて食べたのかな?
「むうぅ。いいけど、リーザと喧嘩しないようにな。それと部屋ならいいけれど、人目に付くところでは、変身するなよ」
「わかったわ」
結局、リーザ/リザは2本で満腹となり、俺は4本食った。流石に女子は小食だ。
辛かったから喉が渇いた。この宿には、お茶なんて気の利いた物はなく水しかない。いや、この世界では水も高価かも知れないが。ともかく陶製のピッチャーから注いで飲む。グラナードは地下水が豊富らしく、それなりの味だ。
「その服も良いが、リザの服や必要な物を買わないとな。しばらくしたら行ってみるか?」
「うん」
アデルさんが書いてくれた店にへ行こう。
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訂正履歴
2022/09/24 少々加筆
2023/09/23 誤字訂正(ID:2582126さん ありがとうございます)