14話 レベリングと違和感
昔はうまくできたのに、今は……ってことが多すぎて。
グラナードから4km弱離れたところで、ほぼ民家もなくなったので、街道を外れて茂みに入る。
魔鉱獣狩りを始める前に、仕度しておかないとな。昨日は無我夢中で、しっかり剣術を意識していなかった。
剣を鞘から抜き放つ。
青銅の剣か。
古代の発掘品ではないのでブロンズ像のように碧くはない。刀身は磨き抜かれており、銀色に少し黄味掛かっている。
それなりに手入れされているようだ。誰がしたのかは知らないが。
しかし、やはり日本刀とは、全然違う。見た目には刃紋もない。多分鋳造剣なのだろう
刀身が分厚く、刃渡りの割に重い。
鉄に比べれば青銅は剛性が低いからな。それを補う意味もあるのだろうが、日本刀に比べれば鈍器だ。
それに、反りはもちろんないし、重いだけでなく、重心も違う。日本刀は鍔が付く辺り、区と呼ぶけど、そこの身幅が広く、切先に向けて狭くなっていく。しかし、この剣は切先を除いて全部身幅が同じだ。剣と刀では振り方が違うのだろうけど、俺は教わっていないというか、日本じゃ剣なんか使わない。おそらく斬るのではなく、叩き付ける使い方なのだろう。
脇を締めて、手首を使わず、肩を落とす。
振り降ろした剣が、陽光を弾いてブンと唸りを上げる。
日本刀の風切り音と違って鈍い音だ。
その所為ではないだろうが……。
「へえ。流石は経験者ですね。朝も素振りをされていましたが、なかなか堂に入ったものです。あれ? どうかされました?」
「いやあ。やっぱり感覚が合わない」
違和感だらけだ。
それで、朝練を始めてみたものの成果なしだ。
「そうなんですか?」
「ああ」
爺様に剣術を習っていた小学生の頃に比べれば、身長も腕も伸びたし、今とは腕力含め筋力が全然違う。その所為か、振りが速くはなったが、刃筋がブレブレになっている。
要するに、ガキの頃は、もっと巧く振れていた気がする。
「しっかり続けていたらな……」
まあ、それはできなかったが。
「でしたら……実戦経験を積んで、違和感を解消するのがよろしいかと。あそこにスライドッグが居ますよ。数は……結構居ますね」
「犬……」
眼がデカくて、耳が丸い。色が茶色くて、昨日斃したやつよりは小さいな。そいつらが草に身を隠しつつ近寄って来ていた。
「ヒュージ・ブルがレベル43、キラーハイエナが23でした。あそこにいるスライドックは3頭居ますけど、1番強い個体でも21です」
「へえ。アイは、敵のレベル見えるのか?」
「AR表示にしましょう」
犬の上に数字が表示された。21、18、14と見えるが、レベルらしい。なんだかゲームぽくなってきたぞ。
そう言いながら、心が沸き立って居ることに気付く。
「戦いながらタメを作っている個体は要注意です。火を吹く前兆です。来ました!」
左右に分かれ、結構な速度で向かってくる。
「観える……」
柄に手を伸ばした刹那、毛並みの若いヤツが飛んだ!
≪疾手!≫
白刃が鞘走り、血がしぶく。
昔、身に着けた型がうまくできた。
鮮やかな太刀筋は先鋒を屠ったものの、死角を招く。
「と、でも思ったか?」
喉元に食らい付かんとした次鋒の顎門に、鞘を噛まして阻んだ。それを払いつつ、袈裟懸けに斬り裂く。
断末魔を背にして、最後の1頭に駆け寄る。
『危ない!』
スライドッグの限界まで開いた口の前方。丸い紋様が輝き、そこから放たれる炎!
鼻先を灼く放射を後傾して躱し、再び火焔を孕む顎門に剣を突き込むと、起爆してその身が四散した。
≪職能:魔法士を得ました!:レベル1≫
おわっ!
アナウンスと同時にARのように文字メッセージが視界を流れていく。
≪スライドック 3頭を斃しました≫
≪基準経験値925を得ました!≫
≪獲得経験値逓倍:256倍を適用,経験値236800を獲得しました!≫
≪青銀2657gを得ました!≫
≪職能:魔法士 が昇格しました!:レベル2≫
≪職能:魔法士 が昇格しました!:レベル3≫
≪職能:魔法士 が昇格しました!:レベル4≫
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:
:
おお、寸前に得られた魔法士クラスが瞬く間に昇格していく。今度は冷静に見られるな。
『ご主人様、ステータスと念じて下さい』
≪ステータス!≫
AGI(敏捷比): 357
VIT(体力比): 475
MNT(精神比): 263
STR(筋力比): 415
DEX(技巧比): 636
LUC(幸運比):9999
「おおぉ」
視界に半透明のウィンドウぽい四辺型が被った。値が読める。
「アイ。このAGIとかの項目は、どう考えれば良いのだ?」
『一般成人の平均値が100で、大きい方が優れています』
「おおぅ。凄くないか? 全部数百以上あるぞ!」
『確かに、ご主人様は、≪天職≫は持っていらっしゃいませんが、たくさんの≪職能≫や≪称号≫を保有していますから、その影響ですね』
「おぉぉ」
『ただ、誤解の無いように申し上げますとAGI以降の比は357だからと言って100の3.57倍の素早さというわけでは有りません。それぞれの値には重み関数が掛かっていますので』
「ふぅむ、そうなのか。じゃあまあ、参考程度にしておくけど。ところで、LUCの9999ってなんだ? おかしくないか?」
『確かに異常値では有りますが、ご主人様は何度も死の淵から蘇っていらっしゃいますし』
「いやいや。そもそも、死にかけるのは不運な気がするけどな」
『それはともかく。1回の戦闘で得られる青銀の量が多いことを気にされていましたが、≪称号夢幻の幸運者≫とLUCの相乗作用で、凄まじい結果になっています』
「ほう。そっちにも関係してくるのか……あの天使に憎まれていたのに」
『この≪称号≫を獲られたのは、かなり格上のヒュージ・ブルを、剣を初めて持たれて、一撃で斃されたのが効いていますから。天使に与えられたものだけでなく、ご主人様の行動が奏功していると言えます』
それは天使も想定外だったのだろうなあ。
「まあ考えても仕方ない。悪いことでもなさそうだし。称号のことはまた訊くとして、次にいこう」
†
それから5頭ばかり魔鉱獣を斃した。それにより剣士クラスがレベル35に達した。剣術としての違和感が拭えないが、レベリングは順調だ。
その後も30分ばかり索敵したが、見つからないので切り上げて、グラナードに戻ることにした。
町の門に着くと、門衛と顔馴染みとなった所為か、あるいはこの黒髪が嫌なのか、ギルド証を確認することなく通してくれた。
城壁は厚さ5m余り。黄色い土を突き固めて高く盛った、版築というやつだ。テレビで見た古代中国の城壁の作り方と同じに見える。
これだけ有れば、ダンプカーがぶつかってもビクともしないだろうな。
門を抜けると、広場があるのだが。出掛けには居なかった、屋台がいくつか有って良い匂いを漂わせている。昼時だからか。
何の肉かはよく分からないが、串焼きを6本買ってザルツホテルに戻った。
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訂正履歴
2022/09/23 追記
2025/05/25 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)