11話 ケント 冒険者登録する
冒険者ギルドっていいですよね。>ラノベ作家にとって
「アデル君。お茶を!」
女性が、はいと返事して部屋を辞していく。耳が横に長く張り出していた。
「さて、ケント様でよろしかったですかな。ケント様? ああ、珍しいですかな。彼女は私の秘書で、エルフ族ですよ」
つい、アデルという人を目で追っていた。
前にそれで結衣と喧嘩したこともあったのに、悪い癖だ。
「ああ、いや。昨日、商人が殺されて、色々あって少女を面倒見ることになったのだが。その子が、やはりエルフでな」
「昨日というと、城外で奴隷商人が大型魔鉱獣に襲われた件ですか」
ギルドマスターともなると、情報通のようだ。
「ああ」
「というと、街道に出現したヒュージブルを斃したというのは、ケント様なのですか?」
「ああ、そうだが……相当に運が良かったのだ」
出会ったのは、運がないと思うが。
「ほう。流石は転移者だけあって、剣の腕が立つのですな」
いや、それほどでも。
『ご主人様、謙遜は通じません』
どうして良いか分からず、微妙に肯定する態度となった。
「さて、こちらに来られたのは、冒険者ギルドに登録されるご意志があるということですね?」
「そうだが。昨日この世界に来たばかりなので、できれば冒険者ギルドがどんな物か教えてくれないか?」
「もちろんです。冒険者ギルドは、およそ200年前に発足した冒険者のための30国にまたがる国際的組織です。大凡の国家とは良好な関係にあります……」
要約しよう。
主な業態。
冒険者依頼仲介業、青銀や様々な物品の買取古物商、宿泊・福利厚生施設の経営・斡旋業、冒険者預金など保険金融業、武具・防具・薬品等冒険者が必要とする販売、新人・キャリア教育、冒険者遺族基金……。
「概ね以上となりますが、各支部で規模に差があり、独自に別の事業もやっておりますので、必要に応じてお問い合わせ下さい」
「至れり尽くせりだな」
某協同組合みたいだ。
「ケント様。お茶、どうぞ!」
アデルさんだっけ。エルフ族……と、よく視ると、細面で、整った容貌だ。地味目だけど、なかなか美人だ。
「あっ、ああ。ありがとう」
紅茶ぽい。良い香りだ。一口喫する……むぁぁぁ甘ぁぁぁああ!
少し熱かったが、無理矢理飲み込んだ。噴き出さなかった自分を絶賛したい。
ああ、後口が。舌を隔離したい。
「お口に合いませんでしたかな。お客様に出す分は、町の者が飲む物より……アデル君、薄くしてあるよな」
甘いってことは分かっているのだな……。
「はい、半分に致しましたけど」
半分?
一啜りで俺の味覚を破壊した激甘汁の倍って! お前ら、全員糖尿になるぞ!
アデルさんは、ほっそりした体型だけど。
唾を出して、舌を宥めてから。
「冒険者ギルドの件はわかった。登録すると、どんな良いことがあるか教えてくれないか? それと何か制約もあるのだろう?」
「はい。では良いことから。冒険者が登録されますと、身分保障が得られます……」
要約すると。
通例では、都市に入るには身分の証明が必要。
ギルド登録すれば、ギルドが証明してくれる。証明がない場合は、俺のような転移者でも無審査というわけにはいかないので、時間が掛かる。その手間が省ける。
身分保障が有効とは、冒険者ギルドは、この国では権威のようだ。
それから、ギルドの紹介でも聞いたが、依頼を受けて達成された場合は報酬が得られる。
まあ当たり前だよなと、聞き流しかけた。しかし、よく考えると凄い話だ。アルバイト先の営業職の人に聞いた話だが。実は売掛金を回収するのは結構手間らしい。日本ですらそうだったのだ。何となく、ここだともっと厳しい気がする。依頼事項をやらせるだけやらせて報酬を踏み倒すとか、事後に値引き要求されるとか。
まあ、金をどんどん払いたいぜ! なんて人は滅多に居ないだろう。そこから金を回収するのだ。面倒臭いに決まっている。あと、頼む人と、金を払う人が違う場合もあるしな。
それから、魔鉱獣を斃して得られる青銀やドロップアイテムを、相場で買い取ってくれる。これも手間が省けるし、商人に足下を見られることもなくなるのは、大きいのですよと力説された。
なお冒険者にはD級からC、B、A、S級までの5ランクが設定される。
C級までは国内のみ身分保障が有効だが、B級以上は国際的に通用する。
このように恩恵がたくさんあるが、当然冒険者側にも義務がある。
まずは継続的な活動だ。
継続的な活動とは、ギルドから常設あるいは緊急で出される依頼を達成する、青銀などの狩りで得る物や採集で得る物などをギルドへ買い取りに出すことで判定される。
冒険者はまず新規登録時にD級となり、特段の功績を挙げるか、もしくは半年以上継続的な活動をするとC級に昇級する。
B級は、やはり特段の功績かC級昇級から5年以上経過時に昇級、A級以上は年数に拠らず特段の功績を挙げた限られた者だ。
B級以上となった者には義務があって、病気や怪我などの正当な理由なく、一定期間全く活動しないと冒険者ランクの降格もしくは資格を剥奪される。その期間はB級で1年だそうだ。
C級は半年間に既定の功績を挙げないと、養成機関行きかあるいは除名らしい。
なお、B級になると依頼受注できるようになる。
できるようになるのは良いのだが、ここにも義務が発生する。依頼を受注してから、正当な理由なしに達成されないことが続いた場合は、やはり降級、悪質な場合は除名されることがある。
また、依頼の難度によっては、個人ではなく複数人の冒険者からなるパーティ限定のものもあるが、その話はまた。
「……説明は以上です。どうですか? 登録されますか?」
否やはない。
「説明感謝する。登録をお願いする」
「では……アデル君。オーブを!」
秘書さんが、トレイの上に直径20cm位の透明な水晶珠を載せて来て、ソファセットのテーブルの上に置いた。
占いでもするのか?
「ケント様、こちらに左手を被せて下さい」
「左手?」
むう。なんだか、あからさまに怪しい。被せたら何が起こるって言うのだろう? まあ良いか、特に後ろ暗いところは無い。
掌を置くとブンと唸って、オーブが光った。
「青色ですね、問題ありません」
「では、ケント様の登録を認めます」
あっさりしたものだな!!
「これで、何が分かるのだ?」
「犯罪歴と既に多重登録していないかが分かります。光らない場合は既に登録有り。青だと問題なし、橙色だと犯罪ではないが殺人歴あり、赤だと窃盗歴複数あり以上の犯罪歴と分別されます」
ふーん、便利なものだな。だが……。
「そのぅ……適性検査とか、実力を確かめる入会試験とかないのか?」
「ああ。一般にはありますが、転移者様は免除されます。ただし、重い罪を犯されますと、転移者様といえども公の憲兵以外にギルドからも手練れのギルド員による追捕使が派遣されますので、ご留意下さい」
「わかった」
まあ、するつもりはないが、心しておこう。
「では、登録致しますので、フルネームと年齢、天職を教えて下さい」
とりあえず名字を後ろに。
「ケント・ミウラだ」
「ケント・ミュラー様」
どうしてもミュラーに聞こえるらしい。アイの問題か?
「年齢は19歳だ」
「えっ、19歳?」
「ん?」
「失礼しました。もう少しお若いのかと。最後に天職は?」
やっぱり、この世界でも日本人は幼く見えるらしい。
ああ。天職かぁ、天職なぁ。
「天職は、ない」
「はい? ええと……分からないと言う意味ですか?」
「いや、存在しないんだ」
メモを取っていたアデルさんが、まじまじと俺の顔を見た。
「どういうことでしょう?」
ギルマスにも視線を送った。何を言っているのだという表情を浮かべている。
「ないというのは。困りましたな」
「でも、オーブが点滅しないのですから、実戦経験があって、それなりの武力をお持ちのはずですが」
そういう、隠し判定があるのかよ。
『ご主人様。とりあえず剣士にしておいて下さい、一番レベルが高いですから』
なるほど。
「天職はないが、支援天使がレベル29の剣士にしておけと言っている」
「あぁぁ……そうですか。まあ、職能をお持ちならば結構です、ではそのように。アデル君!」
はいと答えた秘書さんは、メモを別の小さい紙切れに書き写していた。
数分後。
「できました」
書いた物を差し出してきた。
中央に紋様がありその周りに読めない文字が……そう思っていると、さっきみたく少しタイムラグがあって日本語に上書きされていた。
「記載事項に間違いは?」
ケント・ミュラーになっているが……まあそれは良いとして。
「ないが、このコードは?」
GRN-999-00001と冒頭に書いてある。
「ケント様の登録コードです。グラナード初めての転移者様の登録ですので、1番です」
なぜだか、誇らしそうだ。
「ふぅむ」
GRNはグラナードの意味か。まあ俺がそう見えているだけで、本当は違う文字なのだろうけれども。
「では4つに折って左の掌の上に置いて下さい」
「ああ」
言った通りにしたのだが、紙にコシがあって折り目が戻って立ち上がってきた。しっかり折り込もうとすると。
「ああ、いや。そのままで、結構です。はい」
ん? さっき立ち上がったアデルさんが火の付いた燭台を持ってきた。まさか?
「今から火を付けますが……」
やっぱりそうか!
「熱くありませんので、半分ぐらい燃えたところで、ぎゅっと握り込んで下さい」
あっ、そう?
「まあ、やってみるさ」
するとアデルさんは、なんの躊躇もなく掌の紙に近づける。
「むあ!」
結構な勢いで蒼い炎が出た。
でも確かに熱くない……なんだ、コレ!
そろそろいくか。
握り込んだ!
やはり全然熱くない、それ以前に紙の感触がないのだけど。
「では、もう手を開いて結構です」
おお、完全に燃え尽きたようだ。一辺の灰すら残っていない。
「では、手の甲を上にして、IDまたはギルドカードと念じて下さい」
「はぁ……おお!」
半信半疑でやってみると、甲の上が扇形に光った。装飾化された猛獣をあしらった紋章の下に文字が見える。ケント・ミュラーとGRN-999-00001、それにDと読めた。魔法なのだろうけれども、面白いな。
「ギルドもしくは役人などに求められた時に、提示して戴ければ身分証明として使えます」
「へぇ凄いな。これってずっと使えるのか?」
「はい。死亡するか、除名、脱退手続きをするまで有効です。ちなみに、右手を失うと左手、両手を失うと足に表示されます」
両手両足を……やめておこう。
「これで、ケント様は晴れてギルドの一員です。D級冒険者と成られました。よろしくお願い致します」
「こちらこそ」
「手続きは以上ですが、他にご用はございますか?」
用……ああ、そうだ。
「青銀の買い取りをお願いしたい」
「はい。もちろん買い取りをさせて戴きます。アデル君」
「では、窓口へご案内します。ああ、ちなみにどの程度の量でしょう?」
「ああ、19kg程」
「19kg……本当ですか?」
何だか目を丸くしている。
「大凡我が支部における、1日の買取量の半分に相当します。転移者様とはいえ、すごいですな」
そうなんだ。
「では、ケント様。私はこちらで失礼します」
「世話になった。ありがとう」
礼を言って、支部長室を出た。
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2022/09/20 誤字訂正,表現変え