1話 魔法美少女
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居た。
腰高まで伸びた叢の隙間から覗くと、黄金色に輝く鬣が蠢いている。
ライオンに似ているが、背中に大きな翼がある。キメラってヤツか。
1、2……。
「4頭も居るよ。ケント!」
耳元で囁かれた。ゾクッと来る佳い声だ。
「頭を下げろ。見つかるぞ!」
折角、風下から近づいて居るのに、近付く前に見つかってしまう。
ジリジリと進み、あと30メートルまで来た。
獲物の頭の上には数字が浮かんでいるが、一番大きいやつでも18と大したレベルではない。あれでまだ若い魔鉱獣なのかも知れない。
だが。あの太い腕と爪だ。只人が一閃を喰らえば重症は免れない。
そして鋭利な牙。喉笛を軽く噛み千切って、血を啜られるだろう。
危機感がチリチリと肌を刺し、かえって生きている実感が心躍らせる。
我ながら業が深い───
「金獅子だわ」
「へぇ、よく知っているな」
「2人前のご主人様が、よく図鑑を見せてくれていたからね」
振り返ると大きな瞳と視線が絡む。微かに褐色掛かった肌によく整ったエルフ顔は、うっすらと笑みを湛えているが、張り出した耳が少し下がり、肩が揺れている。
「なんだ。震えているのか」
「むっ、武者震いよ。アタシは天才魔法士なんだからね」
天才ねえ……。
若さを際立たせる艶やかな唇を見ていると、魔法少女と呼ぶ方が相応しい。まあ、着ている物は、生成りの古着と、アニメとは違って随分地味だ。
よく絞れた胴でベルトを締め、襟を肩まで広げるように着崩しているせいで、胸の丸みを包みきれていない。
「だけど、実戦は初めてなのだろう?」
「大丈夫って言ったら、大丈夫!」
少し強弁しているのだろう、顔が紅い。
「そうか。じゃあ、作戦だ。俺が3頭斃す。ただ最初は動くな。俺が2頭斃してから、行動開始だ。残る2頭の内、近くにいる1頭を斃してくれ。いいな!」
「分かったわよ」
少し膨らました頬が、妖艶さの中にも可愛さを秘めていてドキッとする。
「行くぞ」
俺達は二手に分かれた。さらに回り込みつつ放浪者のスキルで、音もなく近付く。
あいつは、ちゃんとやっているかな?
『ご主人様。あの娘のことを、気にしている場合ではありませんよ』
肩に留まった小妖精のような天使が、脳内で囁いた。おっと、そうだった。
あと数メートル。
右手に目を遣ると、刃渡り80cmの大刀が滑光っている。どんな切れ味か試させて貰おう。
一番近いヤツが、ふぅっと息を吐いて首を回した。
今だ!
忍び足を中断!
3歩目で跳び上がると、宙で身体を捻る。
地に足が着いたとき。
右に血がしぶき、毛むくじゃらの首が落ちた。
佳いじゃないか、この刀。
頸骨を断ったにもかかわらず、刃にほとんど抵抗を感じなかった。
剣術に挫折した俺だが、やはり反りのある刀の方がしっくり来る。
『ご主人様、左!』
分かっている!
飛び掛かる金獅子へ払い一閃──
吼えた顎門に、叩き込んだ刀身が喰い込んでいく。柔らかな抵抗が腕に掛かるが、そのまま振り抜く。
飛びすさった敵は、数歩走って体勢を翻した。だが、大きな頭蓋は勢いを殺さず跳んでいった。断層写真のような断面から数瞬遅れて血飛沫を吹き上げる。
肉も骨も不問とする、怖気るばかりの斬れ味。
この世で一番硬い金属というのも頷ける。
残るは、2頭。
だが、仲間ががやられて警戒したのか、残る魔鉱獣は距離を取って対峙する。
「ならば……」
硬いはずの大刀が滑る。
どろっとゲルのように黒く変色して形を喪うと、生き物らしく伸びていく。再び銀に光った時、俺が手にして居たのは長柄の戟と変わっていた。
尖端に月牙が付いた方天戟だ。両手に携え前に突き出して構える。
「ハァァアアア!」
グゴォォォォオオ。
俺の気合いに返した吼え声が響いた刹那、右手が明るくなった。
魔法──
目の端に炎が入った時。
どこ見てやがる!
焔に気を取られた敵に、瞬時に間合いを詰める。
遅い──
戻った顔に方天戟を突込んだ。
金獅子の眉間に切っ先が吸い込むように消える。
始め何でもなさそうだった敵だが、目が虚ろとなり、ブルブル震え始めた。
大きく開いた口から零れる涎に、紅いものが混ざる。
≪職能:槍 士を得ました!:レベル1≫
「セェイ!!」
気合いを込めて引き抜くと、俺の数倍はあろう巨体はどうと倒れた。
痙攣数秒。
静止と共に煙が立ちこめる。
風に流れたあとには、青味を帯びた銀白の塊が地面に転がった。
イケる!
中学、高校と全くサボっていたが、身体が憶えている。爺ちゃんに叩き込まれ、現代日本では終わったと絶望していた古武術が、ここでは最強となりうる!
違和感はまだまだあるが、俺はやれる!
『流石、ご主人様! また腕を上げましたね。もう上級者の域です』
それより、あいつは?
嬌声が聞こえてきた方を向くと、大きな焔が渦巻いていた。
「あぁあああああ、ははっはは……!」
その麗しい姿には全く似つかわしくない嗤い声。
素晴らしく整った顔立ちが歪む程、大口を開けている。
『低級魔法一発で、あそこまで威力を出すとは。やりますね、あのエルフ』
その娘は、こちらを向いた。
「ほらね、ケント! アタシは天才なんだって。言ったでしょ、心配ないって」
「ああ、そのようだな」
初の戦闘でマンティコアを斃すとは。確かに天才かも知れん。
燃えさかる炎が、崩れ落ちるように倒れると、また黒い煙が充満する。
頭の中で、ファンファーレが鳴った。
≪マンティコア4頭を斃しました!≫
≪基準経験値1467を得ました!≫
≪獲得経験値逓倍:256倍を適用,経験値375552を獲得しました!≫
≪青銀4164gを得ました!≫
≪職能:槍 士が昇格しました!:レベル2≫
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≪職能:槍 士が昇格しました!:レベル15≫
≪スキル:電光石火を憶えた!≫
≪職能:剣 士が昇格しました!:レベル37≫
≪職能:拳闘士 が昇格しました!:レベル35≫
≪職能:放浪者 が昇格しました!:レベル43≫
≪職能:回復神官が昇格しました!:レベル33≫
≪職能:魔法士 が昇格しました!:レベル26≫
≪職能:軽業師 が昇格しました!:レベル20≫
≪職能:調教師 が昇格しました!:レベル8≫
そう。獲得経験値逓倍256倍。俺が異世界転移に際して≪天職≫が貰えなかった所為で陥っている状況だ。他の人間よりも職能の昇格が恐ろしく速いらしい。
「ねえねえ、ケント、ケント!! アタシ、魔法士が昇格したって! レベル27だよ。こんなに一気に上がるなんて、すっごい! 嘘みたい!」
「なんだと……」
魔法士のレベルが一気に抜かれた。ここに来る前はレベル15だったのに。まあ、彼女にとって、魔法士は天職ではあるが。
『ご主人様。彼女が得た経験値は、ちょうどご主人様の半分。例の“分かち合う喜び”の効果です』
あれか! そういう権能か。
『あれ? ということは。分けた経験値は、俺の得られる値から差し引かれるのか?』
『いいえ。引かれません』
『なぜだ?』
『逆に、なぜ減ると思ったんですか?』
いや、分けたら減るだろう。
『経験値とは、情報ですから。コピーしたからといって、オリジナルの情報量は減りませんよね』
ふうむ、情報か。納得し……してないヤツが眼の前にいた。
「ねえ、ケント! どうなっているのかしら?」
「うーむ。俺とパーティを組むと、獲得する経験値が128倍になるらしい」
「うっそだあ……嘘だよね?」
艶やかな金色の髪、黒目勝ちな大きな眼、慎ましやかな唇。
造形の神が縦横に腕を揮ったように麗しさだ。
「本当なの?」
細身ながら、大きく熟れた胸元を押し付けてくる。ローブの襟元から胸の肉塊が丸見えだ。その谷間から立ち上る馨しき香気で頭を揺すられるような思いだ。
「ああ、本当だ」
「そっかぁ。ケントは嘘付かないもんね」
抱き締めようと思った刹那、彼女はするりと抜けた。
「ああ、こんなに青銀が落ちてる」
しゃがんだのでローブから白い太股がのぞいている。
拾い上げた小石大の塊を俺に見せる。
魔鉱獣は死して青銀を遺す──故にその名に鉱が入っている。そうアイが言っていた。
「はい。ケント。ほら結構重いよ」
俺に渡そうとした。
「ああ、いや。これはお前が斃した分だ!」
「何言っているの。奴隷が得た物は、全て主人の物なんだよ。何か欲しくなったら、ケントにねだるから。買ってよね」
「奴隷って言うな」
「そうそう。相棒だったよね」
「ああ」
差し出した腕を掴むと、引っ張って抱き付く。
「アン……」
ぎゅっと抱き締め、そのまま唇を奪う。
「うっふう、ケントぅ。宿まで我慢できないの?」
確かに少し節操がなかった。
「夜まではお預けよ。今はもっと魔鉱獣を斃したいからね」
「そうだな」
そう。
この美しき娘を拾ったのは、実に幸運だった。
それまでが、異世界から転移してからが酷すぎたからなあ。
はあ……。
2日前のことが頭を過った。
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訂正履歴
2022/09/20 申し訳ありません。特濃版から見直しました。
2022/09/26 ケントの発言(最後の方)を一部見直し。