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トウロウ葬(キル・インセクタ)  作者: 来栖らいか
12/15

〔12〕

 明け方、さらさらと屋根を撫でる雨音を聞いた。

 いや、雨の音ではない、飼育箱のカマキリ達が動き回る音だ。

 心配しなくていいよ、一番大切なのはキミ達なんだから……そう、一番大切なのは……?

 息苦しさで目が覚めた。

 時計を見ると、普段起きる時間より一時間も早かった。まだ太陽は顔を出したばかりだろう、部屋が薄暗い。空気の乾燥を嫌がりカマキリ達が暴れたかと心配になった浩人は、デスクライトを点し飼育箱を観察した。だが、変わった様子はなかった。

 妙に頭が重い、悪寒もする。風邪を引いたのだろうか?

 学校に行っても、授業に集中できず終業時間までぼんやりしていた。彩花や友人達から話しかけられた内容も、よく覚えていない。

 昨日の出来事が、夢のように思われた。

 告別式の時間を知らせるから、連絡先を教えて欲しいと透子の母親に言われた。透子の死は、まだ実感できない。告別式に行けば、受け入れる事が出来るのだろうか? 

 出会いから別れが、あまりにも短かい友人だった。共通の知人もいない。告別式となれば、女子高校の同級生が大勢訪れるだろう。その中、たった一人の男子中学生は疎外感がある。

 やはり、行くのは止めようと思った。

 帰りに彩花の姿を探したが、昨日のメールで用事があると言われたことを思い出した。何の用事か気になるが、母親が迎えに来るなら心配ないだろう。

 浩人はいつものように科学部が使用している理科室を覗き、そのまま帰宅の徒についた。透子の母親から、いつ連絡が来ても良いように校門を出てすぐ電源を入れる。

 自宅前に来た時、携帯が鳴った。未登録の番号だ。

「はい……あ、透子さんのお母さん。すみません、告別式の事なんですけど……えっ?」

 危うく、携帯を取り落としそうになった。

 透子が、姿を消したというのだ。

『今朝、告別式のために自宅に連れ帰って、あの子が好きだった制服を着せてあげたんです。そのあと少し席を離れて戻ってみたら、ベッドにいなくて……。透子は、死んでいなかったのかもしれない。きっと混乱して、どこかを歩き回っているに違いないわ。早く見つけてあげないと可哀想……でも何処にもいないのよ。看取ってくれた先生は、あり得ないと言うし。私たち、もう、どうしたらいいか……』

 もしかして浩人の所に行くかも知れない、見つけたらすぐに連絡が欲しいと言って透子の母は電話を切った。

 指が白くなるほど、携帯を握りしめていた。その手が、激しく震える。

 生きている? そんな馬鹿な。病室のベッドに横たわっていた透子は、既に命ある姿ではなかった。

「お帰りなさい、ヒロ君。帰り早いのね、部活は?」

 親しげな呼びかけに、心臓が止まるほど驚いた。振り向くと側に、『防犯パトロール』と書かれた蛍光オレンジのジャンパーを着た彩花の母親がいた。やはり同じジャンパーを着た近所の老婦人が一緒だ。

「知ってると思うけど菜園の件で、中学校の育成会がしばらく地区パトロールする事になったのよ。詳しい事はこの回覧板に書いてるから、お母さんにみせてね」

 回覧板を受け取りながら浩人は、ふと思いついた疑問を口にした。

「おばさん、彩花は? これから迎えに行くんですか?」

「彩花? 友達と約束があって、その子と一緒に帰るから迎えはいらないと聞いたけど。私てっきりヒロ君と一緒だと思ってたわ、残念ねぇ」

 冗談めかして笑う彩花の母親の言葉は、頭に入ってこなかった。急激に心拍数が上がり、脇の下に冷たい汗が滲む。

 嘘だ、彩花は浩人に嘘をついた。なぜ、嘘をつかなければならないのか? その可能性は?

 嫌な予感が、した。 

 答えを出すより先に、浩人は走り出していた。


 

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