魔王討伐に呼ばれたこの勇者、何だか人としておかしい!!
「ぐ...我の負けだ」
洞窟の中で、俺たちと相対した羽の生えたデーモンはそう言いながら横たわる。まだ行きはあるようでハアハアと苦しそうに呼吸をしている。今、俺たち勇者一行はこのデーモンを倒したところだ。俺賢者、武闘家の女性、そして勇者が隣にいる。このデーモンはかなりの実力がありなかなか倒すのに苦戦したがあとはトドメを刺すだけだ
「はあ...はあ...今更命乞いなど滑稽に見えるかもしれんが俺に立って家族はいる。食糧を得るために街を襲ったのだ」
この戦いの少し前にとある街がデーモンの集団に襲われるという事があった。結構甚大な被害が出たが、元々人を殺めるつもりはなかったからか、犠牲者は誰も出ていない。そういう理由があるなら少しばかり魔物相手にも同情をしてしまうかもしれない。俺がこいつを倒すのは待とうと言おうとした時だった。大きな音がした。それは勇者がデーモンに炎の魔法を放った事で起こった音だった。デーモンも俺も武闘家も困惑した。
「え?」
「お前...何を?」
「何ってトドメ刺すんですよ」
「話聞いてたか?こいつだってこいつなりの事情があったんだろ?」
「は?事情?街一つ襲った奴なんですよ??なんで生かしておくんですか??」
俺はその勇者のまさかの言動を聞いてこう思うのだった。
「いや人の心無さすぎない?せめて慈悲とかあるよね?いやまあ襲ったのは悪い事だし咎めるのは普通だけど事情聞いてた??」
「はあ、あなたがやった事は悪です。なので裁きます。何か問題でも?」
「いやいや問題ってか別に犠牲者出てなかったんだからいいだろ!家族のためだったんだから!」
「あなたは家族のために人のものを盗むんですか?」
俺はそれを聞いてこう思う。
「いや確かにそうなんだけれども。正論すぎて何も言えないんだけど」
「そ、そうよ、その分こっちについて貰えばいいのよ!」
なかなかのフォローをした武闘家に俺は賛成する。勇者は「うーん」と少し考えていた。何を考える事があるのか??とてもいい案じゃないか。トドメを刺すのも可哀想になってきてしまっている2人に全く同情もない勇者。勇者はしばらく考えて疑問を投げかけた。
「裏切る可能性とか無いんですか?改心したってどこで判断するんですか?」
「えっとそれは...」
「ああ、家族人質に取れば大丈夫か。何かあったら家族抹殺すればいいですし」
そのとんでもない発言に俺はこう思う。
「いや、こいつ本当に勇者????やってる事完全に悪役どころか悪魔の所業なんだけど???王様も何でこんな倫理観がぶっ壊れてる奴選んじゃったの??完全に人選ミスじゃん!」
「よし、呪縛の鎖使いましょう」
「え?」
「何か問題でも?」
呪縛の鎖は相手に使うと完全に服従の状態になる。逆らえば電気が流れ痛みによって矯正するという恐ろしい呪文だ。いやそれを使うというか習得している事自体がどうかしてる。家族を人質にとってさらに服従させるのか。本当に狂ってやがるこいつ。サイコパスとかそういう類のアレだ。魔物とかゲーム感覚で倒すタイプだ絶対。
「そこまでしなくていいんじゃないかな?」
「そうですか?」
「ええ!」
武闘家の援護もありなんとか呪縛の鎖をつける事はなかった。それにしても本当にこいつ早く交代してほしい。なんか魔物より魔物してるというか同じ人間として神経を疑う。
「さあ、外に出よう」
「ええ、そうね。どうやら近いうちに青い流星がこの世に降ってくるようよ」
「へえ、そりゃ見てみたいもんだな」
「フハハハハ、お前らにそれはできない」
そう言いながら出てきたのはマントにツノを生やし鋭い牙を生やした男。いや魔物というべきか。それは魔王だというのは考えなくてもわかった。どうしてここに...?まさかもうラスボス戦だというのか?
「ははは、お前らには消えてもらう」
「あなた人々を苦しめて...最低ですね」
その言葉に俺はついこう思ってしまう。
「いや、それお前が言う?さっきからの言動でやってる事は同じかそれ以上なんだけど??その言葉が自分に帰ってきてる事に気づいてる???」
「ふふふ、なんとでも言え!!貴様はここで消えるのだからな!」
「僕、今まででたくさんの魔物倒したんですよ」
「それはどうした?」
「おかげでめっちゃ強くなったんです。ほら」
そう言いながら壁を叩くとその壁に大きな穴が開く。その大きさは俺たちの数倍もある魔王でも入れるほどの大きさだ。
「いやあ...楽しかったなあ。断末魔を聞きながらじわじわ手加減して倒していくの。快感でしたよ」
その問題発言を聞いて俺もこう思うもう。
「いや、もうサイコパスとか言うレベル超えてるよね?やっぱりゲーム感覚で魔物倒すイカれ野郎だったよ?倫理観は冒険の序盤で捨てちゃったのかな?『それを捨てるなどとんでもない!』みたいなメッセージ出なかったのかな?」
「え...降参します」
「はや」
「では呪縛の...」
「いやいいから!!」
どうだけ服従させたいんだこいつは。頭おかしすぎるだろ。勇者は魔物が降参し「じゃあ僕が新たなこの世界の頂点ですね」と言う。それを聞いて俺は
「こいつが頂点とかこの世界終わったわ」
とだけ言った。