徐々に蘇る記憶
長らくお待たせしました。
続きは未定ですが、なるべく早めに投稿したいと思います。
「アーサー……」
誰かに名前を呼ばれた気がした。
その名前は見に覚えがない。
しかし、知りもしないはずのその『声』が、妙に懐かしく感じ、顔を声の主の方に向ける。
「お母、さん……?」
顔が朧気で、よく見えない。
そして、またもや知りもしない女性なのだが、自然とそう声が出てしまう。
何かを思い出そうとするが、そこでずきんっと頭が割れそうなほど痛む。
あぁ、そうだ……。俺はーー
「そうだ。俺は『アルトリエル』というのだった……」
そして、ミドルネームはフォルメインと。
しかし、姓は思い出そうとすると、先程お母さんと言ってしまった女性の顔のように靄がかかってしまう。
けれど、それがもどかしく、無理にでも思い出そうと苦戦していると、女性が背を向ける。
そしてそのまま、何処かへと歩いていってしまう。
「待って!!!」
無意識のうちにそう口にし、腕を伸ばしていた。
謎の損失感を覚えて、思わず伸ばした腕を折りたたみ手を胸のところに持っていってしまう。
その手から心臓の鼓動がとくんとくんと伝わってくるのを感じ、それによって、窓から黄昏時の日が差し込み、自分を照らしていることに気付く。
そこでようやく、生き残れたということに気付く。
「よかった……」
死ぬことを覚悟していたが、それでも生き残れたことに深く安堵する。
そこでふと、夢を思い出すが、先程まで見ていた女性の姿形、声はもう、空気の中に溶けて、思い出せない。
それでも、「アルトリエル・フォルメイン」と言う自分の元の名は深く頭に刻み込まれている。
家名があるのも思い出せたが、その名まで思い出せなかったのが残念だが、7年間ほとんど進んでいなかった自分の記憶を少し引き出せたことに喜びを感じる。
しかし、自身の記憶についてはこれ以上触れると、頭に激痛が走るのでやめておく。
その代わり、気を失う直前の記憶をそっと思い出す。
(あのときの魔法とその直前にあった起死回生のような力は一体何だったんだろうか)
魔法の方はわからないが、力の方は今は作用していないと理解できる。
力の方はどうしようもないが、魔法の方は後で試してみたい。
流石にここでやるのは、色々とまずいだろうから。
そうしていると、二人の気配が近づいてくる(正確には護衛も含めるから五人だが)。
一人はエルディール殿下。もう一人は義父である。
ここまで気配が分かったかなと考えたが、今は良しとする。
二人の気配はやはり、俺の病室の前で止まり、ノックをして入ってくる。
「なんだ、ウィル。起きていたなら声を上げてくれればいいのに」
入ってくるなり、上半身だけ起こした俺を見てそういう。
俺はそんな殿下に頭を少し下げ、会釈をする。
義父にもチラッと視線を送り、会釈をする。
そんな中殿下はベッドの近くに備え付けてあった椅子に座りながらきいてくる。
「ウィル、身体の方は大丈夫かな?」
「……今のところは、記憶が多少戻ったくらいで頭にも身体にもなんの異常はありません」
「それはそれは良かった。2日間目覚まさなかったようだからね……え??」
「2日??」
殿下は何故か固まってしまい、俺は2日も気を失っていたことに純粋に驚く。
(まぁ、完全に力尽きて、死んでいてもおかしくない状態だったから2日でというのは早い方……かな?)
そう納得させる。
「ウィリアム?記憶が戻ったって、どういうことだ?」
復活した殿下が開口一番にそれを聞いて来たので淡々と返す。
「そのままの意味ですよ?」
「そういうことじゃ……もういい。それで?戻った記憶というのは?」
「家名までは思い出せませんでしたが、名前を思い出せました。『アルトリエル・フォルメイン』それが私の名前です。しかし、ふわふわしているので、ウィリアムのほうが今はしっくりきます」
改めて思い出し、それを言いながら考える。
(そうだ。家名まであるということは何処かの貴族の家なのだろうか。にしても、なぜあんなに庶民的な。いやでも、服に何処かの紋章みたいのも……庶民?紋章??)
「うッ……」
記憶を思い出そうとした弊害か、途轍もない頭痛が襲う。
「ウィリアム、大丈夫か?」
突然頭を抱え、呻き声を上げた俺に驚き殿下はそう声をかける。
「だい……じょう……ぶ……です……」
掠れる声でなんとか返事をするが、フラッシュバックされる光景によって更に頭を抱える。
どこかの国の紋章をつけて朝早くに仕事に行く父親。
いつも笑ってほんをよみきかせてくれたり、ご飯を作ってくれる母親。
優しい微笑みを向けて見守る両親。
景色が変わる。
母親を庇って倒れている父親。
ドアに挟まれながらも叫ぶ母親。
両親とも、血を流して倒れている。
そして、突き飛ばされ、気を失う直前に見えた両親を喰らおうとしている狼。
「やめろ……!!やめてくれ……!!やめろぉぉ!!!!!!!!!!!」
その叫びによって魔力が一気に解放される。
その魔力が吹き荒れ、部屋の中を巡る。
解放される魔力はその人の性格に依存した属性が乗る。
そのため幸いにも、周りを破壊したり、人を吹き飛ばしたりするようなことはなかった。
むしろ、魔力に乗った属性によって壊れていた部分が若干壊れる前に戻っていたり、周りの部屋の患者の状態が若干良くなっていたりしていた。
だが、些細なことなので誰も気づくことはない。
「ウィリアム!?」
だから、殿下が驚き立ち上がっても殿下自身に何も被害はなかった。
しかし、魔力が解放されているので、彼の護衛が殿下を庇う構えになり、魔力が開放されている元凶であるウィリアムの首を刎ね、止めようとする。
しかし、それを殿下が止める。
「やめろ。その剣をしまえ」
「ですが……」
「2度は言わない。それに、魔力の解放はその人物の性格に依存している。それに、ウィリアムの性格は私がよく知っている。このとおり、魔力解放に間近で当たっても何の被害もないから安心しろ」
「はっ……」
気が動転しているなかで殿下や父上の事をすっと思い出し感情を無理やり落ち着ける。
「ハァハァハァ……殿下……すみ……ませ……」
魔力を出しすぎて朦朧とする中でなんとかそう言い、意識を手放す。
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side:エルディール
「また眠ってしまったか」
そうウィリアムを見ながら言う。
「そのようですね」とその義父であり騎士団長でもあるルドルフも返す。
「一応もう一度聞くが、ウィリアムの本当の両親はどうなっていた?」
「いたるところを食い散らかされていて、跡形も分からない状態でした。その状態でウィリアムだけはキレイに残っていました。ウィリアムだけ食べようとしなかった。というのには些か説明できない状態でした」
「ふむ。分かったそして、住んでいたところは本当にそこなのだな?」
「さようでございます」
「うん。確定だね。今ウィリアム本人から聞いた『アルトリエル・フォルメイン』という名前と、前に父上に見せてもらったあの事件の被害者名簿の中にあった名前を照らし合わせると……」
「やはりですか……」
「ルドルフお前も気付いていたか。あちらさんの動きがないから良しとするが……まぁ、このことに気づいて私の友人を取り返そうとしても、そう安々と渡してなるものか。だから手伝ってくれよ?」
「はっ……我ら騎士団一同もこれからもそのようにご尽力いたします」
「うむ。よろしくたのむ」
そうやりとりをする。
そして、そのまま二人で部屋から去っていく。
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