日常1
俺の名前はウィリアム・クレルハイト
ランドリン王国にある、騎士養成学院に通っている、生徒である。
「ケイン先生、これどこに置きます?」
今は、ケイン先生こと、ケイン・コースティック・アドリック先生の、荷物を運ぶのを手伝っていた。
「うーんと、机の上に置いておいて」
「分かりました」
机の上にものを置くと、ケイン先生が待ってたかのように喋る。
「ありがとう。あとは自分でやれるから。君は早く家に帰るといい。今日も、するんだろう?」
ケイン先生は苦笑交じりにそんなことを言うので、ありがたくそれに応じることにする。
「はい!また、いつでも言ってください。暇な時なら手伝いますので。では、さようなら!」
早口でそう言い、廊下を駆ける。
ケイン先生の「はい、さようなら」という声が、すぐに遠くに聞こえてくる。
騎士養成学院の入口の戸を潜り、城下町の通りを駆け抜ける。
そして、家に到着。
玄関の扉を開くと、執事さんやメイドさんたちが「おかえりなさいませ」と言って迎え入れてくれるので、「ただいま」と答えて中に入る。
寄ってきた執事さんにコートを渡し、自分の部屋に向かい鍛錬用の服に着替える。
そして、裏庭に向かおうとするが、その前に……
「フレンクさん」
フレンクさんは俺専属の執事で、裏庭で鍛錬する際はこうして事前に知らせておく。
そうしないと、俺が消えたと、大騒ぎになるからね……
「なんでしょう?……あぁ、なるほど、分かりました知らせておきます」
俺の格好を見たフレンクさんはこれから何をするか察したようで了承してくれる。
なので俺は「ありがとう」と会釈を返し、裏庭に向かう。
裏庭では魔法を使用しても良い様に魔法軽減の金属が使われていたりする。
軽い修練場だと思っていい。
そこで今日は、魔法の訓練を少々と、腕立て、腹筋、素振りをそれぞれ100回ずつ
まずは魔法の訓練だ。
魔法は、火・水・地の基本三属性と、回復魔法、防御魔法とそれぞれ5つある。
例外もあるらしいが、俺は知らない。
その例外は一旦置いといて、大半の人は基本三属性の中の一属性と回復、防御が使える。
そして、髪の色はそれぞれの魔法と似たような色になる。
火属性だったら赤系か黄色系。
水属性だったら青系か水色系。
地属性だったら茶色系か緑色系。
例えば、この国の王族はずっと火属性魔法の使い手なので業火のごとく、真っ赤な髪色をしている。
俺は養子だからもちろん違うが、クレルハイト家は水属性魔法の使い手なので、明るい空色の髪色をしている。
そんな中、俺は淡い金の髪色をしている。
金は一応黄色に似ているから火属性かと思うが、俺は一応希少ということになっている、火水地の全属性を使える。
全属性を使えて良いところもあるが、一つに絞れない為、魔法の腕も中途半端になってしまっている。
剣の腕も中途半端なので、俺は全てにおいて中途半端だ。
つまり、拡大解釈かもしれないが、落ちこぼれと言う事だ。
その為、人一倍努力をしないと、すぐに追いつけなくなってしまう。
今でさえ、若干追いついていないというのに……
っと、悔やんでる暇はない。
早速魔法の訓練から始めよう。
終わったら、腕立て、腹筋、素振りだ。
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「90,91,92,93,94……100 よしっと……今日はもう少しで夕飯の時間だから、終わりにしよう。」
近くに置いていたタオルで汗を軽く拭き、着替えながら出入り口に向かう。
そして、鍛錬場の扉を開き、家の中に戻る。
すると突然横から声がかけられる。
「ウィリアム様、夕飯のお時間になります」
「うぉっ!!……あっあぁ。わかった。すぐ行くと義父上に伝えてくれ」
優秀過ぎて気配がないからほんとにこうして認識する前に話しかけられると本当に心臓が悪い……
いるのは分かってても驚く。
そんなことを思いつつ、部屋に戻りささっと、鍛錬用の服から着替える。
そして、ダイニングへ向かう。
ダイニングの扉を開くと、家族全員揃っていた。
「遅れました。すみません」
多少遅れてしまったから謝罪をする。
「構わないよ。今日も鍛錬していたんだろう?さ、ウィルも疲れてるだろうし、食事も冷たくなる前に食べよう」
「……そうですね」
遅れてきた立場なので若干気まずくなりつつも、肯定の言葉をなんとか言う。
俺が席についたタイミングで、使用人さんたちが食事を運んでくる。
そして食事前の挨拶をし、食べ始める。
食器の音をなるべく立てずにに食事をしていると、突然義母上が話しかけてくる。
「ウィル、最近調子はどうなの……?」
「……?身体はいつも良好ですが……」
質問の意図が分からず思わずそう返すと、義父上が足らなかったところを付け足す。
「剣の調子、とかを聞いているんだ」
「あぁ、そちらはまずまずと行った感じです。以前と変わらず、可もなく不可もなく」
でもそれじゃ、意味がない。
だからこそ、人よりも鍛錬をしなければ。
明日はもうちょっと回数を増やすか。
などと考えていると、それを読み取ったのか、義母上が注意してくる。
「確かに、鍛錬も大事だけど、身体を大事にしなさい。無理をして、壊してしまっては遅いわ」
「……忠告感謝します。です……」
「ですが。じゃない。お前はしっかり休んでくれ。私は文の道に進んだから深くは追求できないし、武の道はよくわからないが、お前はその私から見ても頑張り過ぎだ」
義兄上にも先読みされ、注意される。
意地悪で言っているのではなく、養子である俺に対しても俺の体を心配してくれている、優しさで言っているので、無碍にはできないけれど……
「子供のうちは成長が早い分、体を壊しやすい。カインやマリアンヌが言っているようにウィルは頑張り過ぎだ。いつ体を壊してもおかしくない。それに、現役の騎士である私にも言えたことだが、無理をすればいざというときに力が出ない。だから、しっかり休め。」
「はい……分かりました」
義父上にも後押しされてしまったので断れない……
それからの食事は、少しの間俺がシュンとしてしまったが、普段と変わらず和気藹々と進んだ
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翌日
いつもと変わらず、朝ごはんを済ませ、自分の部屋に戻り、騎士養成学院の制服に着替える。
制服は帰ってきたら適当に放り投げて行くのに、いつも翌日はパリパリしていて、シワ1つないのだから、使用人さんたちには感謝せねばなるまい。
腰に剣を挿し、準備が完了する。
「では、行ってまいります。義父上、義兄上」
「おう、頑張ってこい」
と言って見送ってくれるのは義父上だ。
義兄上も見送ってくれるが、俺が出た直後くらいに仕事に行くので、手をふるだけである。
義母上はまだ寝ているだろう。
こう考えていると、記憶を失ってしまっている、自分がどれだけ幸せか改めて実感する。
記憶を失って、身分も計り知れない俺に対して、ここまで優しく接してくれるのはクレルハイト家の皆だけだろう。
本当にありがたい限りだ。
そう思い、笑みを溢しつつ学園へ向かう。
遅れてしまいすみません
2023/08/27 修正・削除
1.極大解釈という語句を、拡大解釈に修正しました。(それに伴い後書きの注釈も削除しました。)
2.食事の際の挨拶が他作品と似ているため、削除し、自然に繋がるよう修正しました。