最終話
びっくりするターシャとお星さまのふたりに、お母さんはつづけて言います。
「お星さまは、最初のころよりもずっと光がつよくなってるわ。ターシャや私たちが『すごい』とか『素敵』とか『ありがとう』と言うたびにお星さまは光の力がふえたんじゃないかしら。それに、この間の吹雪の時、屋根より高く浮かぶこともできたでしょう?」
「……あ……」
ターシャとお星さまは顔をみあわせました。ふしぎだと思っていたこと。お星さまが空から落ちてだんだんと力をうしなうはずだったのに、ぎゃくに力がふえてきたこと。
それは、ターシャたちのことばがお星さまに光の力をあたえていたのです。
お星さまはピカピカしている自分のからだを見ていいました。
「たしかに……僕はもう六等星より明るくなっているかもしれない。でも……」
そこからさきは言えませんでした。
空に戻れば、ターシャたちとおわかれすることになるからです。お星さまも涙をこぼしました。
「イヤだよ……ターシャも、お父さんも、お母さんも、マルクもオリガも大好きなのに……」
「私もお星さまが大好き! ずっとお友だちだよ! ずっといっしょにいたいよ!」
ターシャが「大好き」や「お友だち」と言うと、お星さまがいっそうつよくピカピカと光ります。泣いているターシャの肩をだいて、お父さんが言いました。
「ターシャ、お父さんやお母さんだって優しくて素敵なお星さまが大好きだよ。だからお役人にはぜったいにお星さまをわたしたくないんだ。それにお星さまの住んでいるところはお空なんだよ。おうちに帰してあげなくちゃ」
「……おうちに?」
「そうだよ。お星さまがおうちに帰ったら、お空をながめてごらん。きっとお星さまがどこにいるかわかるはずだよ。だってこんなに明るくてキレイなお星さまなんだから」
「そうね。こんなに素敵なお星さまを見つけられないはずはないわ。きっとお空でいちばんキレイだもの」
お母さんもそういいました。お父さんとお母さんのことばに、どんどんお星さまの光がつよくなっていきます。
「お父さん、お母さん、ありがとう。僕、空に戻ります…………ターシャ」
「お星さま!」
「ターシャ、ありがとう。僕は空から落とされて、もうただの石ころになっちゃうんだと思ってた。でもターシャといっしょにいてすごくすごく楽しかったよ」
「……私も! 楽しかった!」
お星さまの足が、ゆかからふわりと浮きました。
お母さんがドアを開けると、お星さまは浮いたまま外に出ました。ターシャが急いで追いかけると、お星さまはもう頭の上くらいに浮かんでいました。
「お星さま、大好きだよ。私、これからまいにちお空を見てお星さまをさがすわ。お星さまも私を見てね。だって、ずっとずっとお友だちでしょう?」
もうお星さまの光はまぶしいくらいです。その顔もハッキリとは見えません。だけど声を聞けばお星さまも泣いているのだとわかります。
「うん。僕たちはずっとずっと友だちだよ。大好きなターシャ、さようなら。ありがとう」
「さようなら、ありがとう!」
「お星さま、ありがとう!」
「元気でねお星さま、ありがとう!」
「ワン、ワン!」「ワウ!」
「みんな、ありがとう……」
そう言ってまぶしい光をはなちながら、お星さまはどんどん上がっていきます。ターシャたちは「ありがとう」と言いながらお星さまの光が見えなくなるまでずっと手をふっていました。
その夜。
いままで見たことのない場所に、ひときわつよく大きくかがやく一等星があらわれました。ターシャがその一等星を見ながら話しかけます。
「お星さま、あなたでしょう? だってあなたはいちばん素敵な星だもの」
そのことばが聞こえたかのように、星がピカリと光をはなち、またたきました。ターシャとお父さんとお母さんとマルクとオリガは夜空をながめながら幸せな気もちと、少しだけさみしい気もちになりました。
◇◆◇◆◇◆
それからターシャたちは毎晩のように夜空をながめ、お星さまをさがし、話しかけました。そのたびにお星さまはピカピカと光ってくれました。
そうして十か月ほどがたち、次のクリスマスが近くなりました。ターシャのおうちの周りはやっぱり雪にふかくおおわれて、ほとんど誰もたずねてこなくなりました。
その夜も、ターシャは満天の星空をながめます。
……と、あのいつもかがやく一等星が何度もまたたいたかと思うと、こぼれ落ちるようにすーっと流れていきました。
「あっ」
ターシャが声をあげた直後、ドドーンという音が近くで聞こえました。
「お父さん、お母さん! お星さまが!」
ターシャはそう言って、マルクとオリガと共に家を飛び出しました。
お父さんもお母さんもあわてて駆け出しますが、ひとりと2ひきに追いつけません。それくらいターシャと犬たちの心ははずみ、足に羽をつけたように走っていたのです。
「お星さま!!」
ターシャが流れ星が落ちたところにたどり着くと、そこには周りの雪をほとんどとかして地面にすわり、ピカピカの光をはなつお星さまが笑っていました。ターシャと犬たちはお星さまに飛びつきました。
「ターシャ! マルク、オリガも!」
「どうしたの? また落とされちゃったの? だってもう落ちこぼれじゃないんでしょう?」
「うん。僕はもう落ちこぼれじゃないよ。いつでもお空に帰れる。だから……」
お星さまはターシャと犬たちをぎゅっと抱きしめていいました。
「ちょっとうちを出て、近所の友だちのおうちに遊びに来ちゃった!」
「ほんと!?」
「お父さん、お母さん、またしばらくここに居てもいいですか?」
お星さまがきくとお父さんとお母さんは涙ぐみながら笑って言います。
「もちろん!」
「お星さま、だいかんげいですよ」
「うれしい! お星さまありがとう」
ターシャが言うとお星さまはうれしそうに、またピカピカしました。
◇◆◇◆◇◆
その寒い国にはふしぎな言い伝えがあります。
夜空にかがやく一等星のひとつに「素敵」とか「大好き」って話しかけると、こたえるようにピカリと光ってくれるのです。
そしてもうひとつふしぎなことに、その星はクリスマスの前後の二か月の間だけ、空からいなくなるんですって。
きっとみんなの願いや幸せをかなえるために、地上におりてくるんだと言われているんですよ。