第3話
そこからまた半月ほどたちました。
ターシャは変わらずにお星さまと楽しく遊んでいましたが、お父さんとお母さんはときどきまじめな顔で話をしていました。ターシャはそれを見て、ふあんな気もちになるのでした。
ある晴れた日、マルクとオリガがまた耳をぴんと立てて窓に向かってワンワンと吠えました。
ターシャが耳をすませると、ちいさくシャンシャンシャン……と鈴の音が聞こえてきます。きっとトナカイが引く、大型のそりに付いている鈴の音です。
「まずい、もう来た! お前、打ち合わせどおりに!」
「ターシャ、お星さまとこっちにおいで!」
お父さんがあわててドアのほうに、お母さんはターシャとお星さまをターシャの部屋に連れていきました。
ふたりをターシャのベッドに寝かせ、お星さまを隠すように何枚もお布団や毛布やカバーをかけます。
「いいかい、お星さまをぜったいに誰にも見せないようにするんだよ。お星さまも今だけ光を小さくしていてね」
お母さんがささやくようにそう言うと、ざざあ! とそりが止まる大きな音が外から聞こえました。
誰かがトナカイのそりでやってきたのです。お父さんとその人の話し声が聞こえます。お父さんは少しおこっているみたいです。
ターシャはガマンしていましたが、何枚もお布団をかさねていて、しかもぽかぽかのお星さまがお布団の中でくっついているので暑くなってきました。顔がまっかになって汗が出てきます。
「やめてください! 娘はかぜをひいているんです!」
「そんなことは信じられん! 星を隠しているとお前たちのためにならんぞ」
お父さんと、そりに乗ってきた人が言いあいをしながらターシャの部屋のドアをらんぼうに開けました。
そりに乗ってきた人は長くてりっぱなヒゲを持ち、ごうかな毛皮のコートをきています。とてもえらそうな人です。
えらそうな人は、まっかなターシャの顔を見ていいました。
「……ふん。かぜをひいているというのは、どうやらウソではなさそうだな」
「早く出ていってください!」
お母さんが大声で言うと、えらそうな人はこう言いました。
「まだだ。すべての部屋を見せてもらおう」
「……どうぞ。でも星などいません。もしいたらどうしますか?」
「それはきまっている……」
えらそうな人は、お父さんと話しながらターシャの部屋を出ていきました。
「……お母さん、あのひと、お……」
「しいっ」
ターシャがお母さんにきこうとすると、お母さんはひとさしゆびを口の前にあて、しゃべってはだめ、と伝えました。
どれくらいの時間がたったでしょう。ターシャがじっとガマンをしていると、ドアの閉まる音、そしてシャンシャンシャン……と鈴のなる音がしました。
鈴の音はだんだんと小さくなっていきます。かんぜんに聞こえなくなってから、お母さんはお布団をはがして「もういいよ」と言いました。
「お母さん! あのえらそうなひとはお星さまをさがしてるの?」
「たぶんね。お父さんにきいてごらん」
ターシャがたずねると、お父さんはこう言いました。
「あいつはこの国のお役人だ。お星さまのうわさを聞いてさがしにきたんだ。お星さまを出せといってきた。もちろんいないとウソをついたが、またやってくるかもしれない」
「じゃあ、またその時にお星さまを隠せばいいわ」
「そうもいかない。今はまだ雪があるからお役人たちはトナカイのそりに乗ってくる。しかし来月には春が近づく。雪がとければ馬車や自動車が使えるんだ。そうしたらあいつらが家に近づくまでこっちは気づけない。たぶんお星さまを隠すのが間に合わなくなる」
「そんな……」
「ターシャ……」
ターシャはお星さまに抱きつきます。お父さんはそれを見てかなしそうにいいました。
「あのお役人に、お星さまを見つけたらどうするのかきいた。そうしたらとてもひどいことを言っていた」
「えっ」
「この国の中心の広場に、オリをつくってそこにお星さまを閉じ込めるんだと。お星さまが光っているのをいろんなひとへの見せものにして、この国はすごいんだぞ~といばるつもりなんだってさ」
「……ひどい! そんなの、そんなのお星さまがかわいそうだわ!」
ターシャはぽろぽろと涙をこぼしながらおこりました。お星さまとぎゅっと抱きあいます。お星さまもかなしそうに言いました。
「僕もそんなのイヤだ……でも、僕を隠していたらターシャやお父さんやお母さんが、そのお役人にひどい目にあわされちゃうんじゃないの?」
お星さまのことばにハッとしたターシャがお父さんとお母さんを見ると、ふたりはうつむいてだまっています。
「……そうなの?」
「ターシャ、お父さんとお母さんはね、そうなるかもしれないって前から話をしていたの。だからね、お星さま」
「いや! だめ! お星さまをお役人にわたさないで!! お願い!」
わあわあ泣くターシャをなだめながらお母さんがいいます。
「ちがうのよターシャ、お星さま……今ならお星さまはお空に戻れるんじゃないかしら?」
「「……えっ!?」」