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第1話

 それは、どこか遠くの寒い国のおはなし。



 その国は冬になると本当に寒くて、ターシャのおうちの周りは雪で全てがおおわれてしまいます。


 春から秋までは通うことができていた学校も冬の間はお休みですし、お隣の家は何キロもはなれているのでお友だちと遊ぶこともできません。

 冬の間ターシャは雪の世界に閉じ込められて、お父さんとお母さんと犬のマルクとオリガの家族だけですごしているのです。


 それでも昼のうちはキラキラとした一面の銀世界で犬たちと雪遊びをしたり、走り回ったりできます。しかし夜は外に出ることはできません。

 夜は寒いだけでなく真っ暗。黒と白の色のない世界。人間にとってはとてもキケンだからです。

 その夜もターシャはおうちの中で空をながめていました。


「あぁあ、つまんないな」


 窓の外に見えるのは満天の星空。すみきった空気の中で燃えるようにかがやく一等星から、針の先ほどの白い点がかすかに光る六等星まで、星々がぎっしりと夜空に浮かんでいるのが見えます。


 すると突然、その夜空からこぼれ落ちるようにひとつの星がすーっと流れていきました。


「あっ」


 ターシャが声をあげた直後、ドーンという音が近くで聞こえました。


「流れ星が落ちたよ!」


 ターシャは犬たちと共におうちの外に飛び出して、流れ星が落ちた方向に走り出しました。明かりも持ちませんでしたが星明かりで少し先まで見とおせるのと、流れ星が落ちたところが淡く光っているので迷わず走れます。


挿絵(By みてみん)


 お父さんとお母さんはターシャを止めようとあわてて追いかけましたが、ひとりと2ひきは転がるように駆けていくのでつかまりません。あっというまに目的の場所にたどりつきました。


「あっ! お星さま!」


 それは確かにお星さまでした。

 周りの雪を半分とかし、半分はその身を雪に埋もれさせてはいましたが、とげとげの身体がほんのりと光るお星さま。

 しかし、しくしくと泣いています。

 ターシャは近づいて声をかけずにはいられませんでした。


「どうしたの? なぜ泣いているの?」


 お星さまは涙をこぼしつづけたまま応えます。


「落ちちゃった……僕は、もう空に戻れない……」


「えっ、どうして?」


「僕は……六等星よりももっと暗い、落ちこぼれの星なんだ。落ちこぼれだから、空から落とされたんだ」


「ええっ!?」


 ターシャはびっくりしました。流れ星が、空から落とされた落ちこぼれのお星さまですって!?


「そんな話、はじめて聞いたわ」


 ターシャがそう言いながらお父さんとお母さんを見ると、ふたりもウンウンとうなずきました。

 ……と、その向こうにギラリと光るふたつの目が見えました。マルクとオリガが手をビンと伸ばし、ううう、と唸ります。


「……オオカミ!!」


 夜の森から1ぴきのオオカミが現れたのです。ターシャは怖くなってふるえ、思わずお星さまに抱きつきました。

 お父さんとお母さんもその側に集まり、ひっしにオオカミを追い払う方法を考えようとしましたが、ターシャを急いで追いかけてきたので銃も火も持ってきていません。


 もうだめか、と思ったその時。

 ターシャはとてもぽかぽかと暖かくなりました。そして辺りをやわらかな光が照らします。

 お星さまが泣くのをやめ、精一杯の力をふりしぼって光っているのです。まるでそこだけが昼間のよう。

 オオカミはお星さまの光と暖かさに驚いたのか、くるりと回れ右をして夜の森に帰っていきました。


 オオカミが見えなくなると、お星さまはふうふうと息を吐き、光が最初のころよりも小さく弱々しくなってしまいました。

 三人はポカンとしていましたが、やがてターシャが口をひらきます。


「お星さま、ありがとう。お星さまはとってもすごいんだねぇ!」


「すごい?」


 お星さまの弱々しかった光がいっしゅんだけピカリと明るくなります。


「うん。本当にすごい! オオカミも逃げちゃうし、暖かいし、魔法みたい!」


 ターシャの言葉に、ピカリピカリと光りながら、少しだけうれしそうなお星さま。


「ありがとう……でも僕はもうすぐこの力も使えなくなるんだ」


「えっ? なぜ?」


「空から落ちた星はだんだんと力をうしなって、空に戻ることも光ることもできなくなって、ただの石になるんだよ」


「そうなの……ねえ、お星さま。私のおうちにきてくれない?」


「え?」


「もし光らなくなっても、お星さまのそのとげとげのかたちはとっても素敵よ! 私、お星さまとお友だちになりたいの!」


「いいの……?」


 お星さまがおそるおそるそう聞くと、ターシャもお父さんもお母さんもにっこりしました。


「お星さまは命の恩人だ。何もないところだがおもてなしをさせてくれ」


「お星さま、せまい家ですけど来てくださいな」


 そうしてターシャ達は、お星さまをおうちに連れて帰りました。

 お父さんは丸太を切って、とげとげのお星さまでも座りやすいイスを作りました。お母さんはおいしい料理をつくっておもてなしをしました。

 ターシャはクリスマスツリーの飾りをツリーから外して、お星さまのとげとげのひとつにぶら下げました。


挿絵(By みてみん)


「わぁ、とっても似合うわ! お星さまがもっと素敵になったよ」


 ターシャが似合うとか素敵と言うたびに、お星さまはうれしそうにピカピカします。

 犬たちはお星さまにからだをこすりつけたり、ペロペロなめたりしました。


「うわわ、くすぐったいよ」


「マルクとオリガもお星さまとお友だちになりたいって」


「ふふふ、うれしいなあ」


 お星さまはまたピカリと光り、周りが春のようにふんわりと暖かくなります。


「わぁ、暖かい! お星さまは本当にすごいねぇ!」


「やめてよ、さっきから褒めすぎだよ……」


 そう言いながらも、お星さまはずっとピカピカしているのです。お星さまが光るとターシャは暖かいだけでなく、なんとなくうれしくなってしまいます。

 ターシャがにっこりすると、お父さんもお母さんも、マルクもオリガもうれしそうにします。もちろん、お星さまも。

 ターシャのおうちは暖かく、幸せな空気でいっぱいになりました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お星さまが喜ぶたびにピカピカ光るのが、可愛くてほっこりして、その情景が目に浮かびます。 光るだけでなくて、春みたいにあたたかい。 冬の閉ざされた世界の描写があるからこそ、お星さまの存在が…
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