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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
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65 聖騎士団白兎

 クレールはダールの元へと急いで戻ってきた。逃げた盗賊団と遭遇していないか不安だったのだ。

 クレールの紅色の瞳には先ほどと同じように倒れているダールの姿があった。ダールは無事だったのだ。

 その姿にクレールはほっと息を吐いた。


 少し遅れてマサキとネージュの瞳にダールが映る。その姿は店の前で腹を空かして倒れている姿と何一つ変わらない。実際腹を空かしているのだから同じである。

 しかし三人の盗賊団を相手にした後だ。いつもの姿とはいえ心配に思う気持ちはいつもの何倍にも膨れ上がっていた。


「ダール……本当にやってくれたんだな。ありがとう」


 ネージュに支えられているマサキが小声でオレンジ色の髪の美少女に感謝を告げた。

 そしてゆっくりとダールの元へ近付く。


 ダールもマサキたちが来てくれた事に気が付いたのか口を開いた。


「ぅ……兄さん……姉さん……」


 弱々しい声だ。それでも何かを必死に伝えようとしている。


「お腹……空いたッス……」


 それは腹ぺこを伝える言葉だった。


「ふふっ。ダールらしいですね。すぐに食べさせてあげたいですけど食べ物が……」


 盗賊団が無人販売所の商品を全て盗んだせいでマサキたちの家には食べ物がなくなってしまっている。

 そして盗賊団の茶髪の男とスキンヘッドの男に商品は盗まれたままだ。

 盗賊団の黒髪の男からは盗まれた商品を取り返せたが、先ほどの乱闘から辺りに散乱して袋から飛び出してしまっている。食べさせようにも泥だらけで食べれない状態だ。


「綺麗な状態のクダモノハサミどっかに転がってたらよかったんだけどな……家に帰ってから残ってる食材で作れるもんは作ってあげるよ」


「……ぁ……とぅ……ッス……」


 弱々しい声で返事をするダールだがお腹の虫は『ぐうぅぅぅ』と悲鳴をあげていた。


 マサキとネージュとクレールは倒れているダールの横に座った。これからどうするか作戦会議を始めるためだ。


「すぐにでも家に帰りたいところなんだが……盗賊団を放置ってのもあれだよな。クレールが頑丈に縛ってくれたみたいだけど放置するのは流石に怖い……まずは警察……じゃなくて聖騎士団に知らせるか」


 この世界には警察という職業はない。その代わりに聖騎士団が存在する。 

 兎人族の里(ガルドマンジェ)に世界の均衡を守るために作られた聖騎士団の支部があることをマサキは知っている。

 マサキは盗賊団の身柄を聖騎士団に引き渡すことを優先に考えた。


「そうですね。今家に引き返して再びここに戻るよりは先に盗賊団をどうにかしたいですよね。それにここからなら聖騎士団の支部もそう遠くはありませんからね。お腹を空かしたダールには申し訳ないですが先に盗賊団をなんとかしましょう」


 ネージュもマサキと同意見だった。

 そして会話を聞いていたダールもサムズアップをしていることから賛成だということがわかる。


 しかしここで問題が生じる。

 それは誰が聖騎士団の支部に行って通報するかだ。携帯電話などの通信機器があればこの件は解決するのだが、マサキたちは持っていない。

 なので誰かが兎人族の里(ガルドマンジェ)にある聖騎士団の支部まで行かなければならないのである。


「えーっと……俺はこの通りボロボロだし、警察じゃなくて、騎士の前になんか行ったら怖くてまともに喋れなくなる。だから俺は無理だと思う。悪いことしてないのに騎士がいるとすんごいビクビクしちゃうタイプだからさ。それにネージュが一緒じゃないと外なんて平常心で歩けない。余計にヤバくなる……」


「私も同じですよ。怖いし恥ずかしいです。だから喋れないですよ。ああ……考えただけで震えてきました……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 小刻みに震えだしてしまったネージュ。その振動で体を支えてもらっているマサキも揺れ始める。

 マサキとネージュの二人で聖騎士団の支部に行ったとしても騎士に事情を伝えられずに終わってしまう可能性が浮上してしまった。

 ならば他の二人はどうだろうか。


「クーも絶対に無理だよ。このウサ耳を見られたら、クーが捕まっちゃうかもしれない。何してくるかわからないぞ……でも透明になっていいなら伝える事はできるぞ。悪戯とか心霊現象とか思われて相手にされないかもだけど……それか斬りかかってくるかもだよ……クーも怖い……」


「そうだよな。でもクレールって聖騎士団の兎人(とじん)に拾われたんでしょ? だったら大丈夫なんじゃないか?」


「その兎人(とじん)さんが優しかっただけだぞ。他の騎士はわからないもん……それに優しかった兎人(とじん)さんの顔は覚えてないぞ……」


「そ、そっか。わかった。そんでダールは腹が減って動けないか……」


 結果、誰一人として聖騎士団の支部には、行けない事情があった。


「それなら家に帰って、ダールに何か食べさせて回復してから、聖騎士団のところに行ってもらうか。それかデールとドールに頼むか……いやいやいや、あんなに幼い子供に頼むわけには……」


 策を練っていると兎人族の里(ガルドマンジェ)の中央の方角から足音が聞こえてくる。その足音は速い。つまり走っているという事だ。


「誰か来る……」


 そのマサキの言葉を聞いたネージュはさらに小刻みに震えだした。そしてマサキも同じように怯えてしまい小刻みに震えだす。


「ガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガガッガガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガガッガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 クレールは咄嗟に透明スキルを使い、透明になり身を潜めた。

 腹ぺこで倒れているダールは自力で動くことができないのでそのままの状態だ。


「キミたち大丈夫か?」


 走ってマサキたちの方へ向かってきたのは兎人族の女性だった。スラッとしたクールな兎人族の女性が声をかけてきたのだ。


 白くて大きなウサ耳と真っ白の長い髪が特徴的な女性だ。ウサ耳は太陽の光りに照らされてピンク色の皮膚が透けて見える。

 身なりは白色の制服のようなものを着用していて剣のようなものを腰にかけている。


 そんな彼女が手に持っているものにマサキとネージュは衝撃的を受けていた。彼女が持っているのは逃げた盗賊団の二人だ。

 右手にスキンヘッドの男、左手に茶髪の男。気絶している盗賊団の二人を軽々しく持っているのである。


「……やはり()()()()()は本当だったようだな」


 縛り付けられている黒髪の盗賊団を見ながら呟いた。

 そして兎人族の女性は手に持っている盗賊団の二人を地面に落としてから、震えるマサキとネージュの前にしゃがんだ。

 しゃがんだことによって座っているマサキとネージュの目線の高さと同じになる。


「もう安心しろ。私は聖騎士団白兎(びゃっと)所属のアンブル・ブランシュだ。一応、白兎では団長を務めている。月の知らせで盗賊団が悪事を働いたと知ったので駆けつけてきた。キミたちが取り押さえてくれたんだな。私が来るまでよく頑張った」


 優しく声をかけてきたクールな兎人族の女性は今まさに話題にしていた聖騎士団の騎士それも団長だった。

 月の知らせと言っていたがマサキたちが通報する前に兎人族の里(ガルドマンジェ)に支部を構える聖騎士団の団長が現場に駆けつけてきてくれたのだ。

 そして駆けつけている途中に逃げた盗賊団の二人も捕まえている。さすが聖騎士団の団長だ。


 しかしながらここで安心できないのがマサキとネージュ。

 聖騎士団を前に体の震えが止まらなくなってしまった。さらには聖騎士団の団長ときた。震えが止まるはずがない。


「ガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガッガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


「そんなに怯えなくてもいい。深呼吸して落ち着くんだ」


「ガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガッガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


「これは酷い。精神的苦痛を与えられてしまったのだな。なんとも卑劣な盗賊団だ。許せない」


「ガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガッガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 マサキとネージュが震えている理由は目の前の聖騎士ブランシュが原因だ。しかしブランシュは盗賊団のせいで怯えているのだと勘違いしている。

 それによって正義感の強いブランシュは盗賊団に対する怒りの感情が込み上がっていく。


「私の優秀? な部下がそろそろ到着する。治癒魔法が得意な部下だ。だからもう少しだけ待っていてくれ」


 そう言うと、ブランシュは立ち上がった。そしてゆっくりと盗賊団の黒髪の男方へと向かっていく。


「盗賊団のアンドウ・セイユンだな……」 


 ブランシュは盗賊団の黒髪の男の前に立つと手をかざした。かざした手のひらからは白い輝きを放つ縄が出現する。無詠唱で光の魔法を発動したのだ。


 クレールが縛り付けた木のツルの縄を解き白い輝きを放つ縄で再び腕を拘束した。

 そしてそのスラッとした体型では考えられないほど軽々しく盗賊団の黒髪の男を担いだ。


 そして地面に転がっている他の二人の盗賊団の元へと向かっていく。背筋を伸ばしながらゆっくりとそして堂々と歩く。

 先ほど同様に手のひらから白い輝きを放つ縄を出現させて残りの二人も拘束し盗賊団の三人をまとめて拘束した。


 それから数分後、ブランシュの部下が息を切らして現場に駆けつけてきた。ブランシュが言っていた部下だ。


「はぁ……はぁ……だ、団長……はぁ……はぁ……いきなり飛び出すんで何事かと思いましたよ……はぁ……はぁ……用件を言ってから……はぁ……はぁ……飛び出してくださいって、いつも言ってるじゃないですか……はぁ……はぁ……」


「悪かった……それでだエーム。怪我人の手当てと事情聴取を頼む」


「はぁ……はぁ……だ、団長は……?」


「私は盗賊団を王都まで連行する。エーム。ここは任せたぞ」


「ほ、本当に団長は忙しいですね……了解です。ここは任せてください」


 ブランシュの部下のエームは軽く敬礼する。その横をブランシュが通りエームの肩を一度だけ叩く。

 肩を叩いた方とは別の手には白い輝きを放つ縄を一本握っていた。その縄を辿っていくと三人の盗賊団がまとめて引っ張られ引きずられている。

 片手で三人を軽々と引っ張る姿は勇ましい。そして見惚れてしまうほど姿勢は正しく優雅にそして堂々と歩いている。


「ではでは事情聴取をとりながら傷の手当てといきますか……」


 震え怯えているマサキとネージュの前へと向かっていく。

 そしてその横で倒れているダールに向かって治癒魔法をかけた。倒れている者から優先に救おうと考えたのだ。


癒しの波動(ヒールパルス)!」


 エームの手のひらから放出された緑色の光がダールを包む。すると見る見るうちに外傷は消えてなくなった。

 しかしダールは起き上がらない。むしろ治癒魔法をかける前と状況は変わっていない。

 なぜならダール空腹だからだ。治癒魔法は外傷を治すだけで腹は満たされない。


「お、おかしい……怪我は治したはずなのに…………次はキミたちの番ですよ。癒しの波動(ヒールパルス)!」


 ダールに続いて震え怯えているマサキとネージュの二人に同時に治癒魔法をかけた。

 怪我をしているのはマサキだけだ。ネージュはマサキが庇ってくれたおかげで怪我はしていない。

 マサキの背中の痛みはエームが放出する緑色の光のおかげで徐々に治癒されていった。そしてネージュのスカートに隠れている顔の傷も完全に塞がり完治したのである。


 しかし、二人の震えは一向に止まらない。


「ガガッガガガッガッガガッガガガガガッガガガッガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


「こんなに抱き合いながら怯えて……相当怖い思いをしたんですね……盗賊団め……」


 小刻みに震える二人の気持ちを考えて拳を強く握りしめたエーム。盗賊団に対する許せない気持ちを表した。

 しかし二人が震えている理由は目の前の聖騎士団の団員に緊張しているからだ。

 そんな時、幼い子供の声が聞こえてくる


「おーい、お姉ちゃーん!」

「おーい、お姉ちゃーん!」


 それはダールの双子の妹のデールとドールの声だ。

 この場から姿を消したクレールが二人を呼んできたのである。


「キミたちは……」


 そのままデールとドールは聖騎士団のエームに事情を説明した。ここに来るまでにクレールから話を聞いていたのでスムーズに説明することができた。

 無人販売所イースターパーティーで盗難事件が起きたこと。それをマサキたち追いかけて捕まえたことを丁寧に説明したのである。


 デールとドールが事情聴取中はマサキとネージュは抱き合いながら小刻みに震えたまま。ダールは腹を空かして倒れたまま。クレールは右側だけ大きいウサ耳を見られたくないがために透明のまま姿を表さなかった。

 もしかしたらこのメンバーの中では一番幼いデールとドールが一番しっかりしているのかもしれない。


 こうしてダールのおかげで盗賊団を捕まえることができ、デールとドールのおかげで事情聴取が終わり一件落着したのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


騎士団の隊長のブランシュが登場しました。白い髪と白い肌そして白い制服。

名前の由来は白の多さからフランス語で白を意味するブランシュからとりました。

そして苗字のアンブルはフランス語で琥珀色という意味です。


さらに部下のエームは本名は[ドゥズィ・エームです。

名前の由来はフランス語でdeuxième (ドゥズィエーム)二番目のと言う意味から取りました。

ブランシュの二番手とかそんな感じでつけた名前です。

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