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37 閃くアイディア

 八百屋の店内に入ったマサキとネージュ。真っ先に目に入ったのはレジ横にいる八百屋の店主だ。


 八百屋の店主は年老いたよぼよぼの兎人族(とじんぞく)のおばあちゃんだった。

 灰色の髪に白髪が混ざっている。そして短めのウサ耳。ミニウサギの血筋なのだろうか。年齢相応に丸まった腰がさらに八百屋の店主を小さく見せている。


 八百屋のおばあちゃん店主を見たマサキはイメージ通りの店主だと思っている。兎人族というところ以外は日本でもよく見かける八百屋で働くおばあちゃんという感じだ。


 木製の大きな椅子に腰掛け下を向きながらうとうととしている。おばあちゃんだから仕方がない。疲れていて眠たいのだろう。

 頭がコクンコクンと動いている様子から睡魔と闘っているように見える。このまま眠って体を休めてほしいとマサキは思いながら見続けた。

 そして入店時の挨拶がないのと目が全く合わないことから寝ている可能性も浮上してきた。


(おばあちゃん無理して起きなくてもいいからな。ゆっくり体を休めて長生きしてくれ。でも仕事中に寝るなんて本当に平和な世界なんだな……って俺も昨日寝てたか。いや、あれは頭痛が激しくて寝てたわけであって……サボってたわけじゃ……いや、無人販売所だから営業中寝ててもサボリにはならないのか……でも)


 レジの横で眠るあばあちゃん店主が昨日の自分と重なって見えたマサキ。平和な世界に感激なしながら買い物を始めた。


 さすがの二人でも眠って意識のない相手にはビクビクと怯えたりはしない。

 だがいつ起きるかわからない状況には緊張し気になってしまっているのもまた事実。

 チラチラとおばあちゃん店主を見るネージュは買い物に全く集中できていない。そんなネージュの手をマサキは引っ張って店の奥の冷蔵ショーケースの方へと向かおうとする。

 何かを見つけたのだろうか。繋いだ手でグイグイとネージュを引っ張っている。


「マ、マサキさん。ど、どうしたんですか? ニンジンさんはそっちにはないですよ」


「いや、もしかしたら()()があるかなって思ってさ……」


「ん〜? ()()ってなんですか?」


 小首を傾げるネージュを尻目に冷蔵ショーケースの中に陳列されている商品を確認するマサキ。

 冷蔵ショーケースの中にはドリンクや乳製品、デザート類などバリエーションが豊富に並んでいた。まるでコンビニのような品揃えだ。むしろコンビニでは置かれないようなものもたくさん置いてある。


 品揃えの豊富さから、野菜や果物だけでは生計が立たず商品を増やしたのだろうとマサキは思考した。そんなことを考えながらお目当ての商品を探す。


「おっ、あったあった。やっぱりあった。品揃えが豊富でよかったよ。コンビニみたいな八百屋だな。いや、コンビニよりも豊富だわ。ドン○ホーテかよ」


 マサキはお目当ての商品を見つけ手に取った。そしてその商品を「これだよ」と言いながらネージュに見せる。


「これって……生クリームですか」


「そう。生クリーム」


「ケーキでも作ってくれるんですか。ぐふふっ。食べたいです」


 ケーキの味を思い出したのか、ネージュはヨダレを垂らしそうになっていた。


「惜しい。ケーキのようでケーキじゃないやつ。ちなみに果物と()()も使うよ」


 ネージュはマサキが指差す方に青く澄んだ瞳の視線を向けた。そこには一斤の食パンが置いてある。

 ケーキのようでケーキじゃないやつと言われその料理が何なのかを考えるネージュ。

 ヒントのように出された食パンから答えを導き出しのか、考えている表情から閃いた表情、そして自信満々な表情へと表情がわかりやすく変化していった。そして自信満々に答えた。


「わかりました! ()()()()()()()ですね」


「ク、クダモノハサミ? え、えーっと……合ってるのか間違ってるのか分からねぇ名前だな。でも想像してるのは料理は多分同じなんだろうな。兎人族ってネーミングセンス悪いし……」


「ちょっと失礼ですよ。それで答えはなんですか? クダモノハサミで正解ですよね?」


「いいや、答えはフルーツサンドだよ」


「フ、フルーツサンド? 聞いたことがありませんね」


 答えを聞いて小首を傾げるネージュ。どうやらフルーツサンドという言葉を知らないようだ。


「ここではクダモノハサミって呼んでるのかもしれないけど、俺の故郷だとフルーツサンドって呼んでるんだよ。そういえばタピオカの次にフルーツサンドが流行ったんだよな……なんか懐かしい。次は何が流行るんだろうか? マリトッツオとかか? それともバウムクーヘンとかカステラとか。いや、やっぱりマリトッツオだな。フルーツサンドがヒットしたらマリトッツオもやろう。うん。そうしよう」


 ネージュを放っておいてぶつぶつと語り出したマサキ。

 そんなマサキは日本で流行っていたフルーツサンドを無人販売所イースターパーティーで提供するつもりだ。

 新鮮な果物が置いてある八百屋には食パンと生クリームが置いてあったのだ。材料は全てこの八百屋で揃う。

 そしてマサキはこの瞬間直感したのだ。無人販売所でフルーツサンドは絶対に売れると。


「なるほど。呼び名が違うんですね。でも確かにクダモノハサミなら無人販売所で売れるかもしれませんね。食べやすいですし美味しいですし。試作品を食べるの楽しみです」


「だろだろ。絶対売れると思う。それで兎人族たちには悪いんだけど名前はフルーツサンドにしよう。クダモノハサミってなんかダサい。それに果物を切るハサミを連想しちゃう。果物ナイフ的な……とにかくフルーツサンドの方が名前がいい!」


「そ、そうですか? フルーツサンドの方がダサいと思いますけど……なんですかサンドって……」


「ひ、久しぶりに強烈なカルチャーショックを受けた……」


 名前が違うだけでカルチャーショックを受けてしまうマサキ。

 料理自体も全くの別物の可能性があると頭に過ぎったがネーミングセンスの悪い兎人族だ。別物の料理の可能性は無いに等しい。

 ただ単にネーミングセンスが悪いだけだとマサキは決めつけた。


「でもなんでクダモノハサミを作ろうと思ったんですか?」


「だからフルーツサンドな。今回は明らかに食材が少ないだろ? ニンジンも食パンの耳も少ししかない。だから無人販売所の商品のレパートリーを増やして華やかにしようかと思ったんだよ。ワトソンくん。いや……ネージュくん」


「ネ、ネージュくん!?」


 マサキは名探偵が相棒に語りかけるセリフを真似て言った。しかし兎人族であるネージュにはそのネタは伝わらなかった。

 そして推理も何もしていないのでネタを知っていたとしてもパッと思いつかないだろう。


「とりあえず帰ったらフルーツサンドの試作品を作るから、ネージュが言ってるクダモノハサミってやつと同じかどうか比べてくれ」


「やったー楽しみです! クダモノハサミが食べれるんですね。早く食べたいです。クダモノハサミ」


「いや、だからクダモノハサミじゃなくてフルーツサンドだって……」


 八百屋で新たな商品が浮かんだマサキ。いつどこでアイディアが浮かぶのか誰にも分からないものだ。


「なんか他にもアイディアが浮かびそうだからまず店内を回ろうぜ」


「そうしましょう! お客さんもいませんし、店主のおばあちゃんも寝てますから買い物しやすくて楽しいです」


「そうだな。俺たちにピッタリの八百屋だ」


 二人は新たなアイディアを求め店内を回った。その間も二人は仲良く手を繋いだままだ。


 チラチラと入ってくる客がいないかどうかを気にする二人だったが他に客が来店してくる様子は一切なかった。しかし空の色と同化している鳥が何匹か店の中に入って来たのを二人は見た。

 チュンチュンと鳴く鳥たちはブドウを一粒クチバシに挟んで飛び去ってしまった。そのブドウは商品ではなく八百屋のおばあちゃん店主が用意したであろうブドウだった。


 鳥が来た時もマサキたちが店内を歩き回っている時も八百屋のおばあちゃん店主はレジの横に座り続けて起きることはなかった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


今現在フルーツサンドって流行ってますよね。

クレープ、パンケーキ、ポップコーンと流行って2020年頃はタピオカの大大大ブーム!

そして2021年ではフルーツサンドのブームが到来しました。

次は何が流行るんでしょうか。この作品で先取りできたら良いなと考えてます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フルーツサンドは好きですし楽しみですね。
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