外伝43 それぞれの任務へ
――任務当日。
聖騎士団白兎の団員――白髪の少女アンブル・ブランシュと聖騎士団白兎副団長のアセディ・フレンムの二名は魔獣討伐のため、この世界の最北端の国――猫人族の国へと向かった。
聖騎士団の支部である聖騎士団白兎の本部に待機という名の雑務で残ったのは、治癒魔法を得意とした兎人族の青年ズゥジィ・エームを含む聖騎士団白兎の団員十三名だ。
オレンジ色の髪と小さなウサ耳が特徴的な中年――ジェラ・ダンを含む残り三十七名の聖騎士団白兎の団員は、殺害予告があった人間族の王――ジングウジ・ローテルの護衛をするため、人間族の国にある王宮へと向かおうとしていた。
「えー、ご存知の通り今回は里の道具屋も同行する。王様の護衛もそうだが、道中の道具屋の護衛。そして到着してからの護衛もしっかりと行うように」
そう語るのは、今回の任務の隊長を任されたジェラ・ダンだ。
ダンの話しの通り兎人族の里の道具屋も同行することとなっている。これは王子のジングウジ・ロイの提案だ。
各国の武器職人と大量の武器をこの機会を利用して王宮へと運び、聖騎士団としての戦力を上げようようという王子の計画だ。
大勢で王宮に向かうのなら武器も大量に運ぶことが可能。さらに直接取引を行いたいという王子の要望に応えるため武器職人を護衛しながらの同行。
武器職人にも護衛がつき安全に武器の輸入もできる。まさにこの機会は絶好の機会だということである。
「こんな大勢に守られながら王宮に向かうだなんて、俺も出世したもんだな。そう思うだろダン」
「うちの国には武器屋がないから、仕方なく道具屋のお前が来たって感じだな。王子に恥をかかせられないし」
「おい。それを言うなって!」
「はははっ。悪い悪い」
ダンの言う通り兎人族の国には武器屋はない。もっと言えば兎人族の国にだけ武器屋がないのだ。
だからと言って王子の要望を無視するわけにもいかず、聖騎士団白兎でもよく利用している兎人族の里の道具屋の店主とその店に置いてある武器を運ぶことになったのである。
ダンと親しく話す道具屋の店主ルージュは、ダンの子供時代からの友人だ。
さらにお互い父娘家庭で娘を子に持つ父親。ダンの長女のダールとルージュの一人娘のレーヴィルは同い年。
そのことからダンとルージュは親友と言っても過言ではないほど仲が良い。そして二人は親バカという共通点もある。
「それじゃ、先に魔獣討伐に向かった副団長とブランシュに負けないように気合入れて出発するぞー!」
「「「うおぉー!!」」」
ダン率いる聖騎士団白兎の団員たちは雄叫びを上げ、人間族の国を目指した。
人間族の王――ジングウジ・ローテルの殺害予告に記載されていたの犯行予定時刻は深夜零時。犯人がその時間を守ってくれるかは定かではない。むしろ信じずに行動するのが正解だ。
だからこそ午前中のうちに到着できるようにダンたちは出発したのである。それまでの時間は『王直属の聖騎士団』と『大きな傭兵団』が王様を護衛している。
聖騎士団の団長クラスの実力を持つ王子のジングウジ・ロイも自分の父である王様を守るため、自らも護衛についているとのこと。
これだけでもかなりの戦力。よっぽどの実力者ではない限り、これを突破するのは不可能に近いことなのである。それこそブランシュと互角に戦ったエルフや、そのエルフと互角レベルの龍人族でないと不可能なことなのである。
なので他国にいる聖騎士団は少し遅めに到着しても大丈夫なのだ。むしろ準備を整えてから来るようにと言われているほど。
ダンたちが人間族の国に向けて出発した頃、先駆けて魔獣討伐に向かったブランシュたちは目的地である猫人族の国に到着していた。
めんどくさがり屋のフレンムがいるのにも関わらずこんなにも早く到着したのは、ブランシュが小さな体でフレンムを背負って『俊足スキル』を発動し走ったからである。
「いや〜、助かったヨ。移動が一番億劫だったからネ。ありがとうネ」
「いいですよ。早く到着できたので」
「そうだネ。早く終わらせてダンたちと合流しようカ。裏でエルフが糸を引いてる可能性もあるからネ」
わざわざフレンムを背負ってまで走ったのは、少しでも早く魔獣を討伐して王様の護衛に向かったダンたちと合流するためだ。
「……ところで、オレたちが戦う魔獣って……もしかして、アレのことカナ?」
「はい。おそらく。いいえ。確実にアレですね」
フレンムの碧色の瞳とブランシュの深青の瞳に映っているのは、数を数えているうちに日が暮れそうになるほどの湧いている魔獣だ。
すでに戦闘が始まっており、冷たい洗浄の空気が二人を襲う。
戦場には、猫人族と牛人族、さらには犬人族がいる。
王様の護衛に回らずにブランシュたちと同じく魔獣討伐を任された聖騎士団並びに傭兵団の団員たちだ。
そして戦場はすでに人間族の国と猫人族の国を繋ぐ世界一長い国道を超え、猫人族の国の正門にまで被害が到達していた。
「めんどくさい……とは言ってられないネ。すぐに参――」
「俊足スキル!」
フレンムの話を最後まで聞かずにブランシュは走り出した。その速さはもはや瞬間移動と言っても過言ではない。それほど、ブランシュの『俊足スキル』は進化を遂げているのである。
「ブランシュは戦うのが好きだネ…………いいや、違うカ」
フレンムは自分が吐いた言葉を訂正する。
「ブランシュは平和が好きなんだよネ」
ブランシュのことを入団当時から見ているからこそわかるブランシュの本心。ブランシュは平和のためなら、なりふり構わずに走り続ける人物だとフレンムは知っているのだ。
「ブランシュと一緒ならオレの出番はないかと思ってたけどネ。ここまでの数なら戦わないとだよネ」
フレンムも戦うために魔獣の群れに向かって歩き出した。
そして右手のて手のひらを広げた。すると、広げた手のひらの上に正六面体の白い物が出現した。その正六面体の白い物には黒い点がある面と赤い点がある面がある。
「コンサイコロ」
これはサイコロだ。
フレンムは自らの能力を発動し、手のひらの上にサイコロを出現させたのである。
このフレンムの能力は魔法でもスキルでもない。ブランシュの『月の力』と同じ加護によるものだ。
ブランシュの『月の力』は、元兎人族の神アルミラージ・ウェネトから授かった力。すなわち加護だ。
それならばフレンムは誰から力を――加護を授かったのか。それはわからない。ただ、強いて言うならば『遊びの神様』から授かった加護だろう。
なぜならこの加護の能力は『出た目によって武器が出現する』という遊びのようなふざけた能力だからだ。
フレンムは『コンサイコロ』と名付けているサイコロを振った。歩きながら振ったため、サイコロの目を確認する前にフレンム自身はサイコロよりも前に出てしまう。振り返って出目の確認も行わない。
確認するのがめんどくさいという理由もあるが、確認するのと同じくらいの速さでその出目が分かるからだ。だから確認しない。
ではどうやって出目が分かるか。それは単純。出目が決定した瞬間にフレンムが『コンサイコロ』を振った手に武器が出現するのである。すなわち武器が出現イコール出目が何だったのか分かるということだ。
「レンコンということは……四だネ。不吉な数字だネ」
フレンムの右手には、半分に切られたレンコンの形をした武器が出現した。見た目はレンコンそのものだが、これは正真正銘武器だ。
「でもこの状況にピッタリの武器だヨ」
フレンムはレンコンを魔獣に向けた。その瞬間、レンコンの穴から無数の銃弾が発射される。まるでマシンガンだ。
銃撃を受けた魔獣は悲鳴を上げながら倒れていく。それほど威力も高い。
フレンムは銃撃が届く位置まで歩くと、その場に立ち止まった。歩くのがめんどくさくなったわけではない。
「これなら近付かなくてもいいネ」
遠距離射撃だ。フレンムは援護に徹するのである。
そんな中、次々と魔獣をなぎ倒していくのが純白に光り輝く二刀流の聖騎士ブランシュだ。
光属性の魔法を身に纏い極限まで身体能力を向上させながら戦っているのである。そして右手には『光の剣』、左手には『月の剣』を握り得意の二刀流で戦場を駆けている。
(月の声。魔獣の数と階級が上級以上の魔獣の数も教えてくれ)
《はい。只今より解析鑑定を行います》
およそ二十秒後、解析鑑定の結果が月の声から知らされる。
《解析鑑定の結果――魔獣の数は死体を含め37万5644体。残りの数は37万3221……37万3219……37万3218、17》
(そんなにいるのか。で、階級が上級以上の魔獣は?)
《はい。上級が死体を含め25万9393体。特級が1万8418体。幻級が15体います》
(幻級もいるのか……それ以上の気配は感じられるか?)
ブランシュが気になっているのはそれ以上の存在。エルフや龍人族の存在だ。
《いいえ。幻級の魔獣以上の気配は感じられません》
(そうか。わかった)
敵の数が分かれば、あとは狩るだけ。ブランシュは幻級の魔獣に向かいながら、立ちはだかる魔獣を剣撃ひとつでその命を奪っていく。
その中でブランシュは、味方の戦力もその深青の瞳で見ていた。
(ここには団長クラスの聖騎士は来ていないみたいだな)
《はい。団員クラスしか存在を確認できませんでした。おそらく王様の護衛についていると思われます》
(だろうな)
《それとこことは別の魔獣討伐に向かわれている可能性も十分にあり得ます》
(その可能性も高いな。ここまでの魔獣を操れるんだ。他の国も襲っててもおかしくない)
ここで疑問がいくつか生じる。
(なぁ、月の声。これほどの数の魔獣を操れる人物は誰だと思う?)
《マスターと今は亡き元マスターの記憶から導くと、神様、天使族、悪魔族あたりがこれほどの数の魔獣を操ることが可能だと思われます》
(神様、天使族、悪魔族か……やはり黒幕には悪魔族が関わってそうだな。三千年前の亜人戦争で滅んだ種族だが、現に滅んだとされるエルフと龍人族の生き残りもいるしな)
さらに濃厚になる悪魔族の存在。『いずれ来る大戦争』を引き起こすのはエルフと龍人族の裏にいるであろう悪魔族の可能性が高いとブランシュは考えた。
そう考えるといくつか生じた疑問が一つ解決する。それはこれほどの数の魔獣をどこに隠していたかだ。
滅んだとされる三千年前から一度も目撃がない悪魔族の存在。もしもブランシュと月の声の考え通り悪魔族が裏で糸を引く黒幕なら魔獣を隠すことも可能であろう。
(全て可能性の話。憶測の話だけどな……生き残りがいるかどうかわからない悪魔族のことを考えても仕方がないよな。今は目の前の魔獣に集中するか)
《はい。それがいいと思われます》
ブランシュの目の前には十三年前に一度討伐したことがある特級クラスの魔獣が五体立ちはだかっている。
その魔獣は罪な王冠。王冠のような黒いツノと大きな棍棒で攻撃してくる牛型の魔獣だ。
「随分と懐かしい魔獣だな」
「ブォォゴオオオオオオオオオ!!!!」
罪な王冠はブランシュに向かって咆哮する。その咆哮は地面を抉るほどの威力だ。
その咆哮を受けても白き少女は怯むことはない。むしろ何の障害もなく突き進む。
「だが、お前たちでは私の相手にはならない」
ブランシュは罪な王冠の横を静かに通り過ぎた。その瞬間、五体の罪な王冠は木っ端微塵に爆ぜた。
恐ろしく速い剣撃で罪な王冠を瞬殺したのである。『死後の呪い』を発動させる暇を与えないほどに。
《さすがマスター。お見事です》
月の声がつい褒めたくなってしまうほど、ブランシュは入団試験の頃と比べてかなり成長しているのだ。
もはやブランシュとまともに戦える魔獣は幻級の階級を持つ魔獣しかいないのである。
「さて……ここからが本番だ」
ブランシュの正面に幻級の魔獣が現れる。ブランシュの強さに引き寄せられやってきたのか、その数三体。十五体いる幻級の魔獣のうちの三体だ。
「悍ましい姿だな。さすが幻級」
ブランシュはさらに強い純白の光に身を包んだ。そのまま一人で三体の魔獣を同時に相手することとなる。
「月影流奥義――」
ブランシュの渾身の必殺技が炸裂する。
「――黒月!!!」
円形の黒い斬撃が魔獣を切り裂く。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ついに任務当日になりました。
ブランシュとフレンムは魔獣討伐。予想できないほど大量でしたね。
エームは待機組という名の雑務組です。
ダンは道具屋の店主ルージュとともに宮殿へ。
って感じですね。
それぞれ配置することができました。
後は本編へと繋がるように物語を進めるだけ!




