飛び降りたら異世界へ-3
するとそこは絶景の広がる屋上だった。
まさに摩天楼。
コンクリートにはヘリコプターの止まるランドマークが描かれている。
くらくらするような浮揚感が漂う中、俺はたどたどしく辺りを歩いた。
見回すと白いぬいぐるみが走っていた。
見つけた!
俺は全身の力を込めて、標的に飛び込んだ。
そしてその感触をようやく手に掴むことができた。
「やっと捕まえたぜ。いったいお前なんなんだよ」
しかしぬいぐるみは無反応。
すると突然黒い雲が空一面に渦巻く。
うめき声のような轟音が立ち込めていく。
俺は一瞬何が起きてるのか分からず固まってしまった。
(え、いや、ちょっとまって。これって現実か?)
黒い雲の中心点から一人の人物が浮き出てきた。どうやら男の様だった。
その人物は鎧兜のような様相を着用していた。手には魔法ステッキのようななんともばかばかしい物を持っている。
(いやいや、仮装大会かよ。顔よ顔W、めっちゃ決まっちゃってんじゃん)
しかし表立って笑うことは出来ず、男は真剣な表情でこちらを睨んでいた。
それに浮いてる!?ワイヤーか何かか?
俺はますますこの状況が呑み込めないでいた。
男は魔法の杖みたいなもので上空から下降へと振り下ろした。
緑の光のような光線がこちらへと向かってくる。
ーオワッッッッッ!!!!!
俺はとっさに後ろへと引く。
コンクリートが若干黒焦げになっていた。
良く分からないけど、なんか攻撃しているみたいだ。
俺は逃げなきゃと脳から自然に信号が流れていた。
すると、後方から扉が開いたような音がした。
バタンと音がした方向を振り返ると、そこに一人の少女が息を切らしながら立っていた。
「あっ、き、君は・・・」
「何してる、こんなところで。気を付けろと言っただろ」
俺は記憶を呼び戻していた。
あの時、結婚式の廊下でぶつかった少女だった。
「気を付けろってそうゆうことなの?」
鎧兜の男がまたしても魔法の杖から光の光線を出してきた。
俺はまたもや身を引いて交わした。
こう見えてもテニスやってたから、瞬発力はあるほうなんだよな。
少女はというと、ずかずかと俺の前に立ちはだかると一瞥もくれず、前を向いていた。
「イヌイ、変身するわよ」
俺の手の中に納まっていた白いぬいぐるみが、するりと俺の手を飛び出した。
そして、白い物体がいびつな剣先の様相に早変わりした。
少女はその剣先を手に持ち、体の前へかざした。
「とりあえず、つかまって。危ないから」
少女は右手の剣先とは逆の左手を俺に差し出した。
俺は何が何やら分からぬまま、とりあえず握手のような形で少女の左手を掴んだ。
少女は後ろ足をコンクリートで蹴り飛び出した。
それに釣られるように俺の体も宙に浮く。
ものすごいスピードで少女は走り出す。
その間も鎧男の攻撃は続いていた。
少女は右へ左へと自由自在に動きながら相手の攻撃をかわしていく。
俺はというと、少女の手を離さないようにするのが精いっぱいだった。
少女は剣先を鎧男の体へぶつける。
しかし鎧男はあまり効いていない様子だった。
少女が足を踏み外した瞬間、鎧男の攻撃が俺と少女の照準目がけて攻撃を繰り出していた。
少女はとっさに俺を投げ飛ばした。
そしてその攻撃は少女の体を焼き尽くした。
俺と少女は屋上の欄干を飛び越え、真っ逆さまに落ちていった。
(うおおおおおおおおおおおい、ちょっと待ってくれーーーーー!)
(これってもしかして死ぬのか・・・・・?)
(いやもう完全に詰んだよなあ!)
―ヒュルルルルルルルルルルルル
あーーーーーー
もうダメだ・・・・・
ああ
あ
えっ
なんだ?
真上にいる少女の腕から、剣先に変身したぬいぐるみが元の姿に戻る。
するとぬいぐるみは眼を光らした。
その目からまばゆい光があふれていく。
そして俺と少女をその光が包み込んでいく。
俺は、そっと目を閉じた。
ここでタイトルのお話が終わります。
いよいよ次からが異世界冒険譚です。
よろしくおねがいします。