戦闘の終わり
「……はぁっ!」
出来た……!
その達成感よりも、大きく奪われた魔力の反動のほうが大きい。
立っていられず、そのまま片膝をついてしまう。
とんでもない疲労感だった。
正直、そのまま倒れず、意識を保っていられただけでも自分を褒めたい。
「リーディ!」
慌てて駆け寄ってくるサリスに、手のひらを突き出して止める。
「だい、じょうぶ……それよりも、後の二体を……!」
「……っ。うんっ! その代わり、ちゃんと見ててよ! 今度は私の力を見せるからっ!」
そんなやり取りをしている間にも、フルミリが魔物の一体を、風の魔法で切り刻んでいた。
このままでは、リーディの道具による成果と、フルミリの実力を見せただけ。
自分の能力を彼に見せていないことになる。
サリスはそれが、ちょっと悔しい。
いやもしかしたら、嫉妬に近かったのかもしれない。
フルミリばかりが、強さを見せている、この状況が。
だからか。
つい、自分が滅多に使わない、奥の手を出してしまう。
「ミスリル……」
それは、マントの内側に仕込んである、一本の短剣。
ミスリル。
最も精霊が収束しやすいとされ、さらには並の金属では太刀打ち出来ないほどの強度を持つとされる、無限使用の魔法道具よりもレア度の高い金属。
ソレによって作られた短剣は、サリスにとっての切り札そのものだった。
魔力を込めれば斬れないものなんてない。
それこそ、飛んできている魔法ですら斬り裂ける。
最強の槍にして盾――いや、短剣。
その短剣に魔力を込めながら、フルミリよりは遅い……けれども確かに速い速度で、魔物との距離を縮める。
フルミリのように、物理攻撃でのゴリ押しではない、けれども物理攻撃を通すための手段。
魔法を付与できる武器を使い、魔力を通して、敵を斬る。
それを見せるためだけの、一撃だけに特化した、一本の貫く矢を思わせる、すれ違うよう放つ刺突を浴びせ……飛び出してきた不定形の魔物、その最後の一体は消滅した。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様、サリス」
「ああ、うん。おつかれ、フルミリ」
魔物を倒したその側まで歩いてきたフルミリに、手を挙げて無事を告げる。
膝をついたままのリーディが気にはなったが、彼と距離がある間にこうして声をかけてきたということは、自分にしか耳に入れたくない話をされるのだろうと分かった。
それぐらいの付き合いはあるつもりだ。
「あれが、彼の実力かい?」
「そういうこと。
私が使った魔法だって、詠唱短縮で使えてるのは、彼が作った魔法道具のおかげ」
ほら、とミスリルの短剣を、再びマントの内側へと仕舞ってから手袋を外し、その中指に嵌められている指輪を見せる。
「なるほど。詠唱せずに精霊を呼び出す魔法道具と、詠唱を短くする魔法道具。それに、精霊に直接魔法の指示を出すことが出来る能力、か」
「精霊に直接……?」
「彼がああして消耗することになった魔法だよ。いや、魔法、とカテゴライズして良いのかどうか、私にも分からないな。
一つの精霊にだけ魔力を流し込み、それに吸い寄せられるよう周囲に存在している精霊を束ね、そのまま魔法を宿した精霊を顕現化させることなく、同じ効果を発動させていた。
多分そのおかげで、そうした魔法道具も作れるんだろう。
おそらく彼は、私達以上に精霊が見えている」
「なるほど……」
答えながら、二人並んでリーディの元へと歩いていく。
「そんなスゴいことが出来る人間がいるとはね。エルフだなんだと持ち上げられているのが恥ずかしいぐらいだ」
「まあ、私達はまだ耳がちゃんと尖ってない、精霊との会話が満足にできていない未熟者だから」
この国でのエルフとは、精霊との会話がどれだけ出来るかで、耳が尖っていく。
当たり前にできるようになって完璧に尖れば、それはそのまま精霊を巧く操作できるという証であり、そうなれば外見も体内も老いないよう調節できるようになる。
サリスは普通のエルフで、フルミリはダークエルフだ。
しかし二人共まだ、耳は人間の耳とそう変わらないほど丸みを帯びている。
フルミリが少しだけ、サリスよりも尖り始めているぐらいだろうか。
それでも、並べて見比べないと分からない程だが。
「あんなこと、完全にエルフとなっても出来るとは思えないね。
自分自身を通ってくれる精霊ならまだしも、遠くを通っている精霊を、遠隔で繋ぎ合わせて手繰り寄せる、なんてさ」
むしろそこまで出来るからこそ、自分以上に魔物の感知が優れていたことも納得できた。
「サリスが、彼と一緒にいたがる訳だ」
「え?」
「これだけの実力者だ。魔法道具を作らせてもお金になるし、戦わせても足を引っ張らない。金の卵というべきかな」
「そういうのじゃないよ」
元相方のあんまりな言い方に、さすがに腹が立ってしまう。
「私は彼を、頼りにしてる。
ううん、頼りになるの、彼は」
「だが、今回が初めての、一緒の依頼だろ? それなのにどうしてそう言えるんだい?」
「直感」
「……………………ははっ」
思わず溢れてしまったかのような笑みだった。
「いや、悪い悪い。真意を汲み取りたいとはいえ、心にもない、失礼なことを言ったよ、サリス。
後でリーディにも謝罪しておくことを約束しよう。
要は、キミが彼に惚れた、そういうことだろ?
「ち、違うから! そういうんじゃないからっ!」
苛立ちが一気に吹き飛ぶぐらい、とんでもないことを言われた。
サリス自身でも分かるぐらい顔が真っ赤になっている。
「おや? なら、私が狙っても良いのかな?」
「そ、れは……ま、まあ、私が、決めることじゃないし……」
「ははっ、いやいや、サリスは可愛いな。
さすがの私でも、友人の想い人を盗りはしないよ。ま、彼からのアプローチがあれば、話は別だけどね」
「もうっ! フルミリはそういうの止めて!」
「これからも一緒に行くんだ。楽しみはあった方が良いだろ?」
「くんなっ!!」
時たま聞こえるサリスの声は、明るく弾んでいる。
膝をついたまま、自分の中の改善点を洗い出していたリーディにも届いた、そんな仲良さそうな会話が……彼にとっては、少し羨ましくもあった。
ブックマークをしてくれたお二方、ありがとうございます。
次の更新で最終回となりますので、もうしばしおつき合い下さいませ。