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ギルド手続きと復帰初依頼

「……よしっ」


 小さく息を吐き出すように意気込む。

 糸が見える与術スキルを利用しての装飾品作りも一通り終わり、身体も完治して、体力も元に戻った。


 前まで使っていた皮の胸当ては、サリスから装飾品作りの報酬としてもらった鉄の胸当てにクラスチェンジされている。

 まあ、顎を砕いた時に治療してもらうためにと運んだ病院で、口から出てきていた血に染まって汚れてしまったその代わり、という部分が大きいが。


 しかしそのおかげで、普通の衣服まで新しく何着か買ってもらえたのはありがたかった。

 前まではお金がないせいで、その日の内に洗って干して、その翌日にまた着るを繰り返していたのが、部屋に干したまま出かけることが出来る。もう生乾きのまま着る日なんてこない。


「おまたせ」


 と、ノックもせずに入ってくるサリス。

 しっかりと意識を記憶を持って目覚めた時から見ている、身体のラインを隠すようなゆったりとしたものではない。

 袖の短い服の上からマントを羽織った、パッと見た感じはただの魔法使いのような格好。

 ……なのだが、左脇の下から横っ腹にかけて切れ目スリットが入れてあったり、スカートは大胆なミニで、その中の下着は見られても良いようにしているのかチラりと見えても全く気にしていない感じがしたりと、所々の露出は激しい。


「……って、おまたせ?」


 サリスの言葉につい、リーディは首を傾げてしまう。


「俺はこうして完治させてもらったんだから、もう介護をする必要もないんだぞ?」


 つい昨日、もう介護は必要ないだろうと、彼女自身も言っていた。

 だから昨日は下の食堂で、快復祝いも兼ねたお別れ会とし、ちょっと豪勢な食事をしたりもした。


「え? リーディは、私が一緒じゃ迷惑?」

「ううん、それは無い!

 無いけど……それこそ、俺についてくるのなんて面倒だろ?」

「面倒なんてことないよ。私はあなたと一緒にいたいもの」


 その、自覚のない告白めいた言葉に、リーディだけが照れる。


「確かに昨日、お別れ会も兼ねて快復祝いしたんだけど、アレって単に、介護の終わりみたいなものじゃない?

 だから今日からは、一緒に働く冒険者として、あなたと一緒にいたいの」

「それは……俺としては願ってもないことだけど、それこそ良いの?

 俺は廃鉄級で、サリスは元白銀級。

 完治して介護した今となっては、多分ギルド長に話を通しさえすれば、また功績を集めてランクだって上げてもらえる。

 俺と一緒に行動してると、同じランクに戻るまで、かなり時間が掛かっちゃうことになるよ?」

「今のリーディを見てるとそうはならないと思うけどなぁ……」


 チラりと、自分の首からぶら下げている、リーディに作ってもらったネックレスを見る。


「まあ、私はそれでも良いと思って、あなたと一緒に行きたいと思ってるの。

 だからリーディさえよければ、これからも同じ冒険者として、パーティを組んでくれない?」

「…………」


 差し出された手を、ついジッと見つめてしまう。


「……ダメ?」


 その無言が彼女の不安を掻き立ててしまったのか、その声に戸惑いの色が混じる。


「あ、いや! ううん! 問題ない問題ない!」


 慌てて、その手を握り返して、同意を示す。

 ……少しだけ震えていた手を握り、彼女もまた、不安に思っていたのかと、リーディは初めて知った。


「…………」


 だから、さっき言えなかった……恥ずかしくて、言うのを躊躇って、つい無言になってしまったことを言おうと、そう思った。


「本当のことを言うと、俺もサリスと、もっと一緒にいたいと思ってた。

 一人で冒険できるようになったらお別れだと思ってたし、昨日のお別れ会もあったから、これからは別々の冒険者になるんだと決めつけてた。

 だから……言ってくれて、本当に嬉しい。

 ありがとう、サリス」

「……うん」


 えへへ、と二つに結んだ長い金髪を揺らし、嬉しそうに笑うその表情が、あまりにも可愛くて……。


「…………」


 気持ちが通じ合った嬉しさもあり、強く抱きしめたくなる衝動が生まれたが……リーディはそれを、グッと堪えた。




◇ ◇ ◇




 リーディの目が覚めてからのサリスは、廃鉄級がランクを上げるために受け続けることが定番となっている採取依頼を地味にこなし続けていた。

 元々の実績もあり、こうして怪我をさせられた当人が、彼女のおかげで完治できたと進言すれば、


「分かりました、サリス。それではあなたのこと、ギルド長に報告しておきますね。

 青銅級へのクラスアップはまた後日になるかと思いますが、ギルドに来た時に通達する形で大丈夫?」

「ええ、お願いね」


 こうしてすぐに、ランクアップが許される。


「同じランクなのはほんのちょっとだけになりそうね、リーディ」


 少し寂しそうな笑みでそう言われては、冗談でも嫌味めいたことが言えなくなった。


「まあでもこれが受理されたら、白銀級の人の付き添いで討伐依頼も受けれるし、すぐにリーディのランクも上がるよ」

「いや、俺まだ廃鉄級だから、そういう依頼に付き添えないんだけど」

「白銀級の口添えがあれば、廃鉄級でも討伐依頼に付き添えるのよ? 知らなかった」

「うそっ!? それは知らなかったなぁ……」


 というか彼にしてみれば、サリスと同じギルドに所属していることすらも知らなかった。

 ギルド【呪滅守護ガーディアン・カース】。

 魔物という呪いを滅しながら国家を守護するためのギルド、という名目で付けられた名前だ。


 そのためこのギルドには討伐依頼が多く、また国内遠方へと向かうことになる依頼も多い。

 そのまま数ヶ月は帰ってこなかったり、そのままその地でギルドの支部を介して依頼を請けることもある程の、大規模ギルドの一つだ。

 数少ない欠点の一つとして、ギルド長自身が未だにそれらの依頼を消化することがあるため、ランクアップなどギルド長の承認が必要なものなどが、中々承認されず溜まることがあることぐらいか。


 リーディの件はさすがにギルドの信頼問題なのですぐにギルド長へと報告がいき、すぐさま彼女の処分や怪我をさせたリーディの宿代などの問題がクリアされたが、今回のようなランク関係だと、ひと月以内に処理されれば良い方だろう。


「ま、まだ先の話だけど。

 とりあえずは今日も、採取依頼請けようか」

「俺に合わせて良いの? 白銀級についていけば討伐依頼請けれるんだよね?」

「まずはリハビリも兼ねないと。

 それに、作った装飾品も試しておかないとでしょ?」


 リーディが作った装飾品は二種類。

 一つは言わずもがな、持っているだけで暑さと寒さを均一にするアクセサリー。

 これは気温が落ち着いているこの近辺では確認のしようがないため、とりあえず二人ともネックレスとして装備しているだけだ。


 だけど、もう一つは違う。


 こちらは魔力を込めて方向性を定めるだけで、簡単な魔法が放てるよう調節した、使い切りではない魔法道具マジックアイテムだ。

 使い切りのものならばちょっと中央の街に出れば高値で取引されているが、何度も使えるものとなると、黄金級の冒険者でも数人しか持っていない。


 なんせ、一般的に流通することがないからだ。


 もし流通していたとしてもそれは、偽物とか、死体から漁って売りに出されたいわくつきの物とかになる。

 そんなレアな物を作って使えるとなれば、作って売っていくだけでかなりのお金が稼げるだろう。

 ……まあ、外の世界に憧れて冒険者になったリーディが、そんなもののために何個も何個も作り続けるはずもないのだが。


 という訳で、いつでも請けることができる <<近くの森の薬草摘み>> のクエストを請ける。

 コレは摘んだ薬草を道具屋へと持っていき、その量や質によって報酬をもらえる依頼だ。

 野生動物に等しい魔物が出てくるし、時たま本物の魔物が出てくることもあるので、命を失う覚悟を持って冒険者となったものしか受けられない。

 が、それでも難易度は極端に低いことになっている。

 怪我をする前はソレばかりを受けていたリーディにとっては、あまり簡単とは思えないけど。


「それじゃあ、行きましょうか」


 喧噪で溢れるギルド本部を出ていこうとするサリスの後をついていくリーディ。

 心なしか注目を集めている気がするのは、やはり元白銀級たる彼女の知名度故か。


 慣れない視線の中を何とか出て、ようやく街並みに戻ったところで、


「サリス!」


 前を歩いていた彼女を呼び止める声が、ギルド本部から聞こえてきた。

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