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目覚めてからやること

 その後結局、まだ万全じゃなかったのか、コップ一杯の水をもらうだけでまたすぐに眠ってしまった。

 けれども今度は丸一日眠るなんてことはなく、日が沈む頃には普通に目が覚めた。


「あ、おはよう。と言ってももう夜だけど」


 目が開いてすぐ、サリスの姿が目に入った。

 昼に見た露出の大きなものとは違う、落ち着いた服装。おそらくは部屋着のようなものだろう。


「あれ? 服装……」

「服? ああ、昼のはあのまま冒険に行くつもりのものだったから。さすがに、あんなので日常生活は送ってないよ。

 今日はリーディが起きてくれたから、街の中での買い物に留めたんだけどね。

 ほら、果物買ってきたんだけど、食べる?」


 それにお願いしますと答えると、サリスは果物を入れた編みカゴの近くに置いてあった果物ナイフを抜き、赤い果実──いや、リンゴの皮を剥き始めた。


「リンゴ……果物って、高級品だよね?」


 少なくとも記憶が混じり合う前は、名前すら覚えようとしなかった。

 商店に並んでいるのを見かけても、値段を見て、そこから記憶に留める努力をしなくなった程だ。


「高級品だけど、久しぶりに起きての食事なんて、コレが一番でしょ。

 それに貯蓄はまだまだあるし、この果物のバスケット揃えるぐらいなら、一年は大丈夫だから」


 リンゴ以外にも、バナナやキュウイ・オレンジなど、覚える努力を放棄したものが積まれていた。


「いやどれも本当高いものだったような……」


 少なくとも、こうして怪我する前は一つとして買えなかったものが、そこには山積みされていた。

 一日の稼ぎで買えないものをこれから口にするのか……と思うと、目も覚めるというものだ。

 ……今更、どうして起きてすぐ目に入った服装のことを口にしてしまったのかと、ちょっとだけ後悔した。


「……ちなみにサリスって、降格される前のランクってどこだったの?」

「あ~……まあ、それは良いじゃん」

「言いづらいってことは、結構高めか……。

 ……白銀級ぐらい?」

「……………………」

「……うそ……」


 まさかの当たりに、言い当てたリーディ本人が動揺した。

 ギルド内で与えられるランクとしては、上から数えて三番目。

 いや、一番上の魔鉱級が、国内に名を轟かせる功績を残したものにしか与えられない、文字通りの伝説級である以上、実質二番目だ。


 白銀級ともなれば、魔物討伐の依頼を一人でも請けられるようになる。

 そして白銀級の人がパーティのリーダーを務めるのなら、一つ下の青銅級をその討伐依頼に同行させることも出来る。実質パーティのリーダーが出来るようになるランクだ。


 ちなみに白銀級の一つ上である黄金級は、ギルドの立ち上げが出来るようになるランク。ギルド長になるために必要なランクがこことなる。


「それを……俺と同じ廃鉄級まで……」

「そうして気に病むから言いたくなかったのに……」


 皮を剥いて四つに切ったリンゴをお皿に置いてくれる。

 廃鉄級というのは、冒険者として登録したばかりの人が所属することになるクラスだ。

 全冒険者の実に半分以上がこれになる。

 ここで功績を上げることで青銅級となり、ようやく白銀級の付き添いという形で討伐依頼に向かうことが出来るようになる、ということだ。

 まあ、ギルドからの依頼さえあれば、廃鉄級でも討伐依頼に行くことは出来るのだが。


「分かってるだろうけど、コレは私があなたの顎を砕いたことに原因があるんだから、気にするだけ無駄だからね?」

「そうは言うけど、俺の傷は俺が治せたし……こちらとしても、その衝撃のおかげで色々と思い出せたから、実質プラスみたいなところがあるんだよな~……」

「……っていうかリーディ、あなたそういう自分の治療が出来るのに、今の私と同じ廃鉄級ってどういうこと?」

「どういうことも何も、今までの俺はそれが出来なかったんだよ。

 さっきサラっと言った色々と思い出せたってののおかげで、この能力に目覚めることが出来たんだ」


 厳密には能力以外にも色々と思い出せているのだが、それを言っても仕方がないので黙っておいた。


「命の危機に瀕することで目覚める能力もあるってこと。

 それまでは本当、魔法の才能が無かったから採取依頼をこなして、時たま出てくる魔物を相手に戦う練習してきただけの、本当に普通の廃鉄級冒険者でしかなかったんだから。

 それをサリスのおかげで開花して、新たなことに挑戦できるようになったんだから、むしろこうして償われること自体、本当は違和感がスゴいんだよね」


 好みのタイプだからもっと関わっていたいという自分勝手な気持ちがなければ、今頃本当にお別れしていても、リーディとしては何の不都合もなかったぐらいだ。


「だからそれは私が──」

「うん、昼に話した通りのことだから、気にしてない。

 でもそれはお互いに、ってことで。

 こういう話にしちゃったのは俺の反応のせいだから俺が言うのもおかしな話だけど、これからはもうこの感じは止めにしよう」

「──……うん、分かった」


 返事をもらったところで、剥いてもらったリンゴを一つ手に取り、一口齧る。

 リンゴ特有の酸味の後に、しっかりとした甘みがきておいしい。久しぶりの食事だったからか、頬が痛くなってしまった。


 しっかりと噛んで飲み込まないと胃がビックリするかもしれない。

 念入りに噛み続ける。


「で、リーディはこれからどうするつもり? それ次第で私も色々と方針を考えるつもりだけど」

「そうだな……とりあえず、しばらく面倒見てくれるなら、もっとゆっくり治療していこうかな」

「その方が良いよ」


 本当なら、昔のように採取依頼をこなしてその日のお金を稼ぎつつ、この新たに身に着けた能力──与術スキルの使い方を学んでいこうと思っていたが、生活面の世話をしてくれるのなら、体調を万全にしながら能力を学んでいくのも悪くない。


 それにこの方法なら……生活してくれている彼女にお礼をすることも出来るだろう。

 知識としてはある与術スキルの使い方が、本当に出来るのなら、だけど。


「そういうことならじゃあ……しばらく、お願いするね」




◇ ◇ ◇




 二週間目を覚ましていなかったという話をされ、心底驚いた。

 一度目が覚めて、割れた顎に向けて魔法を使うようになって、さらに一週間眠っていた。

 合計三週間。


 それまで身体を動かしていなかったからと、今はとりあえず、泊まっている宿屋の中の移動を難なくこなせるよう、リハビリを行っている。


 二階に宿屋・一階が食堂という構造上、お昼時はそれなりに騒がしいが、その光景を見に行くことはしない。

 階段を降りている時に足がもつれてしまってまた大怪我をしてしまうかもしれないからと、サリスに止められているからだ。

 今はとりあえず、二階を歩いても息が切れず、平気でいられるぐらいにまで回復しなければならない。


 だから昼にこそ、新たに得た能力──与術スキルの鍛錬に当てる。


 下が騒がしいからこそ、その騒がしさが気にならないほどの集中力を必要とするという、ある種の基準にすることも出来る。

 とはいえ、周囲に浮かぶ、自分にしか見えない透明の糸は、何かに集中しなくても常に見えている。


 集中が必要なのは、その糸の操作。


 元々あまりない魔力を消費することでその糸を操作し、自分が望んだ結果を発現させる。

 体内に魔力を宿した糸を挿れ、傷の治療や病気の治療に当てることだって出来た。

 これによって顎を治療できたのだから、あばら骨のヒビや指の骨折、果ては虫歯の治療まで完璧に出来るだろう。


 ……そしてそれは、本当にすぐに出来た。

 ただそこまで出来るようになるまで大量の魔力が必要だったため、さらに一週間程の期間が必要になったが。


 そしてそれが出来る頃には、サリスの付き添いがある時限定だが、食堂まで降りて、自分で食事を摂ることまで可能となっていた。

 付き添ってもらわなければ階段を降りることに不安があるとはいえ、中々の回復速度と言えるだろう。肉などの脂っこいものはまだ無理だけれど、スープや野菜サラダなどは大丈夫にもなった。

 決して、養ってくれているサリスに遠慮して、安いメニューを頼んでいるわけではない。

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