第八話 オネェによる美容指導
『……まあ、アタシのお話はこんなところかしら? 目を閉じれば彼の姿が鮮やかに浮かぶわ。今でもお変わりなく、健やかに過ごしてらっしゃるかしら……? アタシと同い年だったでしょうから、もしかしたら、もう、あの人は……』
「そ……」
『うん? ミーア。どうしたの?』
「そんなのあんまりですーーー!!!!」
ミーアはわんわんと泣き始めました。若い時分を最後まで国に尽くしてきた彼に、こんな結末はあってはいけない。マーリオの抱える悲しい過去をなんとしても断ち切らなくては。そうでなければ彼が報われない。
それまであまり協力的ではなかったミーアは決心しました。
なんとしても、彼の心残りを解消するのだと。
「決めました! 私、絶対に、マリー様の想い人を見つけてだしてみせますからねっ!」
『ありがとうミーア。 ……アタシの好きだった人が男性だって聞いても、アンタは軽蔑しないのね……?」
「? あたり前じゃないですか! 人を好きになるのに理由はないですもん」
『まあ……』
マーリオは感動したように瞳を潤ませ、そっと、胸に手を当てます。
『アンタって、優しくて思いやりのあるのね。アタシが見えるコがアンタで良かったわ?』
「うぅ……! マ、マリーさまぁーー!!」
ミーアは感激のあまり、マーリオに飛びつこうとして———そのまま向こう側へとすり抜けていき、壁に激突しました。
「ぎゃんっ! あ痛ぁぁぁッ〜〜〜!!」
『あらあら、大丈夫? ……んふっ』
「……………マリー様。今、笑いましたよね?」
『やあねぇ〜? 笑ってなんかないわよ? アタシの為に心を砕いてくれているアンタを誰が笑うもんですかっ…………んふふっ』
「ほらぁっ! やっぱり笑ってるぅーー!」
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半刻後、マーリオに促されて、ミーアは美容パック……もとい覆面を外してみる事にしました。
やや水分がとび、顔面にぴっちり張り付いた覆面を引っ張り上げると、彼女の素肌があらわれます。
鏡をまじまじと覗き込みながら、ミーアは頬をぺちぺちと触ってみます。なんとなく……いつもよりも、潤ってる? ような?
「う〜〜〜〜ん……? あのぅ、マリー様。これって効いてるんですよね……?」
『まあ、あったりまえじゃないの。アタシが自分で試してみたって言ってるでしょう? 効果は間違い無いわ? ね? アタシを信じて頂戴?』
「そりゃあ、まあ、信じたいですけど……なんだか目に見えての変化がないっていうか……もっと、こう……パックを取った瞬間、劇的に変化してるのを想像してたんですけど……これ、やる意味あります?」
ミーアのいじけた性根をいち早く感じ取ったマーリオは、即座に反論します。
『やあねぇアンタ図々しいんじゃなぁい? 大体ね! 今までお手入れを怠ってきた上にお肌ガサガサなアンタが、ちょおっと一回美容に手をつけたぐらいで変わる訳ないでしょう? 世の中そんなに簡単にできてないわよぉ? その粉吹き芋みたいなボロボロお肌から解放されたければこれから毎日やるのよ? いぃい?』
「……マリー様、言い過ぎでは……? まあ、うん。……分かりました。頑張ってやってみます。何事もコツコツと。ですもんね?」
『あら、いいお返事ね? アタシが手伝ってあげるから必ず上手くいくわ? 一緒に頑張りましょうね?』
「はいっ」
オネエによる美容の一歩を踏み出したミーアは、明るい笑顔で頷きました。
さてこれからは毎日この覆面美容パックをする事になるのです。念の為、替えようのパックをもう一枚チクチクと作成してから、その日はオネエの指示通りに動きました。
やれ、内側から美白を導くのだという薬草の採集に、保湿用のクリーム作りの為のミツロウ採集。それからミーアに足りていないタンパク質やお肌に効くのだという木の実の採集……と、採集、採集、採集の午後を過ごしました。
バンプキン領は周りに何もない代わりに自然が豊富です。今回手に入れた素材も、蜜蝋以外は雑草や渋過ぎてそのままでは食用に適さない木の実であった為に、染料としての認知しかされていないものばかりでしたので、領民達からも余り見向きもされていないのが幸いしたようです。
お金がないのならば工夫して自分で作りだすしかありません。やる気になったミーアはせっせとそれらを集めに周り、オネェの指示の元、調理場へ赴いては、保存の効くよう加工したり、湯煎してから冷やして固めたり、お鍋でグツグツと煮出しにかかりました。
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「で、出来ました……マリー様。ど、どうですか……? 上手く作れています……?」
額に汗をかきながら、少々自信なさげに眉をへにゃりと曲げたミーアは、隣でふわふわと浮かぶマーリオを見上げます。
「一応指示通り作りましたけどぉ……」と口を尖らせながらぼそぼそと言ってはみますが、相手は無言です。
マーリオは腕を組みながら、神妙な表情で彼女が作った品々をチェックして回りまります。全てを確認し終えた後、最後にお鍋の中を覗き込みます。
その様子は、まるで料理の審査員のように真剣で、どこかピリついた雰囲気を醸し出していました。永遠にも思えるような静けさの中、やがてマーリオはゆっくりと口を開きます。ミーアは緊張から、ゴクリと喉を鳴らしました。
『…………うん。合格よ? 偉いわ。よくここまで頑張ったわね?』
「あ、ありがとうございます! やった! 私やってやりましたよおぉぉ! これで、これで……び、美人になるよう頑張るぞぉぉぉ!」
『うんうん、そのいきよミーア? 大丈夫! アンタならやれるわぁ!! アタシのしごきについてこれたのはアンタが初めてよっ! さあ! 二人で力を合わせてあのドクズに目に物を見せてやるのよぉぉぉっ!!』
「おおぉぉぉーーーっ!!」
———と、休憩を挟まずぶっ続けで作業を行なってきた二人はおかしなテンションになりながら、お互いを鼓舞しあい、明日への戦意を高めていったのでした。