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第二話 オネェと対話しております

 先程図書室で世紀の大絶叫をした芋っ子令嬢こと、ミーア・バンプキンでしたが、案の定騒ぎを聞きつけた司書にこっ酷く叱られました。


 振られた後にオバケ(?)に出会い、間を置かずに司書に怒られるというトリプルパンチを決めた彼女が落ち込むのも無理はありません。可哀想ですが仕方のない事なのです。叱られている最中にも、ミーアはチラリと目だけで隣を見ます。


 そこにはふわふわと空中に浮かびながら、ミーアが叱られているのを興味深そうに眺める半透明のオネェがいたのです。


 ———いる。確実に。


 どうやらこのオネェは彼女だけにしか見えていないようでした。司書の方は見えていないようで、先ほどからミーアにお説教をし続けています。はよ終わってくれ。この場から一刻も早く立ち去らせてくれ! と切に願うミーアの思いを知ってかしらずか、話はなかなか終わりそうにありませんでした。


 もう一度、ミーアはちらり、と隣を見てみました。


「ひっ!」


 先ほどよりも距離を詰めたオネェは、顔をアップにしてミーアを凝視しています。逃さないのだと言わんばかりのその表情に、ミーアは心の中で祝詞を唱えに唱えました。どうか成仏してください! 再びチラリと横を見ます。オネェはピンピンしていました。まったく効いていないようです。


 オネェの幽霊はお説教をされるミーアを見るのに飽きたらしく、片手を顎に当てながら、あらあらだなんて喋っています。流石に夢であって欲しかった。なぜに私だけに見えるのか。霊感なんてないはずなのに! 等と思っている間にお説教はやっと終わり、しめたとばかりに走って帰ろうとしたところ……


『ちょっとお待ちなさい! アンタ! アタシが見えてるんでしょうっ!? お願い。話を聞いてほしいの。ね? アタシを助けると思って!』

「ひえ! す、すいませぇん! うち、宗派が違うので結構ですぅ!」

『やぁだ宗教勧誘じゃないわよぉ? ね? おねがい? いいでしょ? 悪いようにはしないから! ね?』

「ひぃぃえんりょしますぅ〜!」


 つい話かけられてうっかり返事をしてしまったミーアは後悔しました。

 ああ、見えていないフリをしておけば、今頃は自室のベットに突っ伏して思いっきり落ち込む事ができたのに。話を聞こうとしないミーアに痺れを切らしたのか、オネェはミーアの正面に回り込み、腹の底から捻り出したかのような野太い声で脅しをかけました。


『……言う事を聞かないと呪い殺すわよぉっっ!!』

「ひぃぃぃ聞きますっ! 聞きますから勘弁してください!!」


 もちろんこの後、すぐに駆けつけた司書からお説教をされるのは、想像するに難くないのでした。



 ———半刻後。


『じゃあ、まずあんたの身の上話から聞いてあげる。なんでもいいから話してご覧なさい? ね? いい子だから』

「ひっ! は、はい〜話しますう……」


 やっと司書から解放されたミーアですが、今度はオネェに捕まり話をするよう促されています。忘れがちですが、彼女はつい先ほど婚約破棄をされたばかりの傷心のご令嬢。硝子で出来たハートは木っ端微塵に砕け散り絶望のどん底にいるのです。


 そこへ再三に渡る司書からの説教に今度はオネェによる尋問。普段なら初めて見たお化けに飛び上がらんばかりに動揺するところですが、摩耗し切った精神のせいか、この非現実的な光景をすんなりと受け入れていたのです。


「実はですね……」


 ミーアは口を開き、ポツリ、ポツリと自身の身の上話をオネェに聞かせました。





『へえ〜なるほどねぇ。 ……ま、ありがちな話よねぇ。良くある婚約破棄案件だわ?』

「ひ、ひどいっ! あんなに根掘り葉掘り聞いておいて! あんまりです!」


 オネェに聞かれるがままに、これまでの出来事を1から10まで事細かく伝えたミーアでしたが、バッサリと一刀両断されてしまいます。相手の男に浮気をされて一方的に振られるだなんて、確かに吐いて捨てるほどあるお話ではありました。


『しかもあんたン所、ちゃんとした誓約書も書いてなかったんでしょう? よくそんなんで婚約者だなんて名乗ってられたわね? 却って図々しいんじゃあな〜い?』

「う……! それは、そうですけれどぉ〜! だあってぇ! しょうがないじゃないですかっ! ウチはドが付くほどお貧乏なんですよ? しかも地位だって男爵で低いし! こんなうちにお婿さんにきてくれる優しい人がどこにいるってんですかっ!」


 グサグサと容赦なく図星を突かれたミーアは、半ばヤケになりながら言い返していきます。もう目の前のオネェが幽霊だなんて事、彼女の頭からはすっぽりと抜け落ちていました。


『ごめんなさいね? 流石にアタシも言い過ぎたわ? ちょっと落ち着きなさい。 ……言っとくけどね、アタシの事見えるの、あんただけなのよ? 今アンタは、なにもない空間に向かって一人で喋ってる頭の可笑しい子……そんなふうに見えているわよ?』

「え……?」


 その言葉で、ミーアはやっと冷静になる事が出来ました。確かに周りを見回して見ると……まあ、司書以外誰もいないのですが、あんなにミーアを絞っていた司書はやや引きつった顔をしながら、カウンター越しから遠巻きにこちらを見ているのに気づいてしまいました。


 ミーアの顔も引きつります。まずい。ただでさえ迷惑がられているのに、学園でやっと見つけたこのオアシスから追い出されてしまう。

 我に返ったミーアは、ぎこちなく愛想笑いを浮かべながら司書に手を振ったのですが、バッ! と勢いよく目を逸らされてしまいました。


「ははは……」


 行き場を失った手を静かに下ろしながら、無意識にミーアの口からは乾いた笑いが込み上げてきました。


『さあて! そっちの話は分かったわ? じゃあ次はアタシの番ね! ……あれは、そう。アタシがまだ生まれたての小鹿のように繊細な心をもった、誰もが見惚れる美少年だった頃……』

「ちょ、ちょっと! ちょっと!  どこまで遡る気なんですか? 見たところ貴方、ここの学生ではないですよねっ!? 筋肉ムキムキでごっつい見た目だし、しかもオカマ……」

『ああ? 今なんつった小娘!!!』

「ひいぃっ! すみませんすみません!!」


 どうやらミーアは、このオネェの逆鱗に触れてしまったようでした。


 当たり前ですが、ミーアが言ったような呼び方は繊細な彼等の心を踏みにじるような、それこそ時代遅れの呼び方なのです。


 今時オカマと呼ぶとは何事か! 

 この前時代的思考の保守派の豚め! 

 オネェと呼ぶべし恥を知れ!!

 そうオネェが怒るのは火を見るより明らかでした。


 ですが、このオネェは切り替えが早いようで、腹の底に燻った怒りごと吐き出すよう、ふーっと細く息をついてから、気を取り直したように続きを話しました。


『……まっ! いいわ。今回は許してあげる 。 ……アタシの名前はね? マーリオ・ビスコンティーヌって言うのよ?』





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