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第十六話 司書をオトせ

 マーリオの隠れ家から帰宅し、二人はこれからの事を相談しました。


 マーリオの命が狙われている可能性がある為、彼の想い人を探す期間を設ける事。


 ビスコンティーヌ本邸を襲撃した人物は、順繰りに王都の屋敷という屋敷を虱潰しに探し始めるでしょう。すべての場所を調べ尽くすのに、多く見積もって三ヶ月ほど。それまでに見つけられなければ、マーリオは想い人を探すのを諦めるのだと言います。ミーアから離れ、元いた場所へ戻るとも、彼は約束したのです。


 そして、婚約破棄をしていた事を両親には打ち明けず、可能であれば、新たな婚約者を仕立て上げる事。


 短い期間でそれら全てを行わなければならず、ミーアとしては果てしない目標に目眩がしてしまいそうです。


 ですが、彼女自身にも悠長な時間は残されてはいない為、急いで行わなければなりません。彼女は彼女で、今年いっぱいで学園を卒業してしまいますし、婚約がダメになった事も、いつまでも秘密にはしておけないからです。


 彼女が手にした宝石箱の中身も、今は自分の為に使うのみに留め、全てが終わった後に両親へ渡すべきだともマーリオは言います。


 出所不明のこの大金について説明しようにも、ミーアの両親が納得するような答えを伝える事が出来ないのです。


 ミーアの外見についてですが、今の彼女は、やや栄養失調気味で不健康そうに見えてしまいます。家が貧しいからか、年頃の娘であるのに痩せぎすな彼女には、明らかに栄養が行き届いていない為、いくら外側から整えようとしても、上手く吸収されないので効果は薄い。


 とりあえず手軽に摂取できて栄養価も高いナッツを買うようにマーリオは指示し、空腹を覚えた時に食べるようにとミーアに教えます。


 この短い期間でどこまで出来るのか。いつにも増して、マーリオの特訓の手は厳しくなるばかりです。


『さあ! もっと腰を上げるのよっ! そう! そのまま型を覚えて。これが女豹のポーズよ? よぉく覚えておきなさい?』

「ぐ……っ! 意外と苦しい、です……! これって、本当に効くんですよね……?」


 ———と、今は隠れ家での宣言通りマーリオにしごかれているミーアは、自室で四つん這いの姿勢から猫のように伸びをするという不思議な体勢———もとい、女豹のポーズを行なっている最中です。普段使わない筋肉を使っているせいか、全身がプルプルと緊張してしまいます。


『3・2・1———ハイッ! 休憩していいわよ?』

「だあ〜! つ、疲れたぁ〜! マリー様ぁ、ちょっと厳しくないですか? もう少し初心者向けのやつをですね……?」

『ダメよ! 急いでやんないと時間が足りないんだからっ! アンタにはね、アタシがいるまでの間に教えられる事を全部覚えてもらわなくっちゃ! それにこれでも結構楽な部類なのよ? アタシが部隊にいた頃なんかね、早朝の素振りから始まって、腹筋背筋スクワットに外周100周のランニングだなんて当たり前だったんだからっ! それに比べれば楽チン楽チン!』

「それはまた次元が違うと思いますけど……」

『なにか言った?』

「いやっ!? なにも言ってないですっ!」

『そぉお? じゃあ次は白鳥のポーズね。 ほらほらもう休憩はおしまいなんだから早く立つの。それから片足だけで立ったまま大空を羽ばたくポーズをするのよ! さあ! アンタは今、大草原を羽ばたく一羽の白鳥よぉ! 大きく翼を広げて誰よりも高く飛ぶの! ほら! やってご覧なさい?』

「は、はぁい……」


 文句を言いながらも、ミーアは動物のポーズを模した体操を行ない続け、先程やっと解放されてから寝台に寝っ転がりました。

 彼女の頭上をふわふわと浮かび、神妙な顔で話すマーリオから、明日の計画について教わります。


 現状の手掛かりは、図書室での貸出記録のみ。こちらに記されているあの人の名前をなんとしても把握しなければならないのです。


 うつらうつらとしながら明日の予定をしっかりと頭のメモに記し、ミーアは泥のように眠りにつきました。



 __

 ____



 翌日、放課後特有の穏やかな空気を孕んだ午後、ミーアは図書室に赴き、本棚の隙間からそっと司書の様子を窺います。司書の方も彼女の視線が気になるようで、若干困惑しながらそちらをチラチラと見ては作業をしているようでした。


「あのう……マリー様。これって本当に効果があるんですよね……? なにやら困らせているみたいなのですが……」

『そうねぇ……レオンのやつが持ってた人心掌握術の本に書いてあったから間違い無いと思うんだけど』


『うーん?』と悩ましげに唸りながら、マーリオは頬に手を当てて考え込みます。今は、昨夜話していた作戦を実行している最中で、目の前の司書を対象としたものでした。彼の言う本の内容としては、相手の好感度を上げる効果的な方法として、とある記述が載っていたらしいのです。


 それは対象に頻繁に接触、もしくは視界に収まる事を度々行う内に、こちらの存在が相手の深層心理に刷り込まれていくというもの。そのような単純接触を繰り返していくうちに警戒心が薄れ、こちらへの好感度が上がるというもので、元より好かれていない相手なのだから、こうして地道に視界に入るようにしましょうか。というのがマーリオの考えた作戦でした。


 それよりも、なにやら聞き捨てならない事をこのオネェが言っていたような気がして、ミーアはおもわず聞き返します。


「……あのう。今の話、本当ですか……?

『まあねえ。ほら? 仮にも国のトップになる事を義務づけられていた訳じゃない? 自分の味方にして、使える人間はなんでも引き入れて使っとけ、みたいな感じなのかしらね?』


 聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がする……そう思ったミーアでしたが、頭を振りながら気を取り直し、ちらりと司書の方を伺います。


「……あ。 あの方、今私と目が合ってすっごく気まずそうな顔をしてましたよ……? やっぱりコレ、効いてないんじゃ……? はっ! そうだ! 王家の方も読んでいたのなら、従兄弟のマリー様も実績されてますよね? ね?」

『まあ……! ミーア、ごめんなさいね? ほらアタシって、黙っていても自然と人を惹き寄せていたでしょう? そんな小手先の技法なんて必要なかったの』

「あ、そうですか……」


 なにやら自慢のように聞こえなくもないけれど、今はマーリオを信じるしかありません。その日は本を借りる事もなくじっと司書を見つめ続けたミーアでしたが、遂に視線に耐えきれなくなった司書に追い出されてしまいました。


「……作戦失敗では?」

『大丈夫よ? 最初からうまく行くだなんて思ってちゃあ駄目。明日も行くわよ?』

「うーん……辞めた方がいいような……? 今度は怒られますよこれ」

『大丈夫、大丈夫。アタシを信じなさい? ね?』

「胡散臭い気がするけど……わかりました。ちゃんとやります」


 イマイチ納得いかないまま本日分のノルマを終えたミーアは、帰路へと着くことにします。なんだか言いくるめられているような気がしなくはないけれど、他に方法もおもいつかないのだからやるしかないか。なーんて彼女が考えていられたのも、その時までだったのです。




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