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第十三話 潜入、ビスコンティーヌ邸隠れ家

「……ここがマリー様のお宅ですか。 ……隠れ家っていうから、もっと小さいのかと思ってましたけど、ちゃんとしてるというか……なんだかすっごいお金持ちの雰囲気がしますね……!」

『んふっ! そおでしょう〜? 当時は結構高かったんだからぁ〜』


 少し得意げになりながら胸を張るマーリオの話を聞きつつ、ほへ〜っと感嘆の溜息をついたミーアは、この物置……もとい、隠れ家をまじまじと見上げています。


 そこは高級住宅街の近くにある木々に覆われた場所で、確かにマーリオが言うように、周りから存在を隠すかのごとく、ひっそりと建てられていました。


 こじんまりとした規模の建物ですが、長い年月を経てさえ品の良さを感じさせ、外壁は真っ白な漆喰で出来ているようです。そこへ純白の野薔薇が蔦を這わせており、不思議なことに、まるで中で眠る気高き貴公子を守っているかのようにも見えるのです。


 建物を囲む鉄柵などがない為に、確かに周りの人間からは、ちょっと品の良い小屋のように思われているのでしょう。


「わあ……! 野薔薇が咲いてるんですねぇ。素敵です」


 と、ミーアは思ったままを言ったのですが———


『ええ、綺麗よね。まるでここを守るように咲いているんですもの。 ……アタシが眠り姫みたいだって、思ったんでしょう? 分かるわ? アタシも自分でそう思うもの』

「いや思ってませんけど……? そういえば、見張りの方とかいないんですね……? 流石に無用心じゃないですか? ……本当に、この中にマリー様の体が眠ってるんですよね……?」

『そうよねぇ〜? 普通は誰かしらいる筈なんだけど……嫌だわ、サボってんじゃないかしら……?』

「ええ……」


 それはそれでどうなんだろうか。いや、誰もいない方が却って人目につきにくいからいいのかも……? だなんて、ミーアは考えます。


『こっちよ? ついてらっしゃい?』


 促されながら裏手に回った後、マーリオは『ええっとぉ〜?』だなんて言いながら裏口に置いてある石をじっと見ています。それは、ちょうど漬物石のような大きさで前面が苔むしており、マーリオがこの場所へ訪れなくなった年月を物語っているかのようでした。彼は手招きをしながらミーアを呼びます。


『あったあった! この石をどかしてみて頂戴? 今でもこの下に鍵が置いてある筈だから、これで裏口を開けられるわ?』

「ええ……そんなひと昔前のおばあちゃんみたいな隠し方して。 ……まあ、やってみますけどぉ……」


 ミーアはマーリオの隣にしゃがんで、指定された石をなんとか持ち上げてみます。そこにはマーリオの言う通り、土にめり込こみところどころ錆で覆われた、古びた鍵がありました。ミーアはそっと摘み上げ、目線の高さまで持ち上げて、まじまじと眺めてみます。


「うわぁ……本当に石の下に隠してたんですね……? これ、絶対に隠し場所変えた方が良いですよ。分かり易すぎて誰でも見つけちゃいますもん」

『そぅお?』


 だなんて言いながら、マーリオは頬に手を当てて悩ましげな表情をしています。


『……う〜ん。じゃあ、アンタが持っててくれるかしら? 現状、アタシとアンタの関係性を知る人間はいないんだし、そうしてもらえたらアタシも安心だもの。ね?』

「えっ……それぐらいでしたらまあ……持ってても、いいかな……?」

『ありがとうミーア。 ……さっ! 今度はその鍵で扉を開けてみて? アタシの身体は二階の自室で眠っていると思うから、階段を上がった突き当たりの部屋に向かって頂戴ね?』

「わかりました。それじゃあ、開けますね?」


 先ほど見つけた鍵を親指で撫でて、表面についていた土を落としてから、ミーアは扉の鍵穴へ小さな鍵を差し込みます。時計回りに捻ってみると、内部も錆び付いているらしく少々引っかかりましたが、なんとか回せそうです。



 ————ガチャ



 ギィ、と軋んだ音を立てながら、扉は開かれました。ミーアは一歩踏み出して、室内を眺めてみます。どうやら定期的に人の出入りがあるらしく、床には塵ひとつ落ちていません。


 換気もなされているようで、空き家独特の籠もった空気は感じず、丁寧に整えられているな、というのがミーアの感じた第一印象でした。


「中も思ったより綺麗ですね……! もっと、こう、蜘蛛の巣とか張ってるのかと思ってました」

『そうね……きっと、レオンが手入れをするように指示してくれたんだわ。掃除されてからそんなに時間が経っていないみたいだから、朝のうちに色々済ませてくれたのかもしれないわね? ……さっ、こっちよ? ついて来て?』

「あっ! マリー様、待ってくださいってばぁ……!」


 マーリオはふわりと上昇しながら、階段までの道を先導します。

 どんどん先へと進んでいくマーリオを見失わないように、ミーアは慌てて後ろからついていきました。



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