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第十話 新たなヒント

「…………惨敗でしたねぇ〜……」

『ええ、そうねぇ……やっぱり、昔の話過ぎたのよね。当時の人間だなんて、ここにはきっと誰もいないんだわ。潔く諦めなくちゃいけないのかもしれないわね……』

「そ、そんな、事……!」


 ほう、っと小さく溜息を吐きながら、マーリオは遠くを見つめていました。なにか慰めになるような気の利いた言葉をかける事が出来れば良いのに。そんな歯痒い思いだけがミーアの胸に燻ります。


 先ほどの女教師を始め、あの場にいた教師陣全員に聞いてみた結果はミーアが言っていたように見事に惨敗。やはりというかなんというか。40年も前の話で、しかも一生徒のその後の行方など、誰一人として知る由もありませんでした。


 ただでさえ幽体のマーリオですが、今はいつも以上に透き通っているような気さえしてしまいます。どこか儚くも見えるマーリオが、このまま大気に溶けて消えてしまうのではないか。ミーアにはその様に感じたのでした。


「マリー様! 元気出して下さいよっ! 最初はこんなもんですって。私の美容生活だってまだまだ始まったばっかりですし、目に見えての成果はこれからなんですよね? ほら、マリー様だって言ってたじゃないですかっ! すぐには効果は現れないわよって。とにかく一歩踏み出す事が大事なんですもの! ね? そうですよね?」

『…………そうね。ミーア……ありがとう』


 夕日に照らされて淡く微笑むマーリオに、ミーアはドキリとしてしまいます。中身はたおやかな乙女を宿してはいても、マーリオはその美貌から多くの人々を魅了してきただけあって、精悍な面立ちをした美青年です。今は透き通って実態を持たずにいますが、それを踏まえても目が眩む程美しくありました。


「さ! 今日はもう帰りましょう? 早く出なければあっという間に日が暮れてしまいますもの。ウチは馬車なんてありませんから急ぎましょ! ね?」

『そうね。 ……なんだか今日のアンタは頼もしく見えるわねえ……』

「ええっ! もぅやだなぁ〜マリー様ったら。今日はとことん弱気なんですから。あんまりしんみりしたまんまだと、流石に鬱陶しいです」

『…………やっぱりアンタ、そう言うところがダメねぇ〜! 一瞬アンタの事見直したってのに、今ので減点ね!』

「ええ……私、見直されるぐらい評価悪かったんですか……?」

『あったり前じゃないのぉ〜? それが出来てんなら、そもそも婚約破棄されてないわよぉ〜う』

「うう……ここぞとばかりに抉ってくる……! マリー様、やっぱり性格悪いです!」

『んまっ! 芋っぽい小娘のくせにアタシに歯向かおうって訳? ちょっと良い度胸なんじゃなぁ〜い?』


 少し元気を取り戻したマーリオを見て、ミーアはほっとしました。消えてしまいそうなくらい透き通っていた身体も、先程より色濃く見える様な気がします。


 良かった。元気になったみたいだ。安心したミーアは、マーリオに気づかれないよう小さく口元を緩めながら、隣で悪態をつくオネェと一緒にバンプキン邸への帰路についたのでした。



 ーーー

 ーーーー



 両親と共に夕食を済ました後、ミーアはマーリオの言いつけを守るべく自室に戻り、薬液覆面パックを被ります。半刻後に脱ぎさり、今はミツロウと油で作った保湿クリームを顔面に塗り込んでいるところでした。


『あら。ちゃんとやってて偉いじゃなぁい? なんだかアンタのお肌、ほんの少しだけ整ってきた気がするわ?』

「そうですか〜? えへへ」


 マーリオに褒められてミーアは嬉しくなります。割と厳しいところがある彼が褒めてくれたのですから、きっとうまくいくに違いありません。


「あのう、マリー様。今日の事なんですけど……学園には教師の他にも用務員の方がいるんです。確かその方、結構お年を召しているそうで、もしかしたら図書室の君の事を知っているかもしれません。私、明日になったら早速行ってみようと思うんです。この際ですもん、出来る事は全部やっておきたいですしっ! ……マリー様……?」


 無言になったマーリオの様子に気づき、ミーアは怪訝に思いながら隣を見上げます。当の本人は口元を手で押さえ、瞳を潤ませているようでした。


『まあ……! アンタ本当に成長して……あんなにも芋っぽくてぼーっとしていじけっぽかったってのに……! あの時のアンタが、こんなにも良いコに育つだなんてねぇ。長年アタシが一緒にいたお陰かしらね? ……なんだか懐かしいわね?』

「…………いや、マリー様と出会ってからまだ二日しか経ってませんよね……? なんですか急に。 はっ! ひょっとして、ボケました……?」

『んまあ〜〜??! 口が減らない子ねぇ〜? アンタ、折角人が褒めてるって言うのに。 オネェジョークもわからないだなんて、やっぱりまだまだねっ!』

「なんですかオネェジョークって。聞いた事ないんですけど? ……あれ? マリー様、なんだか顔が赤くありません? もしかして照れてます? あっ! だから誤魔化そうとしてたんじゃ?」

『…………』


 マーリオは無言を貫きました。ミーアに言われたのは図星でした。彼は嬉しかったのです。曝け出した本当の自分を受け入れてくれた上に、気にかけてくれたのが。


 ですがこのお嬢ちゃんに言ったら最後、恐らく……いえ、ほぼ確実に図に乗るのが見えていた為、冗談っぽく茶化しをいれながら、マーリオなりの感謝の思いを伝えていたのでした。


「マリー様……? 都合が悪くなると黙るのは良くないと思いますけど……?」


 ただ、余りにも遠回しに伝えたせいか、当の本人には全く伝わっていないようでしたが。



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