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第九話 復讐のゴングはまだ鳴らない

 ———翌日。


「やっぱり無理ですって! だって私、美容について実践してからまだ一日しか経ってないんですよっ!? 見た目全然変化してないじゃないですかぁ〜〜!」 

『だぁい丈夫よぉ? こういうのはね? 気持ちの問題なの。今アンタは最高に気分が高まりノリに乗っているわ? 強気な女ほどより魅力的に見える。もちろんオネェもねっ! さあ! 早くお行きなさい! 今すぐあのドクズに目にもの見せてやるのよぉぉぉ!!』

「いやそうかもしれないですけどぉ……! こっちはもうちょっと見た目に自信がついてからルイズ様をギャフンと言わせてやりたいんですって! ええと、その……はっ! そうだ! その方がよりカッコいい私を見せつけてやれるじゃないですかっ! ね? ね?」


 コツコツと実践あるのみ! と言っていた筈のマーリオでしたが、その意見を翻して今すぐ復讐するべきなのだとミーアを唆しています。が、ミーアはミーアで必死で止めにかかりました。


 それもその筈、彼女達から離れた先には、元婚約者のルイズと、見事彼を討ち取っていった子爵令嬢・ベアトリーチェが仲睦まじく歩いているのが見えたのです。


 いち早くそちらを見つけて落ち込むミーアの為に、マーリオは怒ってくれているようでした。彼からしたら、これから自分の手足となってくれる貴重な人材———もとい、協力者のお嬢ちゃんを害しているのが気に食わないからこそ苛立たしそうに睨んでいたのですが……当の本人がこう言っているのですから、マーリオに出来る事は、もうありません。


『……そぉ、ねえ』だなんて不満そうに言いながら溜息をつき、オネェは思案しています。元婚約者達がいなくなったのを確認した後、ミーアはマーリオの気を逸らす為、これからの事を提案しました。兎にも角にも、実践している美容の効果が出るまでは、なるべく直接対決は控えておきたい、というのが彼女の心情です。


「そ、そうだ! まずはマリー様の想い人を探しましょうよっ! 私がこの学園にいられるのも今年までなんですもの! 卒業したら気軽に来れませんし! ね? ね?」

『ミーア……そうね。アタシったらついムキになっちゃって、大人げなかったかもしれないわね。 ……こちらこそお願いするわ? そうしてもらってもいい?』

「はい! もちろんですともっ」


 ミーアの必死の説得が功を奏したのか、マーリオは素直に頷いてくれました。良かった。これで猶予が出来たとミーアはほっと胸を撫で下ろします。


 現在彼女は第三学年の16歳。14歳から三年間通う事になるこのノーブル学園は、貴族の子息にご令嬢が在籍する由緒正しい学園です。同い年のルイズとはクラスが違う為、慎重に行動すれば彼等に会うこと無く、平穏な学園生活を送ることが出来るのです。どうせやるのなら、トコトンやりたい。見違えるように変わった見た目の自分が現れたら元婚約者も驚愕するに違いありません。


「では! 授業が終わってから早速探しに行って参りますね! ちなみにマリー様? 念の為もう一度聞きますけれど、手掛かりは……」

『うふ。ないわ?』

「ですよねー……」


 これは片っ端から聞いて回るしかないかもしれない……主に教師陣から。そんな風に思いながら、ミーアは教室へと向かったのでした。



 ーーー

 ーーーー



 —————放課後。



「じゃあ、片っ端から話しかけに行きます。 ……まずは、職員室から攻めていきますね?」

『あら、頼もしいわぁ? じゃあ、よろしくね?』


 生徒もまばらに帰っていく最中、ミーアは夕焼けの窓辺を背景に宣言します。授業中、教師の話を上の空で聞いている傍ら、彼女は考えたのです。マーリオの思い人を探すにしても、もう40年経ってしまっている事。


 当時の事を知っている人などほぼいないと言っても過言ではないでしょう。生徒などは間違いなく知らない筈。ならば一縷の望みをかけて、教師陣に聞いて回るか、用務員のおじいさんに聞くか———というのがミーアが導き出した最善の答えでした。


 教師の年齢も20代から30代と若いものが多い為、半ばダメ元の感覚ではありますが、聞いてみるだけならば損はありません。

 脳内でそう結論付けたミーアは、鞄を引っ提げて、意気揚々と職員室を目指したのでした。



 ーーー

 ーーーー



「失礼します〜……」


 職員室に赴いたミーアは緊張の面持ちで静かにそーっとドアを開けます。


 いざ来てみたはいいのですが、普段は訪れる事のないこの場所の空気は、やはり、少し緊張してしまいます。


 室内を見回すと、隣同士でのんびりと世間話をしている教師やら、本日分の業務が終わったのか帰ろうとしている教師等様々です。


「あら? どうしたの? バンプキンさん。何かご用?」


 どうしようかと戸惑っているミーアに気がついたのでしょう。扉の近くにいた教師が話しかけてくれました。萌黄色の髪を後頭部で綺麗に纏めた全体的にキチンとした印象の女教師です。彼女が受け持つ教科は外国語。ミーアのクラスにも、もちろん授業の際に来てくれます。


「あっ……ええっとぉ、そのう……」


 勢いよく来たはいいけれど、いざ目の前に話すチャンスが来た途端、なにをどうやって聞いたらいいのかわからず、ミーアはモゴモゴと口籠ってしまいました。


 40年前に図書室に通っていた男子生徒の事が知りたいんです! そのまま聞いた場合のなんと不審らしい質問でしょう。おそらくぽかんとされる事請け合いです。


 けれど残念ながら、ミーアは他の聞き方を思いつきませんでしたので覚悟を決めました。もうどうにでもなれ。こちらは婚約破棄をされた身です。今更不審に思われたってミーアに失うものなどなに一つありません。


「あのう……ちょっとお伺いしたい事がありまして……40年前、図書室に通っていた男子生徒の事をご存知の方、おられませんでしょうか……?」


 聞かれた女教師はやはりというか、一瞬ぽかんとしますが、気を取り直したように親しみ深く微笑みます。


「まあ、変わった質問ね? てっきり何か授業でわからないところを聞きに来たのかと思っていたわ?」

「あ……えへへ、私、やっぱり変な事聞いてますよね……?」

「ええ。まあねぇ。ところでその40年前の学生さん? どうして探しているの?」

「あー……ううんとぉ〜……なんででしょう?」


 にへらと笑いながら、ミーアは渇いた笑いをしました。意外と良い言い訳がでてこなくて、気まずさから内心焦りっぱなしです。


 相手の女教師も困ったように笑いながら首を傾げています。お互いどうして良いかわからず妙な空気になりかける中、それまで隣でふわふわと浮かんでいたマーリオは、なにかを思いついたらしく、ミーアに話しかけました。


『そうだわ? アタシの想い人の事をこう伝えてごらんなさい? 私の祖父の友人で、安否を知りたいから探しているんです! ……って! 結構それっぽい理由でしょう? ほら早く!』


「あ、はい……!」

「うん……? どうしたの? 天井なんか見ながら話して。虫でもいたの?」

『虫ですってぇ? やあねぇこの女、ちょっと失礼なんじゃなぁい?』


 羽虫扱いされて少し不機嫌になったマーリオでしたが、そんな彼の様子をチラリと眺めるだけに留めたミーアは、女教師に話を続けました。


「あぁぁ! いえ、なんでもないです! ところでお聞きしたい事がありまして……」






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