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世界樹の根  作者: ににん
プロローグ 晴れない霧
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占術師ガリエナ

ハルト達が連れて行かれたのは、城のとある部屋だった。絨毯や調度品は同じように立派でも、謁見の間よりずっと狭く、落ち着いた雰囲気がある。そして部屋の片隅では、フードを被った背の高い人物が待っていた。


「ガリエナか。今、おまえを呼びに行かせようと思っていたところなのだ」


と王が言うと、長衣の人物は恭しく頭を下げた。


「勇者がついにこの城に到着した、と占術に出ましたので、こちらから参上しておりました。では、その少年が…?」


顔は見えないが声から判断すれば男性のようだ。


「いかにも。彼が勇者ハルト殿だ」


と王は答えると、ハルトを振り返った。


「紹介しよう。我が城の筆頭占術者のガリエナという」

「お初にお目にかかります、勇者殿」


占術師は灰色のフードを脱いだ。中からは若く整った男の顔が現れる。見慣れない浅黒い肌に長い銀の髪、しかしそれよりも目は右目が青、左目が金の色違いだった。


「勇者が現れ闇を追い払う、と予言した占術師というのもこのガリエナ殿だ」


とギーゼルも付け加える。


 「ですが、私は正確には未来を読み切れませんでした…。紋章持つ勇者が生まれるのが数年先のことだということも、紋章を得るのがまだ若い子どもだった頃だということも……。おかげで、ギーゼントン卿には大変なご苦労をおかけしました」


ギーゼルがハミニジの町で何年も勇者を待つはめになったのはそういうことだったのだとハルトは知った。


「さて、問題はこの黒い霧のことだ」


と国王がテーブルの椅子に座りながら言った。ついてきていた二人の従者が両脇に立ち、国王の正面にはハルトが、その左右にはガリエナとギーゼルが挟んで座る。

テーブルの上にはこの国の地図が広げられていた。王都ゴセリアは国の東に広がる平原の中心にあり、ハミニジの町は西の方の荒野にあった。


「黒い霧が発生しているのは、このあたりだ」


と国王は国の南側を示してみせた。


「この付近は森と沼が点在する湿地帯で、人はほとんど住んでいない。それゆえ詳しくは分かっていないのだが、このどこかから霧が湧き出ているのだ。湧き出た霧は上空の風に乗り、国全体に広がっている。」


その言葉を受けて、占術師が話し始めた。


「黒い霧は、わずかではありますが邪悪な闇を含んでおります。おそらくは南のどこかで邪悪なものが動き出しているために霧がそれを運んでくるのです。けれども、いくら占っても、が濃すぎるために、何が起こっているのかは見通すことがかないません。そして」


ガリエナはハルトを見つめた。


 「この状況を打開する方法を占盤に尋ねたところ、闇を破り霧を祓えるのは勇者と仲間たちしかいない、という結果が出ました。私だけでなく、城中の占者たちの結果も同様です。そして、占い通り、あなたが現れたのです……」


それを聞き、ハルトは少し考え、


 「霧は本当に邪悪なものの仕業なのか? 城の前に集まっていた連中が話していたが、隣のユング帝国からの魔法攻撃っていう可能性は?」


ギーゼルは眉を上げ、国王は静かにうなずいて、


  「そう噂するものはある。城の貴族の中にさえ。だが、そうではない」


引き継ぐようにギーゼルも、


  「ベールカンとユングは二十年以上前から和平を結んでいる。国境では確かに小競り合いが続いていて、収まったようには見えんがなあ。だが、今ユングはお家騒動でごたごたしている最中だ。この時期に和平を破って我が国に攻撃をしかけても、向こうには何の利益もないんだよ」


ガリエナも地図に目を向けながら言った。


  「加えて、闇の霧はベールカンの国のほぼ全土を覆いつくしております。これほどの規模の魔法を使えた人間は、これまでの歴史全てを振り返ってもいません。これは人間の魔術ではございません。もっと大きな闇の仕業に違いないのです」


  「それはそれで、ぞっとしない話だ。人間相手ならよっほどやりやすいんだが」


とギーゼルが渋い顔をする。

ハルトはさらに考え込んで、また口を開いた。


  「俺、もとい私は確かに魔法の紋章を持っています。泉の精にも、紋章には莫大な力があると聞いてはいます。でも、私にはどうやればこの霧を祓えるのか分からないんです」


すると、ガリエナは何かを見透かすような顔で言った。


  「仲間を見つけなさい。そして、南を目指すのです。あなたたちが進む道は、いずれ必ず闇の中心に至るでしょう……」


まるでどこか遠い場所から響いてくるような、厳かな声でした。


  「その仲間はどう見つけるんだ?」

  「占術には北の山脈、と出ております。北のスヴォルト山脈のことです」

  「スヴォルト山脈? ドワーフどもの住みかじゃないか!」


 ギーゼルはあきれた顔で、


  「奴らは山中のあちこちに自分たちの町を作って、人間の世界には関心を示さないぞ。山の上で鉱石を掘って暮らしているんだ。地表が黒霧で覆われていたって困っていないだろう。そいつらが、ハルトの仲間になるとでも言うのか?」

  「私には何とも言えません。ただ、占術には北の山脈で勇者は仲間に出会う、と出たのです。それがドワーフなのかどうかまでは」


うぅむ、とギーゼルはうなった。


  「毎度毎度、ガリエナ殿の占いはいつも突拍子もなく聞こえるなあ。おい、ハルトよ、どうする? 北へ行ってみるか?」


ハルトは黙って二人のやりとりを聞いていたが、そう言われると、すぐに答えた。


  「もちろん行く。黒い霧をはらうためには、そうしなくちゃいけないんだろう?」

  「ただし、勇者殿は都を仲間と共に旅立ってはなりません。一人きりで、北を目指さなくてはならないのです」


とまたしても突拍子もないことをガリエナが言い出したので、ギーゼルはまたあきれた顔になった。


  「おいおい、このハルトに北の峰まで一人きりで旅をしろというのか!? 北の山脈までは一人前の兵士でも半月はかかる。しかもこの季節になれば北の山脈にはもう雪が降っているし、途中には猛獣や怪物が出没する森もあるんだぞ!?」

  「それが占いの結果です。」


とガリエナは相変わらず厳かな声で答える。

国王が言った。


  「わしの願いは、そなたに北の峰へ向かってもらい、南でこの黒い霧の原因を探って国に光を取り戻してもらうことだ。長い旅になるだろう。一部の街道には城の魔法使いが護りの魔法をかけたが、他の街道には手が回っていないゆえ、危険が襲いかかることもあるだろう。それでも、やってもらえないだろうか?」


国王の目の真剣なまなざしは、子どもを見る目ではなかった。

ハルトはすぐにうなずき返した。


  「それが自分の役目ならば、喜んで」


すると、国王は、


  「フルートには十分な装備を与えるとしよう。皇太子が子どもの頃に愛用していた魔法の鎧兜がある。強力な守りになるだろう」

  「盾には、魔法の鏡の盾を。そう占いに出ております」


とガリエナが口を挟んだ。


  「後ほど防具を届けよう」


と国王が言った。


  「今晩はギーゼントン卿と一緒にこの城に泊まるが良い。今夜はゆっくり休まれよ」


とたんにハルトが大きなため息をついた。


  「どうした、ハルト」

  「いや、今になって急にお腹が空いてきた……そういえば今日は昼も食べてなかったから」

  「これは大変でございます。一刻も早く食事を差し上げなければ、勇者殿は目を回して倒れられてしまうことでしょう」

  「それも占いに出ていたのか?」


 とギーゼルが呆れたように尋ねると、ガリエナはすまして、


  「占うまでもないことです。勇者殿の顔を拝見すれば、誰にでもわかります」


それを聞いてギーゼルは笑いながら立ち上がった。


  「陛下、それでは失礼致します。……来い。俺の部屋で何か食わせてやろう。」


ハルトは立ち上がると、ギーゼルと一緒に部屋を出て行った。

それを見送ると、国王はハルトに与える装備を準備させるために、召使いを呼ぶのだった



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