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魂喰いのアーシェ  作者: しんとうさとる
File5 戦禍の残滓

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4-1 死にたくなかったら避けろよ?

初稿:20/07/26



 空は快晴、夏の日差しは強く、しかし山を抜けてきた風は冷たく心地いい。

 いやまったく、私が知る限り王国の夏は最高だと思う。避暑地としてピッタリだ。余ってる土地に別荘地でも作ってやれば金と暇を持て余したセレブリティたちがこぞって購入してくれるだろうな。あくまで国同士が仲良しならば、という但書きが付くが。

 とまあ、そんな素晴らしい夏空の下に私はいて、これで酒瓶の一つでも手渡された日にはそこらの公園の芝生に寝っ転がって酒をラッパ飲みしてるだろう。


「死ねぇぇぇぇぇッッッッッッ!!」


 しかし現実は残酷である。残念ながら。

 私の足元は緑々とした芝生ではないし、降り注いでくるのはさんさんとした日差しでもなければ美味い酒でもなく術式と罵声の嵐である。

 何が起きているのかと説明すると、まあ何のことはない。元気の有り余ったミスティックたち――エルフたちのことだ――が、若さと使命感をこじらせて建物に立てこもった挙げ句、我々軍を相手取って権利拡大を声高に主張しているだけである。


「はぁ……元気なことだ」


 道を挟んだビルの三階から浴びせられる罵声を聞き、目の前で次々と私の防御術式に阻まれて一切の意味をなさない術式を眺めていると、青春を刑務所(ムショ)でいたずらに消費せざるを得ない彼らの未来が想像できて人生とはなんだろうと哲学的な疑問が浮かんできた。浮かんできただけで答えを出す気は毛頭ないが。

 まあ、それはともかく。


「隊長、そろそろ終わりにしようや。このまま待ってたってアイツら永久にぶっ放し続けるぜ」


 そうだな。結局、説得には応じてもらえそうにないしな。連中のレパートリーの乏しい罵詈雑言も聞き飽きたところだし、なによりそろそろ終いにしないと残業になってしまう。今晩はのんびり晩酌を楽しむと決めてるんだ。

 というわけで。


「ふっ!」


 防御術式を展開したまま地面を蹴り、際限なく飛んでくる術式の大雨の中を飛行していく。スズメ一羽通さないような密度で降り注ぐ術式と、防御術式に弾かれて上がる白煙の中を抜けて窓ガラスごしにビルの部屋を覗きこめば、エルフ連中が無傷の私を見てぽかんと間抜け面をさらしていた。


「敵の前で動きを止めるとは……ずいぶんと余裕だなっ!」


 ガラス窓を突き破って中へと突っ込み、散らばったガラスを踏みしめ着地。顔を上げれば、銃を窓の外に向けた状態で立ち尽くす連中と目が合った。

 にぃ、と自分の口が歪む。目が合った男が慌てて銃を構えるがもう遅い。

 男の銃身を逸らして懐に潜り込み、真下から子どもらしく(・・・・・・)笑ってみせると男の顔がひきつった。


「ここが戦場じゃなくって良かった――なっ!」


 胸を蹴り上げてやる。すると男の体が我ながら見事に弧を描いて頭から着地し、それっきり動かなくなった。グシャっとか音がしたが……死んではいないよな?


「……っ、この……!」


 あっさりやられる様を他の連中も呆然と見送ってたが、一人がハッと我に返って私に銃を向けた。だがな、そんな一瞬の自失でさえも命取りなんだよ、こんな状況だとな。

 術式が発射される前に男に接近。銃身を握って無理やり下に向け、男が振り払おうと重心を後ろに下げたところで脚を払ってやる。そうすればあら簡単。呆気なく男の体が宙を舞った。

 男が尻で着地するより先に後ろに回って羽交い締めにして盾に。そうすると取り囲んだエルフどもは銃口を向けたものの、目論見通りフレンドリ・ファイヤを恐れてか引き金を誰一人引くことは無かった。

 甘っちょろい、とは言わない。軍人でさえためらう状況だからな。とはいえ、この状況を見過ごしてやるほど甘くはない。

 腕の術式に魔素を注ぎ込んで横薙ぎに振るう。するとビル内に突風が吹き荒れ、連中を根こそぎ壁に叩きつけていく。そして、扉の前に転がって頭を押さえていた一人に向かって手をかざした。


「死にたくなかったら避けろよ?」


 私の前に展開された魔法陣を見たからか、まだまだ若いエルフの――といってもエルフなので年上なんだろうが――顔色がみるみる青ざめていった。

 そのエルフが這いつくばりながらギリギリ逃げられるタイミングを見計らって爆裂術式をぶっ放してやる。

 直前まで男がいた場所を中心に爆発が起きる。けたたましい爆音と爆風が吹き荒れて連中が築き上げていたバリケードごと入口の扉を吹き飛んでいくのが見えた。


「突入ッ!!」


 直後にアレクセイの号令の元で、私がぶっ飛ばした入口から部下たちがなだれ込んでくる。白煙が未だ立ち込める中で次々と立てこもりエルフどもが取り押さえられていき、煙が晴れる頃にはほぼ全員が床に押さえつけられていた。うむ、見事な動きである。


「……ん?」


 と、そんな中でどさくさに紛れて部屋の隅にいた一人がこっそりと逃げ出そうとしているのが見えた。

 部下どもは部屋の敵たちを捕まえるのに大忙しで気づいてないようだ。ぶっちゃけた話、ここで全員ひっ捕らえたところでどうせまた他の連中が似たようなことをしでかすのが目に見えている。なのでそいつを「幸運な奴め」と別に逃してやっても別にいいか、と個人的には思うのだが……


「まあそういうわけにはいかんよな」


 しかたない、手が空いた私が動くか。すっかり気を失ってしまった羽交い締めしてた奴をそこらに放り捨て、逃げようとした男へ向けて床を蹴った。男は接近する私に気づいて、慌てて入口から飛び出そうとしたが――


「ぶべらっ!?」


 「ばいんっ!」となんとも痛そうな音を立てて透明な壁にぶつかった。そのまま鼻血を垂れ流しながら仰向けに倒れ、入口からはニーナがそっと顔を覗かせる。そして足元で気を失っている男の姿を見て「ニィ」と私にサムズアップしてきた。


「まったく……」


 褒めてほしそうなニーナの頭をワシャワシャと撫で回してやってると、その後ろからさらに大きな手がニーナの頭をポンポンと叩いた。


「カミル」

「階段登りながら確認してきたが、逃げ出した奴はなし。外の管理は応援で来た第一警備隊の連中に任せてきたぜ」


 了解だ。なら外のことは気にしなくていいだろう。

 これで事件は終わり。連中を軍本部の留置場にまとめてぶち込めば一件落着。もっとも――この事件だけを見れば、だがな。

 足元に転がっていたエルフ連中が使っていた術式銃をカミルが拾い上げ、眺めながら訝しげに首をひねった。


「しっかし……連中、どこでこんなに武器を仕入れてきたってんだ?」


 カミルも口にしたそれが私も疑問である。

 人間よりよっぽど魔素と術式の取り扱いに優れたエルフのくせに術式銃なんぞ使ってんじゃない、と説教の一つでもしてやりたい気もするが、やはり彼らにとっても術式銃の速射性、連射性は魅力的らしい。連中が使えば並の人間よりもずっと強力な武器になるんだしな。

 しかしである。エルフとはいえ、たかが一般人がどうして――正規の、それも最新式の軍用品を持っているのか。

 これまでも事件の犯人が軍用武器を持っていることはあった。だがそれらはすでに型遅れのものだったり、或いはソードみたいな世代更新が遅い近接武器ばかりだった。今回とは話が違う。


「まだこないだ導入されたばっかのバリバリの新式だろ、これ。間違ってもこんなガキどもが手にして良いもんじゃねぇだろ」


 軍の正規品が一つや二つじゃなく大量に所持。他にも腰にはフラッシュバンのような魔装具も吊り下げられていて、どう考えても個人で購入できるようなものじゃない。これだけの武装ともなれば、コネもそうだが大規模な資金源が存在するはずだ。


「……少佐殿が言っていた不審な金、というやつか?」


 ミスティックどもの抗議活動の資金になった可能性はあるな。今はまだ学生運動の延長みたいなノリだが、下手をすると大規模なテロ組織の結成に繋がりかねんぞ。

 となれば、だ。


「アレクセイっ!」

「はっ!」

「私は本部に行ってくる。ここの後始末を貴様に任せる」


 こいつらを取り調べれば何かしら出てくるかもしれん。黒幕が間抜けじゃなきゃ辿るのは難しいだろうが、そこは少佐殿に頑張ってもらうしかあるまい。どんな強固な壁でもほんの些細なほころびから崩れるものだし、全容解明の糸口くらいにはなってくれるのを願おう。


「さて、本部に少佐殿がいてくれればいいが……」


 少佐殿のセリフではないが、現状誰が信用できるか分からんからな。諜報部の人間にもうかつに話すわけにはいかない。

 考えながら、エルフどもからリーダー役を聞き出していく。そしてあっさりと指さされた男を術式で縛り上げると、少佐殿が在室であることを祈りながら本部へと急いでいったのだった。







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