告白
「お爺様をお婆様と思うのは無理があります。」
「いやいや、そういう意味ではないよ。どんな馬鹿馬鹿しい話でもこの世にいないものに話すと思えばなんでも話せると思ってね。」
確かにそうです。
「わたしも、お前の話す事はエレナが話していると思うことにしよう。」
お爺様、キラキラ笑顔で見てます。これは、絶対に逃げれません。
お爺様も5年後に死んでしまう事も話さなければいけなくなるので覚悟を決めなければいけません。
「お爺様、今から話す事は事実と思わなくてもいいです。私自身の体験した事でも信じられないのですから。ですのでお伽話だと聞いてください。」
「よし、わかった。肝に銘じよう。」
「実は私は、一度死んで生まれ変わりました。」
やってしまいました。あれこれ考えた結果この出だしはまずいですね。しかし、お爺様は馬鹿にした様子もなく少しニヤリとした表情で言いました。
「ほう‥。中々、面白い話だ。興味深い。ミュゼは天命まで生きて後に死んで生き返ったのか?」
「いえ、17歳の時に火あぶりで処刑されました。」
「なに!?」
お爺様の顔が一瞬、凍り付き明らかに深い静かな怒りを抑えています。怒りの対象が私でなくてもこの場から逃げたいです。
そして、私は、お爺様が誕生日の日に野盗と狼に襲われて亡くなった事、12歳の時に王太子様の婚約者に選ばれた事、その後、いわれのない男爵令嬢の殺人未遂で処刑された事、そしてブルーラー家の全員が、処刑された事をなるべく細かく話しました。
「‥‥そして処刑された後、私は死んでしまったと思ったら朝、今の姿で目を覚ましました。お爺様には、辛い話だと思いますが‥」
と、いきなりですが、お爺様に抱きしめられてすごく苦しいです。
「身に覚えのない罪を着せられて処刑だと!?牢獄まで入れられたのだな?くそっ!なんて事だ!さぞかし辛かったであろう?苦しかったであろう?あーなんてことだ。すまなかった、お前達を守らず落ち落ち死ぬとは、情けなかった!」
私も、我慢してた涙が止まりません。お爺様は、暫く抱きしめながら頭を撫でてくれました。
そして、私の代わりにずっと言いたかった恨み事を言ってくれました。
はぁ、思いっきり泣いたらスッキリした気がします。
お爺様と私は、大分落ち着いたころ日も傾きかけたので、屋敷に戻る事にしました。
馬になりながら、お爺様が問いかけます。
「ミュゼ、あまり思い出したくはないだろうが、毒を盛られた男爵令嬢令嬢の名を教えて貰えないだろうか?」
「お爺様、構いません。前世の事を避けていては、いけないと思うので幾らでも聞いてください。毒を盛られたのはウィナード男爵令嬢のイリーナ様です。」
「ほう、当時、ウィナード男爵は王太子派であったか?」
「そうですが、とくに懇意にしていたのは王妃マリア様でした。」
「他に王太子のお手つきになった女性は?」
「王太子の侍女付のミランダ、ドナード子爵の令嬢です。バーナルドウィンター男爵令嬢、アナ様です。どちらも王太子の派閥です。」
「いずれも王妃と懇意にしていたのであろう。ふむ、では私がお前の誕生日の日に野盗と狼に襲われ死んだと言っていたが襲われた時刻は、夕刻から夜にかけてではないか?」
「よくご存知です。その通り、本当は夕刻までに到着でしたが屋敷までの道のりに崖崩れがあり迂回路を使ったらしく予定より大幅に時間がかかりその途中で襲われたと聞いております。」
お爺様、私の話をすべて信じていただいてるのかしら?
「お爺様、私の話を馬鹿げた話だと思わないんですか?」
「そうだな。確かに不思議な話だが、作り話しては出来すぎた話だ。とても5歳の夢物語ではないな。それに昔、エレナから聞いた話だが。エレナの血族には、遠い先祖に妖精の血が混ざってるらしいからな、不思議な事があってもおかしくない。」
確かに、お父様もお兄様を中性的なお顔で背は、高いと言えども体は細身で剣術に長けているのも頷けます。
「エルフの血ですか。」
「お爺様に話すのが初めてです。」
「一人で抱えて抱えて辛かったであろう。この先の話なんだが、お前はどうしたいのであろうか?」
この先の事は、なにも考えておりません。
全力で処刑と没落は回避するつもりですが、具体的にはまだ考えいませんでした。全て家族に告白して、国外逃亡?それでは、領地を見捨てなければいけません。
そんな事をさせてもいいのでしょうか?では、婚約回避は?もともとお父様が全力回避を働き掛けていたにも関わらず無駄に終わりました。例え王太子が拒否されてても通らなかったと思います。
答えに迷っているとお爺様から切り出されてしまいました。
「ミュゼの話を聞いた今現在、私は恐らく野党や狼に襲われ死ぬ事は、ないだろう。しかし、もし死ななければいけない運命なら別の形で死ぬであろう。王太子との婚約も回避してもだ。例え、他国に逃げてもだ。私は思うのだよ、この時期に戻されたのは処刑になったのは神の意向と違ってたのではないかと、この時点で、回避出来るからこそ戻されたのではないか?ミュゼしか出来ない事があるのではないかとおもうのだよ。」
私にしか出来ない事。前世で、出来ていなかった事があるって事でしょうか?
「まぁ、一番近い大きい出来事は、王太子の訪問であろう。」
「お爺様、私は、どうすれば良いのでしょうか?」
「私も神でないから分からないな。だが、今まで目を逸らしてたものを見てみるもいいのかもしれない。ミュゼ、お前は聡い子だが興味が無いものには表面的にしか見ない悪い癖がある。無自覚的にな。」
うっ、指摘が痛いです。そう、私は得るもの無ければ適当にあしらってしまう所があります。無自覚ではありません。
と、話しているうちに屋敷に着いてしまいました。この事は、暫くは二人の秘密にしようとお爺様に耳打ちされました。