平穏な日常
どうか、昨日のままでありますようにと願いながら、目蓋を開けると、どうやら心配無用なようで自室のベッドで過ごせたようです。
リサが、部屋から入ってきました。
「おはようございます。お嬢様、起きられましたか?」
「ええ。リサ、昨日は、よく眠れて目覚めも良くてよ。」
「それはようございました。昨日、酷くうなされてたので心配していました。きっと、ご主人様が、王都に行かれて留守だったのが不安だったかもしれませんね。」
と、話しながらリサはテキパキと着替えの準備に入ります。
今朝も、リサは、ブロンドの髪に丁寧にブラシを当てサイドを編み込んでいきハーフアップヘアーにまとめていきます。
リサが、これまたうんざりした顔で、
「本日のドレスも、まぁー可愛いらしいのですが、これが旦那様の趣味でなければ素直に称賛出来ますが、隙がないというか、毎日、毎日、良く選ばれるというか。このフリルの数だけ愛情篭ってる‥ですかね。」
リサの手にとってるドレスはこのブルーラー家の人が見たらあーお父様がえらんだのね。と、分かり易いドレスです。可愛いのですが、普段にしては豪華すぎ華やか過ぎの様です。
私は、個人的には、もっと動き易い物がいいですが、お父様が喜んでくださるのならまぁ、よしとしましょう。あまり着るものにこだわりはありません。
リサの手伝いにより手際よく着替えて、朝食の席に着くとお父様、母様、後から兄様が席に着きました。
今日もお父様が私を膝に乗せようとすると、流石に母様に朝から行儀がと窘められて渋々あきらめました。
食事後、お茶を飲みながら、お父様が目をキラキラさせながら言いました。
「アレクとミュゼの姿絵を描いてもらう事にした。昨日の、アレクがミュゼを抱き上げる姿がいいと思って‥アルバート手配と予定を組んでくれ。」
アルバートは、ブルーラー家の筆頭執事です。30歳半ばにして、切れ者の執事はかしこまりましたの一言で、準備が進められます。
兄様は、少し呆れていましたが同意した様です。
「まぁ、素敵ですわ。昨夜のアレクとミュゼの可愛いらしさは、目を奪われました。早く、姿絵見たいわ。」
母様、キラキラ目を輝かせながら言います。
「ついでと言ってはなんだが、私とアリアナの姿絵もどうだろうか?私がアリアナを抱きかかえて同じ格好でいいと思うのだが‥。」
母様の目の輝きが段々なくなり、静かにお茶をすすります。
お父様、母様にスルーされてますよ。
お父様、涙目で、
「アルバート、姿絵は、アレクとミュゼの分でいいそのまま手配してくれ。」
アルバートは、御意と静かにこたえていました。無駄がありません。流石です。
朝食後は、お父様は領地の視察と他国の貿易契約書の見直し、貿易商会の会合等々予定は、詰まっているので酷くうな垂れています。母様は、外国の方々の領地への訪問のお礼状やら社交の振分け屋敷内の管理報告やらで多忙の中、私と兄のお茶の時間と称する厳しいいえ、完璧なマナーレッスンと多忙の日々です。
兄様は、家庭教師を招いて朝から外国の勉強から算術の勉強合間に昼食、母のお茶時間と称するマナーレッスン剣の稽古、ダンスレッスンと忙しい日々。ブルーラー家では、兄の歳なると家庭教師も外国から招いて、外国語での授業になります。それも、剣術以外は、毎回、違う国の方からの授業、10歳になるまでに少なくとも5ヶ国は、理解出来るように学業を進めます。
私の、令嬢教育は、語学が中心になり剣術の替わりに刺繍などの授業が行われます。しかしながら、中身は5歳の子でなく17歳、兄様より年上です。
今の授業では物足りませんが此処は、我慢して大人しく聞くしかありません。
そんな日々を、何日か過ごして行くと今の生活が当たり前の事に思えてきてあの処刑台に立つまでの日々が夢に思える頃、夕食後、お父様、母様、兄様とお茶頂いて頂いた所、お父様が重々しい表情で、
「3日後ぐらいに父上、お前達のお爺様が屋敷に来ると連絡があった。」
「お父様、それは急ですね。早速に領地の統制の確認をしないとお爺様からあれこれまた、指摘がありますね。僕も剣術でまた厳しい指導されますね。前回は、ヒドラ蛇の討伐に連れて行かれて次はドラゴンだぁとぼやいていましたから」
と、兄様も難しい顔をしています。私は、お爺様にあえると心湧き立ちます。昔からお爺様は、大好きです。お婆様も生きていればと思いますがもう、私が生まれた頃には他界していました。
「お義父様は、ミュゼを特別可愛いがっているからミュゼは待ち遠しいわよね。さぁ、母様もお迎えの準備をしなければね。気持ちよく滞在していただかなければね。」
と、母様も嬉しそうです。女性陣からは、格段とお爺様は人気者ですよ。
ただ、何ていいましょうか。王太子殿下の滞在は、お父様も、母様も兄様もどうでもいい感じがしたのですが、お爺様来訪だとお父様も兄様も緊張するのですね。露骨過ぎます。
一日一日眠る恐怖から楽しみに変わっていきます。