前世から整理してみる(2)
今、思い返しても違和感が拭い切れません。
男爵令嬢の殺人未遂の濡れ衣を被せられたが、一体何の意味があるかいまだに分からない事ばかりです。
目的が、私から婚約者から引きずり下ろすのなら元々乗り気なのは、国王陛下だった筈です。わざわざ、男爵令嬢の命を晒して下手すれば毒を盛った真犯人が誰かに目撃されれば最後、もっと確実に引きずり下ろすなら男爵令嬢が既にお手付きなっているのであれば身篭るのを待つか、お手付きになった事で婚約を迫る方が確実で、安全な策に思えます。
考えられるのがブルーラー公爵家の、没落を狙ったと言う所から見るとこれも、不自然です。何故なら我が領地は、既に浮世離れしています。幾ら、お父様、兄様が優秀とは言えども王宮に仕える事すら望んではいません。寧ろ領地改革が、楽しくて仕方ない様子です。お爺様が残した課題に一生懸命取り組んでいる様子です。兄様も関わりたくて仕方がない様子で、王宮勤めなど行く様子もありません。
港がある領地なので上手く貿易を取りまれば潤います。潤った分、王都にも納税額が増えるのです。
幾らお父様が優秀でも領地で活躍した方が国益に繋がるのです。
王妃も誰が王太妃になろうが王太子しか興味がない様子で元々は、政治に疎く財を尽していれば何も言わない様子です。私にも何の関心もなくお人形のように微笑でいれば良しと言う様子でした。
もし、ブルーラー一族が政治に関わる姿勢でしたらまた違っていたと思いますが‥。
と、考えていたらリサが部屋に入って来ました。
「お嬢様、旦那様がお帰りです。暫くしましたら晩餐の用意ができますのでお着替えを」
「お父様、王都から戻られたのね。王都に何の用事で行かれたのかしら?」
今宵のドレスは、薄桃色の胸にリボンが付いた可愛らしいものです。きっと、お父様の指示したドレスです。お父様は、どうも娘を着替え人形の様に自分好みに仕立てるのが趣味だそうです。
私が生まれる前は、母様のドレスを選んでたらしく娘が出来とたんに私にシフトしたので母様は、大喜びで人形の座を私に明け渡してくださいました。
お父様のドレスの嗜好は決して悪くありません。流行をふんだんに取り入れてそんじょそこらの女性よりも遥かに趣味がいいと思いますが、もう少し落ち着いた色の方が私は好みです。
なんて、思っていたら思考が読まれたのか、
「さぁ、きっと王都で流行っている、奥様とお嬢様のドレスやら帽子やらアクセサリーやら見に行きたかったのではないですか?色々、お土産に荷物を沢山乗せて来てましたし、王都に行く前にお二人の採寸表持っていっていましたしね。近いとはいえ往復に5日程かかるところを旦那様が陛下に呼ばれたぐらいでは直ぐに行きませんよ。なんだかんだと先延ばししそうですね。」
リサ、毒を吐いてますよ。恐らく持ち帰ったお土産の量が半端ないのですね。聞かなかった事にしましょう。母様も今頃、リサと同じ顔で、荷物と睨めっこしていそうですね。
「さぁ、準備はできましたわ。お嬢様。思う存分、旦那様に撫で回されて、抱きしめられに行ってください。」
私は、眉先を少し下げながら
「リサも母様もきっと助けてくれないのね。」
と、渋々、食堂に向かうのでした。
今、私は夕食を食べています。何故なのか、お父様の膝の上で、正確に言うと食べさせてもらっています。
母様も兄様ももう、呆れています。母様は自分に被害がいかないよう、既に守りの姿勢です。
「父様は、本当は母様、アレクも膝の上に乗せたいのだが‥。」
兄様が、顔を引きつらせながら
「お父様、僕はミュゼと同じ歳の時に散々と乗せて頂いたのでミュゼにゆずりますよ。ミュゼ、大きくなる前にお父様の膝の上を堪能するんだよ。」
兄様、そんな遠慮要らないから、中身は大きいですから貴方よりも‥。
母様、お兄様と同じ表情で
「母様も貴方達が生まれる前にそれはもう、十分堪能したから‥ホッホッホッ‥」
母様、何のカミングアウトですか?
兄様が、少し真面目な顔で
「お父様、今回の陛下の会見はまた、ミュゼの事ですか?」
兄様の問いに答える前に私の顔を覗き込み(大丈夫だよ)そっと言ってから
「まぁ、そうだ。他にも頼まれ事もあったが、まぁ、それはたいしたことはない。
どうも、陛下はミュゼが気になるようだ。今回もミュゼも一緒に王宮へと言われたが体調が良くないと断ったが‥。」
と、兄様が首を傾げて
「断ったけど何か要求されたのですか?」
お父様は、少し苦い顔をしながら
「要求と言うか、来月に王太子殿下が我が領地にご訪問される事になった。三週間程滞在する事となった。」
私は、固まりました。
過去の記憶ですと確かに王太子殿下は、我が屋敷に滞在した記憶はあります。しかしながら、幼少時代だったので薄っすらぼんやりとしか覚えていません。
兄様が、少し動揺しながら
「王太子殿下ユーフリード様は、私より一つ年下で今年で9歳ですよね。」
父が、私の頭を撫で回しながら話を続けました。
「そうだな、ミュゼはまだ小さいから殿下の誕生祭に出席してないが、アレクは何度か会っていたな。」
「はい、しかしながら、常に王妃様がご一緒だったのであまりあまりお話は出来ませんでした。」
兄様の話にお父様は眉を少しあげて、相変わらず終始頭を撫でながら、
「今回の訪問も少し妃殿下とユーフリード様の距離を離すための事。もともと、お前達も親戚にもあたるし仲良くしてやって欲しい。」
ユーフリード様の話題の間、私は氷付いたようにビクともせずに指から震えが止まりませんでした。
私を一度は殺した、男がやってくる。