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プロローグ

(もうすぐ死ねる‥やっと楽になれる。)


そこには、両腕を十字の杭に縛られた少女の姿があった。

かつては、誰もが羨んだ美しいブロンドも今では、肩まで切られ艶のない白髪になり、深緑の瞳も虚な死人の目、薔薇の頬は青白く唇も血色も消え失せ、それでもなおかつての王太子の婚約者であった少女は、気高く見るもの魅了する美しさは残されていた。

「あの世で、己の犯した罪を後悔するがいい!」

かつては、少女の婚約者であった王太子からの冷たい言葉を合図に火を放たれた。

足元に藁を敷かれ火を放たれた。いっそのこと断頭台の処刑であれば一瞬で、あの世に逝ければ苦しまずに済んだのにと、もうすでに考える気力のない中、少女は思った。


少女の名は、ミュゼット•ブルーラー公爵令嬢、この国ユラン王国の王太子の婚約者である。身に覚えのない男爵令嬢暗殺未遂の濡れ衣を着せられ主犯とし捉えられたのはつい一月前の事、裁判も一方的な王太子の言い分で死刑の判決が出てしまい。来月には父、兄、母、と順番に死刑が言い渡されている。

ブルーラー公爵一族は、頭脳、剣術とも長けており、王族中でも一目置かれていた。

ミュゼットもその例外でもなく、容姿ばかりでもなく社交界でも一目置かれる存在であり、王太子の婚約者として白羽の矢が当たる事は、誰もが肯ける事であった。


ブルーラー公爵ことヨハネは、ミュゼットと王太子の婚約を懸念していた。と言うのも王太子の性格は、将来の国王になるには視野が狭くその原因も王太子の王妃生母マリアの存在が大きかった。マリアは、独占欲も強く王太子の事になると事あるごと口挟むが政治の事は、疎いうえ浅い入れ知恵を王太子に吹き込んでいた。既に王太子を諦めていた国王陛下にとって、ミュゼットは将来王太子を支える王妃になる事を期待されていた。王妃マリアにとっては邪魔な存在であったのであろう。ましてや、ブルーラー一族が政権を握る事があればこれまで通りに好き勝手は出来ない。邪魔な存在になる前に消し去ってしまいたい存在であった。

ブルーラー公爵、ミュゼット父ヨハネは、敢えて娘も一族も王都の政治の真っ只中におかなくても豊かな領地で堅実に過ごせば良いと考えていた。娘ミュゼットも将来は、文官か騎士の中で堅実な男に嫁がせて裁量を発揮すれば安泰だとも思っていたが、国王陛下に目をつけられてしまった。

幸い、王太子は、出来過ぎた娘の事に劣等感があるようで暫くすればどこか別の令嬢に手を出して向こうから婚約破棄してくれれば幸いと思っていたぐらいだ。

ヨハネの見解は、誤りではなかった一点を除いては‥。


一点を見逃した為、マリアに足元を救われミュゼットを殺人未遂の犯人に仕立て上げられてしまった。

そして、今まさに刻刻と火の手がミュゼットの足元に及ぶ。

(お父様、お母様、兄様、会いたい‥)

少女ミュゼットは、煙に巻かれる中、顔を上げた。

壇上の上から、全て意のままに出来る王太子の薄ら笑う姿を‥。

王太子の王としての器は小さくても、漆黒の髪、漆黒の目、誰もが彼の容姿を称え、魅了する存在感は、王族ゆえ培われたものだろう。自分を処刑まで陥れた相手だが、最後におもった。

しかしながら、ミュゼットは王太子の最後の笑みに隠された複雑な表情が読めなかった。


「お前は、最後まで我を見下した目でみるのだな。」


ミュゼットが、一度目の人生での最後に聴いた言葉だった。

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