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夏の出来事

作者: 中畑 恵

 野球部の一年生、夏休みは毎日素振りかジョギング。何時ボールを打たしてくれるかもわからずただひたすら先輩達からこき使われる日々。正直言ってもう限界だった、この厳しさに耐えかねて幾人かは部活を辞めた。俺も一時期はそんなことも思ったが他に入る部活もなく、かといって帰宅部も嫌だった。そんな渦巻いた気持ちでだらだら続けている俺は今日も学校の周りをジョギングだ。

 「あぁ。熱ぃ」

 口に出しても意味がないことはわかっていても、出してないとやっていけない。もう何周目になっただろうか。昇降口を回り特別教室棟にさしかかったとき、遠くから綺麗な音色が聞こえてきた。音の出所を探すとそこは最上階の音楽室だ。俺は立ち止まり、音のする方を見上げる。ちょっとの間立ち止まって聴いていると後ろから同じ部活のヤツが息を切らし、汗だくになりながら走ってくる。そいつは俺に気づくと今までだらしなく開けていた口を引き締め、眉をつり上げいかにも怒っているという感じで叫んでくる。

 「おい、お前何サボってんだよ。先輩に言い付けるぞ」

 何時の時代のガキだと思い、そいつに怒りさえ覚えながら「ゴメン、ゴメン」と苦笑を浮かべて話しながら走り出す俺は、その音色が気になって仕方なく、何度も後ろを振り向いては音楽室を見詰めた。

 次の日も俺は走る。昨日と同じ時間帯に同じ所を走るとまたあの綺麗な音色が響いていた。心地の良い音色はたまに音程を外す。それでも曲を奏でるそれが凄く気に入った。それから毎日そこを走る。部活の時間がずれた日は早めに来て、そこで音色を聴いていた。何の楽器かも、誰が奏でているのかもわからない。でも、俺はその音色に恋していた。

                       *

      

                       *


                       *

 

                       *

 今日も部活の時間がずれた。早めに来た俺はいつもと同じ木の陰に隠れてそのうまいとも言えない曲を聴いていた。すると俺を呼ぶ声がするので振り向く。そこには大きな荷物を持った音楽の先生が窓の向こう側でこっちを向いて立っていた。俺が近寄ると

 「これを音楽室のピアノの上に置いといてくれない?私これから会議なのよ」

 焦って俺に箱を預ける先生に「わかりました」と営業スマイルをばらまいて以外と重かった箱を音楽室まで運ぶ。俺はその時、期待に溢れていた。音楽室には俺の好きな音色を奏でている人が居る。気になっていたことが今日わかるのだ。

 階段を息を切らしながら最上階まで登り、重い箱を落としそうになりながら廊下を歩く。一番奥の教室が音楽室だ。近づくにつれ、音が大きくなる、1回深呼吸をしてドアを押す。その音に気づいたのか音が止む。こちらを向いたのは知らない女子生徒の顔、その手にはクラリネットが握られていた。タイの色が1年とは違い上級生だと言うことが見受けられる。俺は慌てて中に入ると荷物をピアノの上に置く。しれっとして帰ろうとも思ったが話しかけずにはいられなかった。

 「いつも、此処で演奏してますね。好きなんですか?」

 いきなり話しかけられた事にびっくりしたのか目を見開くが次の瞬間にはニコッと笑い、

 「ええ、好きですよ」

 と答えてくれた。それでも次には沈黙が流れた。それでも俺は良かった、なぜなら彼女と話せたからだ。本当ならば1分も経っていない沈黙は、10分も20分にも思えた。ふいに彼女が口を開く。

 


 「今日もいい天気ですね。」



 窓側を眺める彼女がとても綺麗で、またこっちを向いてニコッと笑う。

   



           それは俺が恋に落ちた夏の日の出来事・・・


〜END〜

 

 「初恋」を意識して書いてみたらこうなってしまいました。何となく名前も知らない子に恋をする。そんな切ない感じを書いている途中で出してみたくなったりしました。

 ホントはラストもっとハッピーエンドな感じで終わるつもりだったのですが気づいたらよくわからないオチになってた。

 ここまで読んでくれた方々に感謝です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 読む順番を間違えたのかも知れません。最近知ったので、『春の思い出』を先に読んでしまいました。物語の流れは好きな感じでした。 文章は、私の好みなのかも知れませんが、ひらがなで続いていく処に、も…
[一言] 私は、こうゆう話の内容が凄い好きで、でも・・・この二人は、最後には、両想いになっているんですか?なので私は、この小説が、も資本になっていたら買います!!
[一言] 状況描写はよくできてたと思いますが、これは続きが『必要』な物語のような気がします。この調子で続きを書けば、「最初の、恋の始まりもよくかけてましたね」と言えると思います。
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