第6話 入団試験4
「……はぁ、はぁ」
肩を大きく上下に動かし床に手をついていたファルのもとへ、リーゼが歩みよってきた。
「当然の結果だ。
勝てるとでも思ったか?」
このようなときリーゼはファルに対して慰めの言葉をかけてやることはない。
中途半端な同情は傷つけるだけだ。
ファルは無言のまま立ち上がり、壁際近くの椅子に意気消沈したまま腰掛けた。
「……準備は?」
いつのまにかナギトの手には片刃の剣が握られていた。
「いつでも……」
リーゼは表情を変えずに呟くように言った。
リーゼは右足を前にした半身の態勢のまま足を大きく開き、腰を落とす。
左手は鞘を持ち、右手は柄を包み込むように持った。
眼光は鋭くなり、ナギトの動作を睥睨するかのように見据えていた。
一方のナギトはリーゼが構えると正面中段に―――つまり正眼の構えをとる。
「……」
静かな呼吸のまま動かないリーゼにナギトは揺さぶりを掛けようと半歩前へ進む。
それに動じることなく、何事もないかのように眉一つ上げなかった。
(…ほう。ならばこれはどう動く?)
すると、ナギトはすり足でリーゼの間合いにゆっくりと足を踏み入れた。
刹那―――――
「…くっ!?」
甲高い音が辺りに響いたかと思うとリーゼはナギトの横を駆け抜けていた。
「遅い!」
言葉と動作が重なった。
「ぐっ!」
ナギトの声がすると左上腕部が浅く裂かれ血が舞った。
彼は素早く後方へバックステップし、距離をとった。
(居合いか…やっかいだな)
ナギトの頬に一雫の汗が伝った。
居合い―――鞘に収めた状態から相手を斬る、もしくは急所を仕留める技だ。
その技は疾風の如く、相手を一撃にて葬る一撃必殺。。
鞘から抜いた状態は死に体と呼ばれ、真の極意は鞘から抜かずに相手を圧倒することになる。
「……」
その極意の通り、リーゼは居合いの構えのまま眉一つ動かさずにナギトから視線をはずさずさなかった。
ナギト自身かなりやりにくいだろう。
一瞬でも隙を見せればそれこそ電光石火の居合いが彼を襲う。
防ぐか斬られるか。
その賭けはかなり分が悪過ぎるというか割りに合わない。
失敗れば待つのは『死』のみ。
「…一番やりたくない相手ね」
そこに呟きにも似た声が紡がれた。
ナキだ。
「はっ?」
それに右隣にいた男性兵士が反応した。
「一瞬でも隙を見せたらその瞬間にやられる…
まさに肉食動物が獲物を狙ってるみたいね」
語尾は緊張と畏怖で彩られた。
「…負けると?」
その答えは待っても帰ってくることはなかった。
1話で、収まりませんでした、、