8・ガソリンエンジンをつくろう
この世界にはまだ内燃機関が無いという。汽車ならともかく自動車があのデカさが標準ではどうしようもないな。
そこで、俺はスマホを取り出し、SDカードを漁った。この中には仕事用の資料が入っている。
俺の職業は農機販売。正確には少し違うが、まあ、細かいことは置いておこう。
SDカードに入れているのは、旧式のガソリン発動機のパーツリスト。こと細かく全てのパーツが記載されている。設計図ではないが、あの技術者ならば、これを見せれば何とかしてくれそうだ。
そして、これを使って作れる乗り物についてスケッチを書いておこうと思う。何せ、俺はこちらの字は書けないし、そもそも、存在しないものを文書で説明しても理解してもらえないのだから。
スケッチを書くといっても相手に伝わるように書くとなるとかなり手間と時間がかかる。 まず、俺の業種では定番の運搬車を書いたらそれだけで一時間を要した。これの乗用タイプや馬車への発動機搭載などをアレコレ考えてみた。
気が付いたら隣で見ていたはずの豊音は眠っている。仕方なたい、訳もわからない絵を描いているのを見ても楽しいのははじめだけだろうからな。机で寝られては邪魔なので、寝かせて掛け布団を掛けておいた。
さて、ガソリンエンジンで動かせるものは数あれど、輸送系以外はもう少しこの国をしならないと無理かなと思いながら考えてみた。とは言え、単気筒では知れたもので、あとは技術の発展を待つのが良いだろうか。
「巫女、祭司の準備を・・・」
女官さんが扉を引いてそう言って止まった。彼女の位置からは俺の陰で豊音は見えない。
「あ、今起こします」
俺は豊音を起こした。うん、なんで着崩れてるのかな・・・
「ん?なんじゃ」
目を擦りながら立ち上がる豊音。「失礼します」と入ってきた女官さんが豊音に近づく。
「巫女、まずは風呂へ参りましょうか」
「んー」
まだ完全に目覚めていない豊音は言われるままに、付いていくのだった。
さて、それはよいとして、技術者に連絡とらないとな。
流石に今日はこちらから連絡をしただけに終わった。やって来るのは明日になるという。仕方ない、既に夕方だもんな。
次の日、昼前に技術者が宮を訪れた。
朝も少し考えていたのだが、あまり自分の常識で考えても時代が違いすぎだろうと思い、農機やバイクなどは見せないことにした。
「高鉢さま、内燃機関についてのお話との事ですが、一体どのような?」
技術者さんの言葉は期待というよりも、呆れに近いものがある。はて?
聞いてみると、内燃機関の研究を行う者も居るが、成果は芳しくないらしい。
「私の世界では内燃機関こそ主流なんですが」
そう、疑問をかえすと、
「はい、確かにすまほの様に進んだ技術がある世界からいらした高鉢さまには普通の事かもしれませんが、今の時代ではきっと無理な技術ではないかと思うのですが?」
と、返された。
「そんなはずはないと思うんですが・・・、自動車の様な形で実現したのは私の時代では140年くらい前ですが、内燃機関自体の実用的な研究ならばその10年や20年前からあった筈なので、こちらでも可能ではないかと思います。取り敢えず、発動機の構造だけでも見てください」
俺はあまり乗り気のしていない技術者に取り敢えず、パーツリストを見せてみた。蒸気機関があれだけ発展しているのだから、無理は無いはずなんだが・・・
「え?これはどういうことですか?」
見せると余計に混乱している様だった。
「これとはどの辺りでしょうか?」
俺にはそれこそよくわからない。
「これですよ。この円筒内でピストンが動くとかなり圧縮することになりますが、一体なんなんですか?これでは無駄に強度を上げなければなりません。いえ、出来るか出来ないかで言えば、出来ますが、圧縮の意味がわかりません」
???何だって?圧縮しなきゃ効率よく燃焼させられないじゃない。
「圧縮しないと密度が低すぎて十分な燃焼を得られない筈ですが?」
「え?」
固まる二人。お互いに相手が何を言っているのか分からないといった状態だ。
「わかりませんが、まず、それは持ち帰って考えてみます。次に、この機関の燃料は何を使うのでしょうか?」
「ガソリンです。この機関にはそれが適していますから」
「ガソリンとはなんでしょうか?ガスの種類ですか?」
あれ、まず、ガソリンは通じないらしい。何故、単位が通じてガソリンが通じないのか物凄く謎だ。まず、はじめからか?これ。
「以前、説明いただいた様に、屋島では石油が採れるそうですね。ガソリンとは、その石油を精製してできる油種のひとつです。精製時にガスの次に出てくる揮発性の高いやつですよ」
俺は現代のうろ覚え知識でそう説明した。
「あの危険な油種ですか・・・」
これはすぐに理解したらしい。石油があって、精製しているだろうから当然かな。
「あれを燃料にすれば火花点火が容易かもしれませんが、しかし、現状ではあれを大量に、しかも安全に流通させるのは難しいでしょうね。出来れば、車と同じ、もう少し安全性が高い白油ではダメなのでしょうか?」
技術者は腕を組んだり頭を掻いたり落ち着きなくそういうのだった。
「無いわけではないですが、ガソリンエンジンよりも馬力/重量比はかなり悪くなりますよ?農機具や固定使用に殆ど使用が限定されますが・・・」
確かに、白油、つまり灯油だろう燃料を使う機関はあるし、私の得意分野ではあるが・・・
「ちなみに、プラグとマグネトーは問題にならないのでしょうか?」
俺にとっては、内燃機関が無いとなると、内燃機関を支える点火系の存在が気になる。流石にガソリンエンジンや石油発動機を差し置いてディーゼルを開発出来るとも思えないのだが。
「点火装置とそこに電力を供給できる装置はあります。その点は大丈夫です」
これだけはハッキリと答えてくれた。それが誤解で無いことを祈るしかない。発動機だけでもこんな問題山積みとは、正直思っていなかった。
まず、内燃機関と圧縮の関係からか・・・、先は長そうだ。




