7・うどん県、それだけじゃない香川県
東があまりにも香川県過ぎる。
そうは言っても、主食はうどんではなかった。平野が随分と海没したことで水田が少ない。その為、本土と周辺の多島海では麦や芋が多く栽培されている。主食はこれ。当然、麦だから麺類が主食何だが、麺の太さは素麺から冷麦が主流。ん?何を言ってるか解らないって?うどんってのは、麺の太さの規定があるんだけど、東の麺類はうどんの太さに達しないという言い訳だよ、チクショウメ!
日本との大きな違いは宗教かな。仏教らしきものは入って来ておらず、自然信仰、祖先信仰が合わさった古いタイプの神道だね。豊音ちゃんはその頂点。かと思ったら詳しくはそうではないらしい。
あくまで、統治者一族としての祈りを捧げているだけなんだって。流石に宗教上の価値観だけに、簡単には納得や理解は難しい。
おっと、うどんの話だったな。
東の麺類はそうした宗教上の価値観から出汁に鶏を使う事が多い。ひとつには日本との気候の違いから発酵食品の種類が違うため、醤油や味噌が無いわけではないが、少ない。その為魚醤が主流を占めている。
当然、周囲は海だから魚もよく食べる。ただ、香川県の地形を見ればわかるが、大洋に面した南側は山で、リアス式海岸を形成している上に険しいため人口も少なく、北との交通も発達していない。カツオがたらふく食える環境に無いのは少し残念だ。
「最近、忙しそうだな。何をしておった?」
10日およぶお勉強を終えて食堂で東の食文化とうどん県の違いについて深く考察していた俺に豊音ちゃんが声をかけてきた。
すまん、格好付けたが、単に米食わせろと思っただけだ。
「ん?御前として最低限知っておくべき東の社会と歴史の勉強だよ」
「そんなの学舎で学ぶモノだろ?わしも宮に入るまでに習ったぞ」
そうか、俺が習ったのって小、中学生の授業か。ってか、それだけで務まる御前って地位って、なんだろうな・・・
「なんじゃ?わしだってちゃんと東の事を語れるぞ」
ため息をバカにされたと勘違いされたらしい。
「きっと巫女の方が詳しいよ。俺なんて10日で詰め込まれただけだぞ?」
「そうだの」
うん、威張るところはそこじゃないと思う。
「ところで、米ってあまり食べないのか?」
俺にとっては重大事だ。
「米か。食っておるではないか」
嫁よ、今、俺が食ってんのは素麺だ。って、まさか・・・
「これ、米の粉から作ったの?」
「そうじゃ、あさ食べる細いやつは米じゃ」
うっそ~ん、うどん県より進化してやがる。米まで挽いて粉にしないと気が済まないのか東人よ・・・
と、云うわけで訂正がある。素麺だとおもっていたのはベトナムのフォーだっけ?あれだよ、あれ。ただ、東では原材料が米だろうと麦だろうと区別なく「ぴっぴ」で片付ける暴力が横行している。おい、「ぴっぴ」ってなんぞ、うどん県民じゃないから何の事か分からん。
「そうだったのか・・・、挽かずに米粒のまま食べたりは?」
「冬に鍋で食べるぞ。これからの時季にあんな熱いものは欲しくない」
それ、俺の推理が正しければ雑炊だよな?マヂかよ・・・、恐るべし東。きっと麺通団もビックリの麺帝国やな・・・
「冬になったら食えるのか?でも、普通に炊くだけで食えると思うんだが?」
豊音ちゃんが変な目でこちらを見ている。
「そんなもの食べて美味しいか?」
「あ・・・(察し」
そうか、水田が少ないから品種改良進んでないんやな。そりゃ、収量少なくて食味も大したこと無いなら、色んなアレンジしようと挽いて練って延ばすか・・・
「うん、分かった。でも、食えるようにする方法あるから料理係に教えてよ」
こうして宮には鶏出汁で炊いたチキンライスと鯛のアラで炊いた鯛めしがメニューに加わった。
「健太、これ美味しい。これすごい」
数日後、鯛めしを食べた豊音ちゃんは跳び跳ねて喜んでくれた。うん、米粒飛ばしながら抱きつかないでね?
勉強が終わった訳ではなく、国際関係事が続いているが、それはまたの機会にしようか。
現在進行形の話なので情勢の説明が主だった事もあり、大臣府の会議に臨席する形が取られたので忙しさもなかった。
要するに暇な日が増えたのだ。
その日も朝食の後は充電器の具合を確かめたくらいでやることが無くなった。聞いてビックリ。宮の照明はLEDになっていた。多少薄暗いからランプやロウソクだと思ったら、あまりうまく拡散させる技術が無いらしく、今のところ反射板を使うことで誤魔化しているらしい。スマホのライト並みの照明にはまだ10年はかかると技術者が言っていた。
「それはなんじゃ?」
今日は昼食の後に豊音ちゃんが部屋に付いてきた。今、俺が見ていたのは昨日、技術者からもらった蒸気自動車の図面。俺は開発する方じゃなく整備する方の技術職だから、これをどう進化させるかと言われてもちょっと困る。整備性や多少の改良点くらいしか意見できないだろうな。
「宮から都に乗って行ってる車の図面だよ」
豊音ちゃんは「へ~」といって覗き込んでくる。
「正直、俺にこれ以上どうにかするアイデアなんて無いんだけどなぁ」
俺はそう愚痴るしかなかった。小型高出力に?ムリムリ、高温高圧に耐える配管無しにそんなの出来ない。俺の世界には何か解決策があると勘違いしてる技術者よ・・・
「あのノロノロしか走れん乗り物か。わしはあの鉄の棒の上を走るキジョーシャの方が良いな。あれは速かった」
「あれ、巫女は汽車に乗ったことあるんだ」
俺がビックリして聞き返すとムスッとしてこちらを見る。ん?バカにした訳じゃないよ?
「健太、わしの寝所だけでなく、おぬしの部屋も名前で呼んで構わん」
あ、そっちか。
「で、豊音は汽車に乗ったことあるの?」
「宮に入る前に一度主基の社に詣でた事がある。その時に乗った。本当はその次は象頭の社にも行こうと父に誘われとったが行けず仕舞いじゃ」
「で、キシャとは?」
まずそこね。
「汽車ってのは、鉄の棒、つまり軌条とか線路って云うんだけど、その上を蒸気で走る機関車の事だよ。あと、電気で走るのを電車と言うんだが、まだモーターが開発されてないみたいだね」
「へ~、健太の世界では汽車っていうのか、その方が呼びやすい」
喜んでくれて何より。
「それだと、あのノロノロも汽車になるのか?」
おっと、そうだな。
「う~ん、俺の居た世界には蒸気自動車はなかったからなぁ~」
「じゃあ、電気は電車か?」
「いや、電気自動車だな」
豊音ちゃんが首を傾げている。
「不思議に思うのはわかるけど、線路を走る機関車は略したけど、道路を走る自動車は略さなかったんだよ。自動車の方が数が多かったけどな」
あれ?何故、そこで首を傾げているのかな?
「あのノロノロが沢山?あれを速くしても通れる道がすくないぞ、健太の所はどうやってあれを走らせておったんじゃ?」
どうって・・・
「そりゃ、道を広げて、車が通れる様にしていたんだが」
「ちょっと想像できんぞ、都から主基まで100キロはあるのに、そこにあんなデカイのを走らせる道を作るのは難儀だろうな」
そりゃ、蒸気自動車だと大型車並みだからな。いきなりそんな高規格は金が掛かるし人海戦術では時間も掛かるだろうな。あっ・・・
俺はスマホを取り出した。すぐには無理だが、まずはじめの一歩はこれがあれば・・・