3・衝撃と笑劇
目覚めると車の中とか、薬のニオイがする白い部屋
なんかではもちろんなかった。
目を開け、少し記憶を辿る。会社帰りに事故ったらJCの寝室に放り込まれて名前を教えられた。うん、他の事は忘れて構わないだろう。
部屋を出ると昨日とは違う仲居さんが居た。
「おはようございます。高鉢様」
ずっと居たんだろうか?そんな疑問を飲み込んでトイレや洗面所等を聞いてみた。
「畏まりました。こちらへ」
きれいに礼をし、先導してくれる。
夜は気にならなかったが、普通ならあるだろう窓が無い。正確には、人間の顔の高さまでは壁で頭より高い位置に明かり取りがある。お屋敷とか宮殿よりも刑務所ではないかと思える造りだ。これも異世界造りってヤツなのか?
「こちらになります。ここには男性用はございませんので、お気をつけください」
どゆこと?疑問に思いながら中に入る。和式だ。昔の和式だ。以上!
歯磨きは竹を加工した歯ブラシ?いやハケに塩を付けるらしい。もちろん、手洗いも洗面も蛇口などはなく、水を貯めた桶からすくって使う。桶の底に穴が見えるが、水が抜けないのは謎だ。
仲居さんに教わりながらそれらを終えて、昨日と同じ食堂へ向かう。
時代劇なんかだと食事を主の部屋などへ持って来るのだが、この異世界では食堂で食べる西洋風だ。もう、下手に日本と比較するのは止した方が精神の為かも知れない。
食堂には先客が居る。もちろん、豊音ちゃんだ。
「おはよう、とよ・・・」
視線で口をつぐまされた。そうだった。他人に名前を聞かれたら、俺死亡だった・・・
「おはよう、健太」
ニッコリ笑うが、目が笑ってない。
「健太、昨夜言ったこと、冗談ではないぞ?」
はい、今、肝に命じました。
「わかった。それで、教えて欲しいんだが、ここは男子禁制だったりするのか?」
出来るだけ平静を装いながら話を逸らす。
「そうだな、男が無断ではいれば階位に関係なくコレだな。健太は特別だ」
コレとはアレですね。物理的に首チョン。名前を聞かれたら俺もソレなんだな。マジ危ない話だよ・・・
「窓が高いのも外から覗かれないため?」
俺は名推理だと自負している。
「そう。屋敷から塀まで距離はあるし、塀も高くて窓が普通の高さでも何も見えやしないけど、巫女の鳥かごとしての造りだ」
半ば諦めの様にそう言う。ねえ、さっきからまったく巫女の威厳が見えないだらけきったその姿勢は何?
「なんだ?わしは成りとうて巫女をやっとるわけでも、本来の定めでもない。本当なら巫女になるのは妹の宿命だったんだがな。母と妹は離宮の大火でな・・・」
「嫌なことを思い出させたな」
頃合いを見たように仲居さんがお茶を出してくれる。豊音ちゃんはそれを目で追いながら、ある程度離れてから再び語り出した。
「もう、4年。流石に泣く気力も恨む気も失せたわ。本来なら今頃は顔も合わしたことがないどこぞの院の子弟に嫁がされていたのだろうから、今の方が良いと思うとる」
そう言うとのっそり起きあがり頬杖で俺を見た。
「大人や院の連中は街で暮らしておったわしを忌み者みたいに思うとる。妹ならば向こうから婿が集って来ただろうが、わしは19になっても話ひとつ来なんだ。健太、わしはそなたが現れてホッとしたぞ、これで都のゴミを押し付けられんで済む」
そういって悪い笑顔で笑う・・・ん?今19と言ったか?JCどころかJK年齢ですらない?まてまて、きっと数え年だから満年齢ならば18か17だ。見立てが間違っていた訳ではない!そして、重大なことからはスルーさせてもらう。
豊音と呼べないから何と呼ぼう?話を逸らすか。
「ところで、名前を呼べないならなんて呼べばよい?」
ふと考えるそぶりをする嫁。
「巫女で良いのではないか?巫女は通り名を名乗らんからな」
「そうか、じゃあ、巫女。巫女に婿が来ないのは、誰もがお前の可愛さを知っているからプライドしか取り柄のないお貴族様じゃ釣り合わないからだ。気にするな」
嫁(多分、確定)が顔を真っ赤にする。
「べ、別にお主を選んだのは『伝承の者』だから都合が良かっただけじゃ、か、勘違いするなよ。お主など本来ならわしの目には留まらんのだからな!」
ツンデレアザース!!
「で、その伝承の者って何なんだ?俺は魔法や超能力は無いし、剣や弓だって使えないぞ?」
顔を真っ赤にしてまだ何かを呟いていたが、俺を見て
「詳しい事は何もわからん。我が一族に伝わる伝承で、国難を救うものが巫女の前に現れる。その時はその者に従えというだけで、詳しい事は何も残っておらん」
それさ、俺が伝承の者って証拠にならなくね?ただ偶然現れただけの異世界人ってだけで。俺の白眼に気が付いたらしい嫁は目を逸らして言う。
「わしの名を知ったのだから、お主は伝承の者。わしの婿のなり手がいないという国難を救ったのだ」
うん、すげぇ解釈だな、それ・・・
「ま、俺は彼女いない歴35年だ、因みに、合法ロリなら大歓迎だ。だから、俺もこの国を救うよ」
「ごーほーろりとは、なんじゃ?」
あ、食いつかれた・・・
「巫女、世の中には知らない方が幸せな事がある。巫女なんだからわかるだろ?」
疑いの目を向けられている・・・
「健太、巫女の婿が他の女子に手を出せばコレじゃ」
ド迫力で凄まれたが、それは見当違いだ、実害はない。ヒラリとかわしてやった。俺にそんな垂らし力あると思うなよ?年齢イコール彼女いない歴のヘタレだ。胸を張ってやる。
「な、なんじゃ、嘘ではないぞ」
自信に満ちた顔をまた誤解している。
「心配するな、俺には巫女しか見えない(なんせ、こっちから凸る度胸はないからな)」
また、嫁が顔を真っ赤にしている。あ、テーブルに突っ伏した。
「信用ならんから女官どもにはわしから言っておく!」
あ、やっぱり仲居さんじゃなく女官だったねのね。