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26・航試と西小島

 コンバインらしきモノは案外簡単に完成した。

 唐箕の上部を解放してふるいを取り付ける。これで葉や藁くずなどは吹き飛ぶ、ふるいから落ちてくるのは実だけになるはずだ。

 まずはふるいに向かう風と落ちた実を選別する唐箕としての機能を両立するために風車直後に導風板を設けて分流する機構をつくる。さらに、後方にもくずを外に飛ばす用の風車を設置。


 動力は機械の車輪から取り、風車を回すかたわら、クランク状の支柱を軸から出して、ふるいに接続、ふるいの動力にする。


 刈取り部であるヘッダーは前輪から動力を取ってバリカンの様な刈刃と刈取りとったものを集めるローラーやふるいに送る搬送部を駆動する。

 日本の自脱型と違って、茎や穂を掻き込む訳だから、ここで一次的な脱穀も行ってしまえそうだ。

ヘッダーの掻き込みローラーは綺麗な螺旋にする。


 さて、大豆で挑戦してみた所、簡単に実が落ちるのでこの構造でも使えそうだ。麦だとどうだろう?稲は絶対無理。普通型コンバイン用のこぎ胴を作らなきゃ「汎用」にはなりそうにない。



 さて、そんなことをしている間に例の軍艦が完成したそうだ。


 航試を沿岸で幾度か終えて、西小島まで行くというので西小島の巡察という口実で付いていく事にした。

昔の蒸気船と云うことで石炭炊くのかと思ったら石油が燃料だった。

 長期哨戒を任務にするので、最低限の人数で動かせるように石炭夫を減らしたかったらしい。そうして、石油ボイラーが採用されて、石炭夫を必要としない軍艦に仕上げたとか。


 何のためかって?長期間の食糧確保のためらしたい。人が少なければ、小さな食糧庫でも活動日数を稼げるかららしい。なるほど。


「右、射撃用意」


 ドンと音がして水柱が上がる。煙突間の大砲を撃ったようだ。


「撃て」


 艦橋の前にある砲塔が射撃を始める。

 水柱が挙がった辺りに、より小さな水柱が林立する。


「止め!」


 射撃が終わる。


「左、射撃用意」


 砲塔がするする左に旋回する。


 ドンと音がして水柱が上がる。


「撃て」


 砲塔が射撃を始める。


「止め!」


 航試と共に行われている訓練だそうだ。


「どうですか。なかなか素早く動くでしょう」


 そう聞かれたが、ゲームや実際に自衛隊の戦車が砲塔動かすところをみていると、あんな小さな砲塔をこの程度かと云うのが正直な感想だが、この世界からすれば、画期的な進歩なのもわかる


「そうですね。けっこうスムーズでした」


 予想したより軽快だったのは確かだ。

 ただ、後から見学させてもらった砲塔内はかならの弾薬が置いてあってビックリした。

相手は海賊船だから、無理に複雑な構造にして弾薬庫と繋げるより、必要な量を砲塔で保管しておいても問題ないという。ちょっとこれは心配・・・


 まる一日、航試に付き合っていたら島が見えてきた。その後方には更に巨大な山並みが見えるが、あれば小頭本島らしい。


 西小島に到着した。

 島はなだらかな稜線を描く山がひとつあるだけで、あとは丘陵地や平地といって良い。面積は小島というにはかなりあり、淡路島に近いだろうか。ここからわずか二十キロ先には小頭本島が見える。


 小頭本島は千メートル超えの岩山がそびえており、島の周囲もその大半が切り立った崖になっている。

 海面上昇以前は西小島と陸続きで、かなりの平野をもつ島だったらしいが、今やその面影はない。今の小頭本島では、最近発見された希少金属の採掘が主な産業で、僅かな谷あいでは昔ながらの牧畜や畑作が散見されるらしい。


 さて、西小島だが、上陸してすぐに懐かしさに出会った。東では大半が丘陵地の為、溜め池もあまり無いのだが、ここには沢山の溜め池が広がっている。これぞ香川県の姿だ。

 そして、気付いた。


「西小島ではかなり用水設備がきれいですね。本土ではここまで整備されていませんよ。場所によっては廃れているくらいで、これほど充実しているのは感心します」


 ここの河川はきれいに整備され、取水堰なども壊れていない。


「はい、我島では水は貴重ですので。小頭の恩恵で雨が降るとはいえ、小さな島ですから水はすぐに海へかけ下るので、こうして溜め池を作り用水を整備しなくてはいけませんから、過去から引き継いだ設備をしっかり維持しています」


 やはり、環境が違えば考え方も違うらしい。

 水が豊富で、しかも、嵐が少く洪水なども殆ど起きない綾川や土器川周辺は治水技術自体が廃れてしまっている。あの辺りだと苦労せずに堰と用水さえそれなりに整えれば農耕が可能だから仕方が無いのだろう。 

 それに比べて西小島では、小頭に雨が降る時季を逃したら僅かな水量しか望めない。しかも、小頭の雨は時おり嵐を巻き起こすらしい。大半が山脈で遮られて嵐が来ない本土とはかなり環境が違う。


 ちょうど、秋の麦撒きが終わった時季であり、多くの田畑は何も見えないか僅かな若葉が顔を覗かせているだけだった。

 乗ってきた軍艦は警備用の船で、物資輸送も考慮されているので唐箕と脱穀機を持ち込んできた。

 既に情報は伝わっているが実物はこの島にはまだ来ていないらしい。ちょうど良かった。さっそく村で実演してみた。


 西小島は作物の生産に向かない小頭を支えている。この島では過剰と思えるほどの生産量があるのはその為だが、それは結局、人手不足にも繋がっている。

 小頭で鉱山開発が盛んになるほど西小島から収入の多い小頭の鉱山へと人が流れてしまう。その為、西小島には働き手が減り続けている。ここでは本土と違って唐箕と脱穀機はこれから欠かせない品になるだろう。石油発動機が量産出来れば、揚水や耕作もより一層楽になる。ただ、それは更なる島離れを誘発しそうではあるのだが、島に繋ぎ止める方策が簡単には出てこない。


「これは良い。これがあれば農繁期に騒がなくて済む」


 多くの人は喜んでくれる。まだまだ高齢化とまではいかない集団を見て、なんとか自分を納得させる。


 そもそも、地方の政策は県令の役目で都の機関が直接介入する事ではないと豊音ちゃんからも念を押されている。最新機械を広めるのは良いが、本土を出たら、政策は「助言」や「提案」以上のことをしない方が良いと。


「本土の県令は都の任命だが、他の島は島を治める地位にある連中がやっておる。都に院が居るのは隠居ではなく、都への牽制や監視の側面もあるから、不用意なことはやるでないぞ」


 出掛けにそんなことを言われたしな。大人しくしていよう。

 そんなこんなで三日ほどかけて島にある主要な村を廻り、唐箕の作り方や使い方、脱穀機の発注先などを教えた。

 今回は軍艦の予定もあるのでこれで帰ることになる。


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